魔樹の子

クラゲEX

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断章

マジュウノナミダ

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友を喪って四日。
次の國、ハクチに向かって歩いていた。
ハリブで背負った重荷は全て取り除いたが、代わりに多くの物資を失った。
元々用意していた食料や服は鞄ごと切り刻まれ、補った分もそろそろ底を突く。

「どうしようか…」

まだ少し肌寒く身震いを起こす季節、平和な平原の上で細々と野宿を繰り返す。
後二つ丘を越えなければハクチに着かない、
流石に死を感じながらも諦めるわけにはいかず、いざとなれば確実に腹を下し、腹を裂かれる危険を孕む、魔獣を喰らうつもりの極限状態で歩き続ける。

幸い、いや不幸なことに魔獣は姿を現さず、食料は六日目に完結した。

ない。何も無い。
絶島の上と勘違いしてしまう程に絶望が湧き上がる。
暗い夜空の下死を覚悟して眠りについた。




もしもし、もしもしと、声をかけられて咄嗟に飛び起きる。
気がつくと男女の二人組が心配そうに私の様子を伺っていた。
私が起きたことに心底ホッとしている。
死体を見つけたとでも思われていたのだろうか。

声を掛けて、死んでいるかどうかの確認で起き上がってきたのでホッとしたと、食事を共にさせてもらいながら聞かせてくれた。

申し訳ない気持ちと食事を分けてくれた彼らに感謝の意を伝えて、出されたものを完食する。
自己紹介を軽く済ませ、助けてくれた二人の身の上話に移る。
二人の話だと、彼氏の夢、作家になる夢への失望が強まった最近、
彼の枝に花芽の様なものが発芽したことで二人で大変騒ぎになり、調べた末に魔術、枝に詳しい人がいるハリブへ足を運ぶ途中なのだと教えてくれた。
ハリブ、その単語が出ると言い表せ無い感情が沸き出る。
それと同時にあの結末に再び疑問が浮かぶ。
ハリスが何故異端認定されたのか。
枝無しので放った魔術あの言葉はなんだったのか。

二人にも色が違うと言われた、このハリスの瞳は何故入り込んだのか。

考えが顔に出ていたらしく、こちらの顔を踏み込まぬよう、一歩引いた様子で伺ってくる。ここで悩んでも仕方がない。百も承知の文言を頭で唱えて切り替える。

問題の彼も私に負けず劣らず悩んでいた。
才能の有無や作品の始末。挫折を繰り返し過ぎた後、今にも折れそうな顔をしている。
それでも折れずにいられるのは彼女の献身あってのことなのだろう。

食事も落ち着き、就寝の息がかかる頃、突然彼が苦しみ出す。彼女曰く、最近よく起こるそうで枝がこの発作に関係があるのか、それも調べる上でハリブ向かっているらしい。

一度寝ている私は恩義も含めて彼らの護衛のため、起き続けることを彼女に伝える。

彼女は申し訳なさそうに礼を済ませてすぐに彼と同じく、床に就いた。
命の恩を少しでも返せる様、私は張り切って草原を見つめる。 
この地帯に入ってから魔獣には一度も遭遇して来なかったため、そこまで張り切る必要は無かったのだが、その時の私はとても、張り切っていた。

数時間は経った頃だろうか、初めと変わらないそよ風のみの平和な草原に飽き飽きし始めていた時間。
寝袋に入れられていた彼が目を覚ました。
唸る声は苦しそうに夢への懺悔を語っている。かっぴらいた目は狂人そのものだった。
少し恐ろしくなった私は連れの彼女を揺らして起こす。
彼女も私と同じ様に怖気付いていたが、そこはやはり彼女と言うべきか、怖がりながらも彼を落ち着かせようと懸命に接する。

私がここに居ても力になれなさそうだ。
近辺に休めそうな集落でもないか探すと告げ、周辺を捜索する。 
ただその場に居たくない一心だったのかもしれない。それだけ彼の様子は異様だった。
起きてる、最初はそう思ったが寝言の様にぶつぶつと夢への謝罪をするばかりで

こんな夢を持ってすみません。とか
もっと良い夢を持てずにすみません。とか聞くに堪えないものだった。

捜索したものの集落など見つからず、かと言って恩人をそのままに去ることも出来ず、元いた場所に引き返す。
それにしても、静かで邪魔一つない夜だ。
此処ら一帯に魔獣除けでも貼り尽くされているかと思うほどに奴らに遭遇しない。

そんな平和な草原だから遠回りなどすることも無く、すぐに戻ることができた。



不可解な音が聞こえる。
食事はとうに終えた筈なのに肉を貪る音。
視界に捉えた焚き火の中で悍ましい何かが蠢いている。
近づいて理解した。 魔獣だ。
魔獣が人を喰っていた。
ここまで会うことの無かった魔獣が何故ここに…喰われている人間は、彼女だろう。

私単騎で討伐出来るとは思えない。
魔獣の中でもあれは上位に位置する強さだろう。なんたって、人型だ。魔獣は人に近ければ近いほど強い、いくら鍛錬したとてあれは厳しい。助ける人は肉人形と化している。

後悔と申し訳なさでいっぱいになる。 
何故、苦しそうにする彼女をそこで介抱していれば良かったのではないか。

溢れる懺悔は止まることを知らない。

私は、泣いて肉にありつく獣を尻目に、
静かに、静かにその場を去った。


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