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NARESOME
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佐野さんから飲みの誘いのLiNEがあったのは数日後の週末だった。あの日、家に帰ってからごちそうさまを言い忘れた件もあわせてお礼のメッセージをしたけど、SNS系があんまり好きじゃないのか喋り以上に言葉数が少なくて、結局その日以降吹き出しが増えることはなくて、「急ですが、今夜飲みに行きませんか」が今日、突然現れた。
もちろん、即OKでしょ!パッケージの件に早くいい返事がしたくてここんとこ仕事漬けになってた、そのご褒美みたいだった。
「う~わぁ~~服!何着てこう!っていうか、風呂風呂。もしかしたら、もしかするかもしれないし」
風呂に栓をして湯を溜め始めながら、夢と分かってるその時間を楽しむ。だってさ、もしかする可能性ってまぁ基本ないわけで、だからそう考えている間が楽しいっていうノンケに恋するゲイあるある。
今まで付き合ったのは一人を除いて全員ソッチ系の飲み屋で知り合った相手。もちろん好きだから付き合ったんだけど、同類しかいないと分かっているナワバリの中でくっついたり離れたりしてた俺は、自分の気持ちでさえどこか純粋さが欠けてるような気がしてた。
だから俺はナワバリの外で恋をする。成就する確率が低くても、本当に好きって思った相手を好きでいたくて。好きだと思った相手から好かれるのが奇跡だっていうのは、実はゲイだろうがノーマルだろうがあんま変わんないしね。
夕方と夜の境目の時間。待ち合わせ場所である前と同じ駅の改札を出ると、端のほうで手を挙げた佐野さんがすぐに目に入った。
杢グレーのスーツに薄いブルーのストライプシャツ、黒のグレンチェックのネクタイ、黒の革靴。ざっくりオールバックにしてる黒髪も相まって、大人の男感MAX。
「こんばんは!佐野さん、土曜日も仕事?」
「普段は休みなんですけどね。今日は昨日起きたトラブル処理でやむなく」
並んで歩き出しながら、ふわり鼻をくすぐった微かな香水の香りに佐野さんの体温を感じてドキドキする。いや……会う前からドキドキしてるから今更なんだけど。
恋ってすごい。ただ一緒に歩いてるだけで、なんだか分からないものが充満して腹が減ってるのもうやむやになる。佐野さんの何を知ってるわけでもないのに、それこそ理屈じゃないってヤツ。
今日の店へは仕事の進境をふたつみっつ話してるうちについた。この間とは打って変わって、明るいカウンター席のみの創作和食と酒が楽しめる店。寿司屋みたいな雰囲気のカウンターの向こうでシックなコスチュームのシェフが静かに立ち働いていた。
「もし良かったらこちらのおまかせのコースにしてみませんか。万遍なく楽しめますよ」
「うん。じゃあ、それで」
俺は出されたあったかいおしぼりで手をふきながら頷き、少し間を置いて「佐野さん」と、気になっていたことを切り出した。
「話し方、普通にしない?俺の方が年下だし、この間のは仕事の延長かもしれないけど、今日は完全プライベートって考えていいんだろ」
佐野さんはすぐには返事をせず、店内のさざめくようなお喋りにしばらく間を預けてから「そうだな」と呟いて、ふっと吹き出した。
「自分が年下だって自覚、あったのか」
「そりゃ、あるよ」
「へぇ……」
あるようには思えなかった、と面白がってる瞳。砕けた雰囲気になったら余計、俺の腰が砕けそうなくらい好きな気持ちが強くなった。
楽しい……特別面白おかしい話をしてるんでもないのに、何もかもが楽しい。中学時代の部活の先輩の時も、高校時代の親友の時もそうだった。一緒にいるだけで満たされて、でも満たされればもっとと欲しがる器が大きくなって、楽しくて、切なくて、幸せなんだ。
佐野さんが何故俺を誘ったのか、その意味をずっと探してる。気が合うから一緒に飲もうと思ったのか、それともそれは口実で、もっと俺を知りたいのか……って、俺の中だけで発生してる選択肢。
冷静に考えたら、答えは決まってるから。だって関係を深くしたいなら、どこかにその欲望が覗くもんだろ。少なくとも俺の経験上ではそうだった。
佐野さんからは俺を狙ってる感じが全然しない。好意の所在も、行動から見てあるはず、と予測するしかないくらい、佐野さんの考えてることはよく分からなかった。
「え、今日は出すよ」
会計を済ませようとしてる佐野さんに俺が財布を出すと、「俺が誘ったから」と言って受け取らない。店を出ると駅とは反対方向へ歩き出して、俺がどこへ?の意味を込めて見上げると「もう一軒行こう」と微笑した。
もしかしてもしかして、もしかするのか?と思ったよ。期待した。でも次に行ったバーで一杯やった後、タクシーで家まで送ってくれてそのまま別れた。
