関西白星一昼夜物語

ゆん

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 すると彬光がズカズカと近づいて俺の腰を抱き寄せた。


「おい、ちょっ……」
 
 
 そのまま唇を塞がれて、彬光とキスしてんのに彬光が相手じゃないっちゅう瞬間の混乱で、抵抗できひんかった。


「何……すんねん……っ」


 やっとの思いで彬光の体を押しやると、彬光は平然とした顔で「合うてるやろ?」と言った。


「慧斗、今悲しい。そういう時、彬光はキスする決まりや」
「そ、そんな決まり、あらへんわ!」
「彬光にはある。慧斗が悲しい時……怒った時、寂しい時も。キスして、セックスする」


 顔がカァッと熱くなる。なんやねん、決まりて!他人に改めて言われると恥ずかしいわ!俺が絶句していると、彬光が 「手をこうやって」 と言って俺の方へ手の平を向けた。不意を突かれて彬光の真似をすると、彬光が俺の手の平に自分のそれを合わせて、俺の目をじいっと見つめた。

 途端に、目が動かせへんようになった。吸い込まれそうっちゅうのはこういうことか、と頭の隅で考えてた。彬光とこんな風に見つめおうたこと……出逢ってから一度もないんちゃうか。だって恥ずかしいやん。そんなん、笑って目を逸らして誤魔化してしまう。

 でも今の彬光からは目を逸らせへんかった。何かの力が働いてるみたいに、じいっと彬光の目を見てしまう。ただそれだけやのに、エエ雰囲気で盛り上がってキスしてる時みたいな甘い気分が胸に広がって、体が熱くなりだした。触れ合った手の平から、ティッシュが色水を吸い上げるみたいにじわじわ熱が全身に広がって、しまいには息が乱れるくらい熱ぅなって……やがてさざ波が立つように全身の皮膚がざわめき、それがどんどん強くなってケツから脳天の方向へ、熱い衝撃が突き上がって行った。呼吸が止まり、目の前が一瞬白くなって、やがてそれが引いていく。
 見つめおうてただけでなんもしてへんのに、イッてた。いや、体の方はイッてないねんけど。勃起でギンギンのまま──


「これが俺らの世界のセックス。性エネルギーの共鳴や。体を使ってしたのは当然初めてやけど、なかなか興味深い」


 片頬で笑った彬光が自分も勃起ギンギンの股間のまま玄関に向かうから、俺は慌てて「お前、そのまんま出んな!」と彬光の上着を掴んだ。


「もう出んと。電車の時間が──」
「彬光を変質者にするつもりか!抜いてけよ!」
「時間が経てば収まるらしいし、股間をカバンで隠せば問題ないやろ」
「大ありや!想像してみい!デカい男が真顔で股間にカバン当てて歩いてんねんで!通報されるわ!」


 俺は全体重をかけて彬光を引き倒し、ズボンの前を開けてデカくなった彬光のんを掴み出して扱いたった。もちろん彬光のんを手コキしてやったこともフェラしたこともあるけど、こういう状況で処理のためにってのは初めて。宇宙人彬光は最初は興味津々な目でその光景を見つめ、やがて気持ちいいような切ないような表情を浮かべて目を閉じ、俺の手の中で達した。
 

 ほんもんの彬光はそんな顔せぇへん。ほんの少し眉間にしわを寄せて低く声を漏らすくらいで。だからその表情を見た時は新鮮で……気持ち良かったってことがはっきり分かるってええなぁって思った。


「肉体っちゅうのはすごいな。快感の度合いが別次元や」
「そぉか」
「今夜は挿れさせてな。実に楽しみやわ」


 それこそ彬光からそんな言葉、聞いたことあらへん。


「お前の情報スキャン、ええ加減なんちゃう?彬光はそんなこと言わへん」
「そうかぁ?まぁベース情報だけやからな……細かい修正は追々な」
「ちゃうやろ!返せや!体!」
「それも追々な~」


 彬光は立ち上がってズボンの前を止めると、カバンをヒョイと肩に掛けて手をヒラヒラ振りながら玄関を出て行った。


「大丈夫ちゃうやろ……あれ……」


 独りごちて立ち上がり、洗面所で精液を受け止めた右手を洗う。鏡には見慣れた自分の顔が映り、まだ勃起が収まらん妙な興奮で頬っぺたが赤うなってた。

 あんなん、彬光ちゃう。あいつはあんなニコヤカちゃうし、あんなベラベラ喋らへんし、手ぇ振ったりもせぇへん。違和感、アリアリや。

 彬光はどうしてんねやろ。寝てるってゆうてたけど、俺の声は聞こえてんねやろか。助けてやりたいけど、どうしたらええか分からん。誰にも相談できひんし……あの宇宙人が飽きて自分の星に帰るまで、付き合うしかないんか……

 もんもんと考える俺を裏切るように、腹がぐうーっと鳴る。そりゃそうや。結局昨日の晩、寝てもうた彬光の横で飯を作る気にも、なんか食う気にもなれずに寝て、腹ン中からっぽやから。


「そういやあいつ飯、どうしたんやろ」


 キッチンが使われた形跡はない。炊飯器も空のまま。あいつも昨日の晩から何も食っとらんはずで、朝飯も食わずにバリバリ肉体労働の一日をどうやって過ごすつもりなんか……めちゃめちゃ気になったけど俺は俺でもう出勤準備せなあかんし、桜木町としか聞いてない現場に弁当を届けることもできひん。あの宇宙人が腹が減っていることに気付いてどこかでちゃんと食ってくれたらええけど。ああもう……ほんま、どうしたらええんや。

 ため息をひとつつき、フライパンを火にかける。ともかく今夜もういっぺん、宇宙人説得を試みる。すぐは無理でも、せめて何日までの貸し出しって期限を決めさせる。そんで、彬光奪還や!

 当たり前やけど、彬光とケンカしたことなんかもうどうでも良くなってた。


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