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7章 怪我をした犬を全力で助ける魔女
37話 ジャンザの目覚めと甘い日常
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★ ジャンザの目覚めと甘い日常
犬のピューラを再び走れるようにするため魔力を使い果たして倒れたワタシは、あのあとアスタフェルによってベッドに運ばれたらしい。らしい、というのは意識がないから実際には見ていないからである。
とにかくワタシは気がつくと、ベッドに寝ていた。
この前倒れたときと違い、フード付き黒いローブは脱がされていた。下着姿というわけではなく、いつもローブの下に着ている着古したシャツとズボンという黒ローブ以上に色気のない格好になっていた、ということだ。
寝にくそうだからとローブを脱がしてくれたのだろう。
それからもう一つ、この前倒れたときと違うことがある。それは、ワタシの気持ちだ。
そわそわしながらベッドを降りる。
アスタフェル、いるかな?
窓の外の景色を鑑みるに、今は遅い朝の時間帯。さて、何日寝ていたのか。アスタフェルに聞いてみよう。
ワタシはベッドの傍らにたたんで置いてあった黒いローブを身にまとうと、ダイニングへと足を進めた。
* * *
「おお、早かったな」
「ああ……」
思わずため息が出てしまう。
状況はこの前と同じだ。
いい匂いがキッチンからしてくる。空腹を自覚しダイニングから覗くと、そこでは白銀の髪の美青年が鍋のスープをお玉で混ぜていて、彼は顔だけ振り返らせ……。
「そろそろ起きる頃かと思って作っていたんだ。俺の勘はよく当たるからな」
「アスタ、こっち向いて……」
「うむ」
しかつめらしい顔で彼は身体ごと振り向かせた。
「に、似合うか?」
……エプロンドレスを着ていた。もちろん、頭にはフリルカチューシャもしている。
彼の太ももの辺りに、細やかに寄せられたいくぶん控えめなフリルがふんだんに付けられたエプロンドレスの裾があった。その下から流れるように出ているのは、白くゆったりした下衣……。今日のアスタフェルは前開きの紺色の衣を帯で締めるという異国風の出で立ちだった。その異国風の服の上に、エプロンドレスを付けているのだ。
視線を上げていけば、胸の部分を守るレースをあしらったエプロンと、それを囲む豪華に寄せられたふわふわのフリルがある。彼の意外としっかりとした肩を、まるで小さな翼のようなフリルが肩紐から伸びて飾っている。そこから長い腕を包むゆったりした紺色の袖がすらりと下に伸びている。
更に視線を上げていけば、彼の頭上……白い小鳥が尾羽根を広げたような、愛らしいフリルが立っていた。豪華すぎず、控えめすぎず。エプロンドレスを引き立てるに徹しているようでいてしっかりと自己主張している様は見事としか言いようがない。それに合わせるよう、アスタフェルは長い白銀の髪を後ろでお団子にして一つにまとめていた。
なんか、もう。死にそう。鼓動が……。
「ジャンザ!」
胸を抑えよろめいたワタシを、彼は慌てて支えに飛んできた。
「ご、ごめん。病み上がりにそれは刺激的すぎた」
「よくわからないがこちらこそすまん。今度から気をつける」
「気をつけなくていい。すごく似合ってるよ」
「……う?」
「すごく似合ってるよ」
変な声を漏らして頬を赤くした彼に、ワタシはもう一度同じことを告げ、更に言葉を重ねる。
「似合ってる。まるでオマエのために誂えたようだ。伝えきく麗しき風の魔王の伝説――古の真実を写した神話のなかですらオマエはここまで美しくはなかった。なんと言ったらいいか……。今がいちばん可愛いよ、アスタ」
「お、おお……そんな最上の賛辞をいただけるとは、アスタ、嬉しい」
あまり回っていない口でアスタフェルはそんなことを言った。
それから視線を外し、ぼそっと呟いた。
「お前、男だったらとんでもない女泣かせになってたな……」
「なんだそれは?」
「なんでもない。さあ、テーブルについていてくれ。すぐ料理を運んでやる」
* * *
犬のピューラを再び走れるようにするため魔力を使い果たして倒れたワタシは、あのあとアスタフェルによってベッドに運ばれたらしい。らしい、というのは意識がないから実際には見ていないからである。
とにかくワタシは気がつくと、ベッドに寝ていた。
この前倒れたときと違い、フード付き黒いローブは脱がされていた。下着姿というわけではなく、いつもローブの下に着ている着古したシャツとズボンという黒ローブ以上に色気のない格好になっていた、ということだ。
寝にくそうだからとローブを脱がしてくれたのだろう。
それからもう一つ、この前倒れたときと違うことがある。それは、ワタシの気持ちだ。
そわそわしながらベッドを降りる。
アスタフェル、いるかな?
