魔樹の子

クラゲEX

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ハクチ編

ミジュクナマ

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特に怪しまれることも無く
入國はすんなりと済んだ。
内部はハリブよりも狭いものの、その活気はハリブに負けず劣らずのものだ。
協会地区がない以外は殆ど同じ構造だが、それでも此処がハクチだと思わせるのは点在する塔と中央に見える大きな魔樹だろう。

信者の進行の末に見つけた聖地。 
その聖地たる理由もこれにあるのだろう。

魔樹教の教えはあまり厳しいものではない。
禁忌は存在しない上に基本自由。
一年に一度、虚月の一日に魔樹への祈りを捧げるのみ。

「原初の言霊は人の原罪。欺瞞と惨劇を繰り返す真の魔。その禁忌を犯す者、聖と源に誘われる。」

教本が禁忌という単語に触れているのはこれくらいだが、いまいち理解できない。
 
それ以外には
「魔の真名、真名に在らず。
名の本流、流れは絶え、偽りの言、制約を以って秩序を保つ。」

「夢を騙る化け物、人への回帰を永遠に閉ざす。」

とか、教祖や教の成り立ちは殆ど書かれていない。代わりにいつからあるのか、それすら判らない魔樹教創設以前の文のみが記されている。 

教本というより古典といってもいいだろう。
これが魔樹教の支柱、原点なのだろうが、ここからどうしてこんなにも大きくなれるのか、甚だ疑問だ。
 
金を払って宿に泊まる。
兎に角、明日には図書館にでも行って情報を集めよう。
昼間に着いた筈が慣れない街に混乱して殆ど調査が出来なかった。

よく見れば教本の裏表紙にハクチの地図があったのだがそこに気付く事はなく、
歩き回って日も落ち、ふらふらになった所で漸く宿屋にありつけた。

疲れもあってか風呂にも入らずベッドに直行する。
「………うぅ…」

痛みで目が覚める。
樹官の攻撃で足が爛れてからというもの、
毎日の手当て、魔術の痛み止めが無ければ眠れなくなった。
魔術の鍛錬を続け、小慣れてきたといえど相変わらず効果は長続きしない上に、体内に取り込む魔力も取り込み過ぎると中毒状態になって魔術の行使どころではない。 

だから痛み止めの魔術も使うタイミングは、就寝時や痛みに耐えられない時にと決めている。

随分と生きづらくなった。けれど夢を裏切れない。だからこそ鍛錬を続けるし、首は括らない。

包帯を巻き直し毛布の中で寝入る。

特段、夢を見ることも無く朝を迎えた。
と言っても痛みで目が覚めた故に外はまだ暗い。泣く人も笑う人も居らず、痛みだけが部屋に響く。

夢…ハリスの目は私に移植された。

けれども見せるものは悪夢ではなく、先と後の現実だった。

私が教本に書かれてすらいない魔樹教の始まりと信者の行進について知っているのも、この目によるものだ。

ハクチの門を見た時、ハリブの協会を見た時、断片的にだが過去のその地の記憶が流れてきた。

痛みの奥から流れる記憶。魔者の能力が夢から現実へ、干渉の対象が反転しているが、明らかにハリスの目による記憶だった。

ハクチに向かう途中で見た人型の上位魔獣との交戦が避けられたのもこの目のお陰だ。

間違えた選択を選ぼうとする度、その先で奴に気付かれ真っ暗になる未来が流れた。

今のところこの能力に助けられているが、
能力の操作も制御も出来ない。
ただ不定期に流れて来る記憶を閲覧するのみ。

この目のためにも魔者への理解を深めたい。

不完全な今の状態でも、魔想種に劣るものの、一体の討伐に三十の死体と百の肉塊が必要だと云われる人型、魔人種から逃げ果せることが出来たのだ。

使い熟せれば色んな場面で役に立つだろう。

そんな目への熱い思いとは裏腹に、両足を冷やした後、二度寝した。
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