魔樹の子

クラゲEX

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ハクチ編

ワレハクチ

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ハクチ二日目の朝。
二度寝したからか、はたまた足の痛みからか、寝起きはすっきり快活な朝だ。
今日は取り敢えず、居住区の外れにある図書館へ向かう。
身支度を済ますために体を起こす。
歯を磨き服を着替え、朝食を摂る。
顔がバレてはいけないのでフードを被るが、杞憂に終わるだろう。

朝日が燦々と降り注ぐ。茶色く照り輝く道を眺めて目的地へ向かう。

初めて来る場所だからなのか、死を孕む恐ろしい筈のこの國がやけに輝いて見える。
人の笑顔が多いから?ハリブと違って國の清掃が行き届いていて、物理的に輝いているから?
浮かれていられる状況ではないのに、自然とウキウキしている自分が恥ずかしい。

こんな状態でまたあんな奴らに襲われたら、今度は足どころじゃ済まないだろう。

気を引き締めろ私。浮かれていたら殺されるぞ。

いつの間にか私の一人称が私になっている。
…何故だろう、以前は俺の方がしっくりきたのに。

不意に目が熱くなって、掘り出し物を埋め返す。そうすると浮かれた気分も目の熱も急速に冷えていった。

二十分程歩いて図書館に到着したのだが、
ハリブでは図書館に行く必要が無かったし、村には存在すらしていなかったので初めてちゃんと図書館というものを見た訳だが、

大きい。ハクチの図書館が特別大きいのかもしれないが、とにかく大きい。
先のように此処が特別なのなら、これから見る図書館は少々見劣りしてしまうだろう。

というか劣る。この図書館のデザインで分かったが、ハリブにも同じデザインの施設があった。少し見る程度だったが、あれに比べてこれは…大きいな。

ハクチやハリブとは一風違った、王都の前衛的なデザインに近い。白を基調とした木造のドーム型。上はガラス張りの見ていて飽きない魅力あるデザイン。

これ、図書館だったのか。初めて来るが見るのは初めてではなかったことに驚きだ。どちらかというと困惑しているかも。

素人目でも分かる程に街のメルヘンな雰囲気に合っていないがこの建築自体は好きだな。


中に入っても期待を裏切ること無い内装だ。

デザインや建築にあまり興味が無かったが、ここまではしゃいでいるのは何故だろう。
だが今はこの図書館に心躍っている。

再燃した熱をそのままに魔者について書かれていそうな本、あとは魔樹教…樹官についての詳しい情報が載っている本を探す。

流石でかいだけあって探し物はここにあった。探すのには少し手こずったが。

しかし一つの本でどちらも把握出来るとは思わなかった。

「樹官全書」
この本に全て載っていた。
樹官になるには試験の合格が必須なようで、その参考書とでも言うべき本なのだがここに全て載っていた。

樹官は魔樹教の存続、権威を象徴する魔樹教の最高戦力。
人員数は約三千。
一人一人が大抵の魔獣を単独で撃破する程の戦力を有する。
教の危機となれば一般市民ですら容赦無く屠る。
主な活動はハリブの監視、禁忌魔術、原語の探索と歴史の調査。
有事の武力介入。そして、異端者(原語者、有害指定者)の捕縛(場合によっては処刑)。

有害指定者
有害指定を受けた者。
二等級以上の犯罪を犯した者、禁忌魔術を習得した者。そして未制御の魔者。

王都以外の四國でこの指定は有効。
國ごとの軍警、自警団との連携の下、
指定者を「鳥籠」に収容。
暴走、反抗を指定者が行う場合は処刑も可。
鳥籠からの脱走も同様である。

知りたいことは分かった。
恐れられていた逃げられない場所という者は鳥籠で、彼が有害指定を受けたのも夢の中で時折り姿が見えてしまう辺りから察しがつく。

どうやら王都以外の四國は魔樹教とは協力体制にあるらしい。

………何故知らなかったのだろう。
判っていればすぐに逃げたのに。
ハリスを連れて今でも一緒にいられたかもしれないのに。

ハリスは、
ただ有害指定について知らなかっただけなのか、あの國で死ぬことを望んでいたのかは知らないが、彼は何故最期に私の願いを聞いてくれたのだろうか。

知らないにしても今の生活を投げ捨てて何故?死ぬと覚悟していたのなら何故?

何故俺を家に招いたんだろう。





原語者…この星の言語とされる「第一言語」以前の言葉を扱う者。

禁忌魔術…今の言語では使用出来ない、星の抑制を受けた魔術。
錬金や即死や不老不死など…
 
 使うには原語での使用か、第一言語での魔術の併用を以って元に近い再現をする他ない。
再現ですら禁忌に抵る。
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