窓の外の景色を鑑みるに、今は遅い朝の時間帯。さて、何日寝ていたのか。アスタフェルに聞いてみよう。
ワタシはベッドの傍らにたたんで置いてあった黒いローブを身にまとうと、ダイニングへと足を進めた。
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「おお、早かったな」
「ああ……」
思わずため息が出てしまう。
状況はこの前と同じだ。
いい匂いがキッチンからしてくる。空腹を自覚しダイニングから覗くと、そこでは白銀の髪の美青年が鍋のスープをお玉で混ぜていて、彼は顔だけ振り返らせ……。
「そろそろ起きる頃かと思って作っていたんだ。俺の勘はよく当たるからな」
「アスタ、こっち向いて……」
「うむ」
しかつめらしい顔で彼は身体ごと振り向かせた。
「に、似合うか?」
……エプロンドレスを着ていた。もちろん、頭にはフリルカチューシャもしている。
彼の太ももの辺りに、細やかに寄せられたいくぶん控えめなフリルがふんだんに付けられたエプロンドレスの裾があった。その下から流れるように出ているのは、白くゆったりした下衣……。今日のアスタフェルは前開きの紺色の衣を帯で締めるという異国風の出で立ちだった。その異国風の服の上に、エプロンドレスを付けているのだ。
視線を上げていけば、胸の部分を守るレースをあしらったエプロンと、それを囲む豪華に寄せられたふわふわのフリルがある。彼の意外としっかりとした肩を、まるで小さな翼のようなフリルが肩紐から伸びて飾っている。そこから長い腕を包むゆったりした紺色の袖がすらりと下に伸びている。
更に視線を上げていけば、彼の頭上……白い小鳥が尾羽根を広げたような、愛らしいフリルが立っていた。豪華すぎず、控えめすぎず。エプロンドレスを引き立てるに徹しているようでいてしっかりと自己主張している様は見事としか言いようがない。それに合わせるよう、アスタフェルは長い白銀の髪を後ろでお団子にして一つにまとめていた。
なんか、もう。死にそう。鼓動が……。
「ジャンザ!」
胸を抑えよろめいたワタシを、彼は慌てて支えに飛んできた。
「ご、ごめん。病み上がりにそれは刺激的すぎた」
「よくわからないがこちらこそすまん。今度から気をつける」
「気をつけなくていい。すごく似合ってるよ」
「……う?」
「すごく似合ってるよ」
変な声を漏らして頬を赤くした彼に、ワタシはもう一度同じことを告げ、更に言葉を重ねる。
「似合ってる。まるでオマエのために誂えたようだ。伝えきく麗しき風の魔王の伝説――古の真実を写した神話のなかですらオマエはここまで美しくはなかった。なんと言ったらいいか……。今がいちばん可愛いよ、アスタ」
「お、おお……そんな最上の賛辞をいただけるとは、アスタ、嬉しい」
あまり回っていない口でアスタフェルはそんなことを言った。
それから視線を外し、ぼそっと呟いた。
「お前、男だったらとんでもない女泣かせになってたな……」
「なんだそれは?」
「なんでもない。さあ、テーブルについていてくれ。すぐ料理を運んでやる」
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