ほんとに気が合って楽しいから誘っただけなんだ、とがっかりした。だって、もしほんの少しでもその気があるなら、いい大人が酒も入っていい雰囲気に(俺的に)なってるのに何もせず別れるわけないから。
もちろん、即OKでしょ!パッケージの件に早くいい返事がしたくてここんとこ仕事漬けになってた、そのご褒美みたいだった。
「う~わぁ~~服!何着てこう!っていうか、風呂風呂。もしかしたら、もしかするかもしれないし」
風呂に栓をして湯を溜め始めながら、夢と分かってるその時間を楽しむ。だってさ、もしかする可能性ってまぁ基本ないわけで、だからそう考えている間が楽しいっていうノンケに恋するゲイあるある。
今まで付き合ったのは一人を除いて全員ソッチ系の飲み屋で知り合った相手。もちろん好きだから付き合ったんだけど、同類しかいないと分かっているナワバリの中でくっついたり離れたりしてた俺は、自分の気持ちでさえどこか純粋さが欠けてるような気がしてた。
だから俺はナワバリの外で恋をする。成就する確率が低くても、本当に好きって思った相手を好きでいたくて。好きだと思った相手から好かれるのが奇跡だっていうのは、実はゲイだろうがノーマルだろうがあんま変わんないしね。
夕方と夜の境目の時間。待ち合わせ場所である前と同じ駅の改札を出ると、端のほうで手を挙げた佐野さんがすぐに目に入った。
杢グレーのスーツに薄いブルーのストライプシャツ、黒のグレンチェックのネクタイ、黒の革靴。ざっくりオールバックにしてる黒髪も相まって、大人の男感MAX。
「こんばんは!佐野さん、土曜日も仕事?」
「普段は休みなんですけどね。今日は昨日起きたトラブル処理でやむなく」
並んで歩き出しながら、ふわり鼻をくすぐった微かな香水の香りに佐野さんの体温を感じてドキドキする。いや……会う前からドキドキしてるから今更なんだけど。
恋ってすごい。ただ一緒に歩いてるだけで、なんだか分からないものが充満して腹が減ってるのもうやむやになる。佐野さんの何を知ってるわけでもないのに、それこそ理屈じゃないってヤツ。
今日の店へは仕事の進境をふたつみっつ話してるうちについた。この間とは打って変わって、明るいカウンター席のみの創作和食と酒が楽しめる店。寿司屋みたいな雰囲気のカウンターの向こうでシックなコスチュームのシェフが静かに立ち働いていた。
「もし良かったらこちらのおまかせのコースにしてみませんか。万遍なく楽しめますよ」
「うん。じゃあ、それで」
俺は出されたあったかいおしぼりで手をふきながら頷き、少し間を置いて「佐野さん」と、気になっていたことを切り出した。
「話し方、普通にしない?俺の方が年下だし、この間のは仕事の延長かもしれないけど、今日は完全プライベートって考えていいんだろ」
佐野さんはすぐには返事をせず、店内のさざめくようなお喋りにしばらく間を預けてから「そうだな」と呟いて、ふっと吹き出した。
「自分が年下だって自覚、あったのか」
「そりゃ、あるよ」
「へぇ……」
あるようには思えなかった、と面白がってる瞳。砕けた雰囲気になったら余計、俺の腰が砕けそうなくらい好きな気持ちが強くなった。
楽しい……特別面白おかしい話をしてるんでもないのに、何もかもが楽しい。中学時代の部活の先輩の時も、高校時代の親友の時もそうだった。一緒にいるだけで満たされて、でも満たされればもっとと欲しがる器が大きくなって、楽しくて、切なくて、幸せなんだ。
佐野さんが何故俺を誘ったのか、その意味をずっと探してる。気が合うから一緒に飲もうと思ったのか、それともそれは口実で、もっと俺を知りたいのか……って、俺の中だけで発生してる選択肢。
冷静に考えたら、答えは決まってるから。だって関係を深くしたいなら、どこかにその欲望が覗くもんだろ。少なくとも俺の経験上ではそうだった。
佐野さんからは俺を狙ってる感じが全然しない。好意の所在も、行動から見てあるはず、と予測するしかないくらい、佐野さんの考えてることはよく分からなかった。
「え、今日は出すよ」
会計を済ませようとしてる佐野さんに俺が財布を出すと、「俺が誘ったから」と言って受け取らない。店を出ると駅とは反対方向へ歩き出して、俺がどこへ?の意味を込めて見上げると「もう一軒行こう」と微笑した。
もしかしてもしかして、もしかするのか?と思ったよ。期待した。でも次に行ったバーで一杯やった後、タクシーで家まで送ってくれてそのまま別れた。
ほんとに気が合って楽しいから誘っただけなんだ、とがっかりした。だって、もしほんの少しでもその気があるなら、いい大人が酒も入っていい雰囲気に(俺的に)なってるのに何もせず別れるわけないから。
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