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7章 怪我をした犬を全力で助ける魔女
47話 王子様の好きなもの
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★ 王子様の好きなもの
どうもちょくちょく引っかかってはいたんだよね。さっきから。
「王子様、まずハッキリさせておきたいのですが。ワタシは結婚していないし、婚約もしていません。だいたいなんでそんなふうに思ったんですか?」
ワタシは彼の目を見つめて問うた。
その銀の瞳に映るものすべてから彼の真意を推測できるように、よく観察しなければ。
「もしワタシとアスタフェルが仲がいいと噂に聞いていたとしても、たったそれだけで婚約しているだの結婚しているだの。そんなの程度の低いただの妄想です。男女が仲が良いのは恋愛関係に根ざしているとは限りません。それくらい、王子様というご身分なのですから理解しておくべきです」
ワタシの言葉はアーク王子にとっては意外なものだったらしい。瞳に宿っていた濃厚な色気が若干薄れた。
「そうなのですか? 祖母に聞いたのですが。魔女さんと婚約者さんはそれはそれはもうことのほか仲が良く、目の前でかなり惚気けられてしまったと言っていましたが。とても濃厚なものだったと」
「お祖母様に? いったいどんなゴシップ好きなご夫人だというのですか。街の魔女のことを王子様の耳に面白おかしく吹き込むなんて、悪趣味にも程があります」
「エベリンという名を聞いたことはありませんか? 祖母はジャンザさんとは随分縁が深いんだと自慢していたのですが」
あ、なんだろう。
脇の下に嫌な感じの汗が。名前に覚えがある。
「王子様……すみませんが、お祖母様、エベリン様はワタシのことはどんなふうにご存知なのかとか、そういうの、教えていただけましたら……」
「犬を治してもらったと言っていました。それに、十年前からの知り合いだと」
あの人かー!
「ずいぶんお世話になったそうで。孫である僕からもお礼を申し上げなければなりませんね、祖母が本当にお世話になりました。ありがとうございました」
「い、いえ……」
ああ……記憶はちゃんとある。覚えてるさ。馬車の伴走犬を助けた、飼い主の貴族の夫人だよ……。王子様のお祖母さんだったとは……。ということは、エベリン夫人は皇太后様? え、じゃあ亡くなった犬好きの旦那さんって、先の王様……。
師匠……。十年前、大した大物のお屋敷に滞在してたんですね、ワタシたち。ていうか師匠の人徳って凄かったんですね。
いや十年も前のことを、七歳だった頃の記憶をハッキリ覚えていなかったからってそんな。
王子に魔王の力を得た魔女と警戒されたくないから。だからあんなに必死になって、自分の魔力だけで助けたのに。
そうだ、ワタシは犬を自分の魔力だけで助けて、それで……倒れて……。あとはアスタフェルが夫人と話をつけてくれて……。
そういえば、夫人はアスタフェルの言葉を鵜呑みにしていたっけ。婚約者だという奴の自己紹介を。
あの野郎、訂正してなかったんだ。婚約者じゃないと。まったくそういうのではない、ただの魔女と付き人だと。
さっきまでアスタフェルのことが好きだとか思っていたワタシの心に、怒りの炎が逆巻いた。
あの野郎……許さん。
いつの間にかワタシの頬から手を引いて少し距離を置いていた王子に、ワタシはきっぱりと告げた。
「王子様、ワタシはアスタ……アフェルとは結婚も婚約もしていません。それはお祖母様の勘違いです。訂正できなかったワタシの落ち度ではありますが、王子様には正しい情報を知っていただきたいと思います。再度申し上げます、ワタシたちは婚約していません」
「そうなのですか……」
ワタシの言葉に、アーク王子はしばし、自分の顎に手を当て考え込んでいた。
が、すぐに、
「あっ」
と王子の声が漏れ、ぽんと手が打たれる。
「じゃあ、結婚しちゃいましょうか」
「それはプロポーズと考えてよろしいのでしょうか!?」
「いえ、結婚するのはアフェルさんですよ」
「は……」
さすがにワタシは言葉をなくした。ここまできて何を言っているんだ、この王子様は。
しかし王子の顔は輝きを取り戻している。
「僕、ジャンザさんのこと好きになりましたし。この気持を止めることはできません」
「……な、ならば、何故」
アーク王子になんのてらいもなく好きと言われた拍子にアスタフェルの顔が浮かんでしまい、ワタシはその事にドキッと胸を高鳴らせてしまう。
どういうことなんだ、これは。本当に……アスタフェルが好きなのか、ワタシは。
「理由は申し上げたとおりです。僕、包容力のある女性が好みなんです」
