JCダンサーは夢使いをやめられない!

泉蒼

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第2話 捕われのツインタワー

2-5

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「あ~、おいしかった!」
 フードコートで、昴とお好み焼きを食べ終えた結菜は、その満たされたお腹を手でパンと叩いた。
「もしかして、ユイナちゃんっ?」
結菜は、その女の子の甲高い声に、ふと振り返る。
「……ええっと、誰?」
見ると、結菜が座るフードコートの椅子の背後に、同い年ぐらいの2人組の女の子が、少し興奮した面持ちで立っていた。
「あら、可愛いバックだね!」
 結菜が、2人が背負う、パンダとクマのリュックを見て褒めると、
「ふぁ、ファンなんです!」
「動画、観ました!」
 おさげ髪の方の子が、緊張で手をプルプル震わせながら、自分のスマホを見せてきた。
「こ、これって!?」
 女の子のスマホの画面に、フェンスを飛び越える自分の姿を見つけて、結菜は驚く。
「アハハ、結菜ちゃんはもう有名人だね!」
 昴は、自分の動画を観てくれている女の子たちにお礼を言うと、「そのサムネイルの女の子の正体は、まさに今ここにいる結菜ちゃんだよ」、と笑顔で教えた。
「ちょっと!」
 結菜は怒った顔で昴に言うが、内心は、少し自分が誇らしくて気分が良くなってしまう。
 そして、彼女たちに油性ペンまで渡されて、結菜は彼女たちに言われるがまま、「ホントに……私でいいの?」と、少し困惑しながらも、彼女たちのTシャツに小さくサインをするのだった。
「ありがとうございました!」
 笑顔でフードコートを後にするファンたちを、結菜はニンマリ顔で、席から見送る。
(ぬあ~っ、フォロワーが10万人を超えると、町で声をかけられるって噂は本当だったのね~っ!)
結菜は心の中でそう絶叫しつつ、予備知識として以前にスマホで読んだ、「インフルエンサーあるある」の記事を思い返していた。
「人はこうやって天狗になっていってしまうんやろな……忘れたらあかん。いつまでも首を垂れる稲穂かな、やで」
 椅子に置いたリュックからバクさんが顔を出し、結菜をたしなめる。
「ちょっとぐらい、いいじゃない! てか、有名人っていつもこんな気分なのかな!」
結菜は、お腹の底がくすぐったくなるような快感を、しばし感じていた。
だが。
「結菜ちゃん、どうかした?」
すぐに昴に、また独り言を話していると勘違いされ、結菜はブンブンと首を横に振る。
「な、なな、何でもないっ! ……じゃあ、そろそろ美術館に行こうよ!」
こうして、ランチを終えたふたりと1匹は、イーストタワー20階の美術館へ向かった。

美術館は、都内の景色が見渡せる、茶色を基調とした重厚感のあるフロアだった。
その美術館のチケット売り場の片隅に、きちんとした黒のスーツ姿の、メガネをかけた知的な女性が立っていた。
「僕の母さんだよ」
「こんにちはっ!」
結菜が挨拶すると、チケットを2枚手に持ったその女性を、昴が紹介してくれた。
「あら、本当だったのね。昴がいつも話すように、花咲さんってモデルさんみたい」
 結菜を見た瞬間、昴の母は優しく微笑み、なんとタダでチケットを渡してくれる。
「チケット、ゲ~ット! モデルだなんて、そんな~」
結菜は上機嫌でお礼を言うと、
「でも、学校でもみんなからよく言われちゃうんです」
 正直にそう話し、昴と昴の母を爆笑させるのだった。
「日本人の美徳は謙虚さやのに、結菜はその逆を行く末恐ろしい子や……」
 そんなバクさんの嫌みにも似たつぶやきが聞こえたが、結菜は無視して、
「さあ、未知なる体験へレッツゴーっ!」
昴と昴の母について、美術館の中へと入って行った。
「うわあ、縞々の壁……グルグルって、目が回っちゃいそう~」
館長である昴の母に美術館を案内してもらうその途中、視界がぐにゃりと歪んでしまうような不思議なフロアに到着する。
「結菜ちゃん、これがトリックアートだよ」
昴がその壁にかかったライオンの絵の前に走って行って叫んだ。
「ぬあ~っ、ホントに檻から猛獣が出てきたみたいに見えるわ~っ」
 結菜は、脳の錯覚を利用した数々のだまし絵を見た後、ようやく最新の施設へ向かう。
そこでは、VRゴーグルを使った、絵に描かれた情景のワンシーンを仮想空間で体験できるコーナーがあった。
天使の絵の前にはたくさんの人が並んでいて、人気があるのは一目瞭然だった。
そして、ついに、ドキドキしながら待つ結菜たちに順番が回ってくると、
「こ、これって!?」
結菜は天使の絵の前でVRゴーグルをかけ、腰を抜かしそうになる。
(夢と一緒だ! 私ってば、ホントに、空を飛んじゃってるみたいっ)
なんと、夢で見たように背中から天使の羽が生え、結菜は空を飛ぶことが出来たのだ。
そして、次に荒野の絵の前に並ぶと、銃を持ったカウボーイの恰好をしたガンマンに、結菜は銃撃されてしまう体験をした。
「ぬあ~っ、銃で撃たれちゃったのに生きてる……しかもっ、いつの間にか私も、カウボーイに変身しちゃってるわ~っ!」
「結菜ちゃんが見た夢は、この美術館のことだったんだね」
 VRゴーグルをかけて騒ぐ結菜に、昴が安堵の息を吐きながらつぶやいた。
「そ、そう! どれもこれも夢で見たまんまのシーンだわ」
結菜も間違いなく夢で見たシーンだと気付いて、
(……じゃあ、やっぱり夢で聞いたあの悲鳴も、VRか何かだったのかな)
ホッとひと安心し、最新の美術館を堪能するのだった。
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