「……王子様、もっと分かりやすく言ってもらえませんか」
「人妻にどうしようもなく惹かれます」
うん、そうだと思った。
どうもちょくちょく引っかかってはいたんだよね。さっきから。
「王子様、まずハッキリさせておきたいのですが。ワタシは結婚していないし、婚約もしていません。だいたいなんでそんなふうに思ったんですか?」
ワタシは彼の目を見つめて問うた。
その銀の瞳に映るものすべてから彼の真意を推測できるように、よく観察しなければ。
「もしワタシとアスタフェルが仲がいいと噂に聞いていたとしても、たったそれだけで婚約しているだの結婚しているだの。そんなの程度の低いただの妄想です。男女が仲が良いのは恋愛関係に根ざしているとは限りません。それくらい、王子様というご身分なのですから理解しておくべきです」
ワタシの言葉はアーク王子にとっては意外なものだったらしい。瞳に宿っていた濃厚な色気が若干薄れた。
「そうなのですか? 祖母に聞いたのですが。魔女さんと婚約者さんはそれはそれはもうことのほか仲が良く、目の前でかなり惚気けられてしまったと言っていましたが。とても濃厚なものだったと」
「お祖母様に? いったいどんなゴシップ好きなご夫人だというのですか。街の魔女のことを王子様の耳に面白おかしく吹き込むなんて、悪趣味にも程があります」
「エベリンという名を聞いたことはありませんか? 祖母はジャンザさんとは随分縁が深いんだと自慢していたのですが」
あ、なんだろう。
脇の下に嫌な感じの汗が。名前に覚えがある。
「王子様……すみませんが、お祖母様、エベリン様はワタシのことはどんなふうにご存知なのかとか、そういうの、教えていただけましたら……」
「犬を治してもらったと言っていました。それに、十年前からの知り合いだと」
あの人かー!
「ずいぶんお世話になったそうで。孫である僕からもお礼を申し上げなければなりませんね、祖母が本当にお世話になりました。ありがとうございました」
「い、いえ……」
ああ……記憶はちゃんとある。覚えてるさ。馬車の伴走犬を助けた、飼い主の貴族の夫人だよ……。王子様のお祖母さんだったとは……。ということは、エベリン夫人は皇太后様? え、じゃあ亡くなった犬好きの旦那さんって、先の王様……。
師匠……。十年前、大した大物のお屋敷に滞在してたんですね、ワタシたち。ていうか師匠の人徳って凄かったんですね。
いや十年も前のことを、七歳だった頃の記憶をハッキリ覚えていなかったからってそんな。
王子に魔王の力を得た魔女と警戒されたくないから。だからあんなに必死になって、自分の魔力だけで助けたのに。
そうだ、ワタシは犬を自分の魔力だけで助けて、それで……倒れて……。あとはアスタフェルが夫人と話をつけてくれて……。
そういえば、夫人はアスタフェルの言葉を鵜呑みにしていたっけ。婚約者だという奴の自己紹介を。
あの野郎、訂正してなかったんだ。婚約者じゃないと。まったくそういうのではない、ただの魔女と付き人だと。
さっきまでアスタフェルのことが好きだとか思っていたワタシの心に、怒りの炎が逆巻いた。
あの野郎……許さん。
いつの間にかワタシの頬から手を引いて少し距離を置いていた王子に、ワタシはきっぱりと告げた。
「王子様、ワタシはアスタ……アフェルとは結婚も婚約もしていません。それはお祖母様の勘違いです。訂正できなかったワタシの落ち度ではありますが、王子様には正しい情報を知っていただきたいと思います。再度申し上げます、ワタシたちは婚約していません」
「そうなのですか……」
ワタシの言葉に、アーク王子はしばし、自分の顎に手を当て考え込んでいた。
が、すぐに、
「あっ」
と王子の声が漏れ、ぽんと手が打たれる。
「じゃあ、結婚しちゃいましょうか」
「それはプロポーズと考えてよろしいのでしょうか!?」
「いえ、結婚するのはアフェルさんですよ」
「は……」
さすがにワタシは言葉をなくした。ここまできて何を言っているんだ、この王子様は。
しかし王子の顔は輝きを取り戻している。
「僕、ジャンザさんのこと好きになりましたし。この気持を止めることはできません」
「……な、ならば、何故」
アーク王子になんのてらいもなく好きと言われた拍子にアスタフェルの顔が浮かんでしまい、ワタシはその事にドキッと胸を高鳴らせてしまう。
どういうことなんだ、これは。本当に……アスタフェルが好きなのか、ワタシは。
「理由は申し上げたとおりです。僕、包容力のある女性が好みなんです」
「……王子様、もっと分かりやすく言ってもらえませんか」
「人妻にどうしようもなく惹かれます」
うん、そうだと思った。
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