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番外編
エプロンドレスは神器となった◆前編
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*番外編です。
*エプロンドレスのリクエスト、ありがとうございました!
*この番外編の設定は変わる可能性があります
*楽しんでいただけたら嬉しいです
*前編と後編で別れています
*ではどうぞ!
◇◇◇◇◇◇
魔界に来て三日が経過した。
その間ワタシは自分がいるこの場所や置かれている現状の把握に努めつつ、ある調べものをしていた。
ワタシの目標はあくまでも人間の世界に帰って薬草薬を広めることだが、それをするには時間がかかる。
だからここでの生活の基盤を作っておく必要があったのだ。
ただでさえ初めての場所というのはいろいろと知らなければならないことが多いのに、こと魔界などという基本的に人間がいない世界なら尚のことだった。
ワタシは早急にここの現状を頭にたたき込まなくてはならない。そしてその情報をいつでも引き出せるようにするのだ。
そして宰相ゼーヴァから課せられたある条件をクリアするためのある知識も必要だった。
こんな時に行く場所は決まっている。図書館だ。
アスタフェルに城の図書館に連れてきてもらって、ワタシは本を漁りはじめた。
ここに用がなくワタシが相手もしなくなって暇になったアスタフェルは、じゃあそのうち迎えに来るわ、と飛び去っていった……というのが数時間前の出来事となる。
さすがに本を読むのにも疲れたワタシは、図書館のバルコニーに出て外を眺めていた。
着ている黒いローブの袖や裾が風を受けて揺れる。このローブはアスタフェルに借りた物で、人間の世界で着ていたものより質や縫製がしっかりしているし、もちろん染みついた薬草の匂いもなかった。
ここは風が強く本を読むのには適さないが、高い場所にあるから本当に遠くまで見渡すことができる。本当に、遠くまで。
目の下に広がるのは地図のような景色だ。
遠く地平まで続く森林。あるのはそれだけだ。それを俯瞰できている。
つまりは物理的に高い所から眺めているのだ。
といっても崖の上にいるというわけではない。
ワタシがいるこの図書館、空に浮かんだ浮遊島に建っているのである。つまり正確にいうと図書館というより図書館島だった。
困ったことに、ここにはいくつもの浮遊島があり、各浮遊島にそれぞれ施設が独立して建っていて、それを全体として『城』と称しているのである。
その時、空から美しい魔王がやって来た。
純白の四枚の翼が常に動き、白銀の長髪が翼の風圧に靡いている。そして頭には禍々しき二本の捻れ曲った角。着ているのは前を合わせ帯で腰を留めた紺色の異国のローブ……。
そしてその背にリュックを背負っていた。
「よっ、ジャンザ! エプロンドレス着るか?」
「開口一番それかよ……。普通は、目的の知識はあったか? とかだろ」
「うむ。我が婚約者ジャンザよ、目的の知識は見つかったか?」
「なんでちょっと偉そうに……。とりあえずリクエスト通りの台詞、どうもありがとう。それが見当たらなくてな。まだまだ時間がかかりそうだ。まったく、知識を得ようとする行為とは何故斯様にも時間がかかるものなのか……」
「そうだよなあ、ちょっと調べものしてたらすぐ百年とか経つしな」
「それはオマエだけだ」
創世の神話時代から存在し続ける永劫の命を持つ風の魔王アスタフェル。彼にかかれば百年というのは一時間くらいのものらしい。
「ところでジャンザ、お前に頼まれてたゼーヴァの説得なんだが……」
「おお、どうだった?」
「やっぱり駄目だなアレ。頭の固さがジャンザ並みなんだよなあいつって」
「なるほどワタシ並み。それは無理だな」
「なあ、どうしてもフィナ討伐に付いてきたいのか? ここでおとなしく待っててもいいだろ別に」
……フィナ。死んだワタシの師匠アリアネディアの使い魔にして、その墓を守る恐ろしき魔物。
アスタフェルは近々、そのフィナの討伐に行くことになっていた。
師匠の亡骸を護りながら、墓を荒らしに来た魔物達を風の刃で千々に切り刻んでいるそうだ。
……宣言通りじゃないか、フィナ。
やっぱりフィナは強いし、ワタシの頼れる姉さんだ。けどちょっとやり過ぎているらしく、アスタフェルのところに危ないからどうにかしてくれと陳情が来ているという。
「フィナはワタシの姉代わりの魔物だ。どうしても結婚式に呼びたい。ワタシが行けばそれも叶うだろう。少なくともオマエ一人で行くよりは話を聞いてくれる」
もちろんフィナはワタシの姉代わりの魔物ということで、殺したり、本気を出すことはしないとアスタフェルは約束してくれている。
……実のところ、フィナを結婚式に呼びたいというのはただの建前だった。
とにかくフィナのことが心配なのだ。
いくら手加減してくれると約束してくれていても、アスタフェルの魔力は膨大すぎる。少し手加減を間違えただけであっという間に消滅するだろう。
それならフィナと話をして気を鎮めるほうが確実だ。
ワタシには、それができる。
「なあ、どうしてもフィナを結婚式に呼びたいのか……?」
「新婦の姉代わりを結婚式に呼ぶなんて涙必至のいい演出じゃないか。絶対に呼ぶべきだよ。オマエだってワタシの姉代わりのフィナとならしたい話もあるだろう? 惨殺魔のフィナじゃなしにさ」
「そりゃそうだが……」
ワタシとアスタフェルは前々からの宣言通り、この地で結婚することになっていた。
魔界で生活していく上ではワタシにも何か肩書きがあると便利なので、ワタシとしても願ったり叶ったりである。魔王の妻、というのはなかなか上物の肩書きだからだ。
だから、今のワタシの肩書きは魔王の婚約者ということになる。
まあ、やぶさかではない。ワタシだって好きだしな、アスタフェルのこと。
が、縁の深い姉代わりの魔物を式に呼びたいという健気な新婦の願いを真っ向から反対するものがいた。宰相のゼーヴァだ。
別に、危険だから同行禁止、というわけではない。
ゼーヴァにしてみればワタシはアスタフェルに纏わり付くただの人間にしか過ぎず、自ら危険に飛び込んで死んでくれれば万々歳だろう。
飛べもしないただの人間が魔王についていったら足手まといになって魔王に危険が及ぶかも知れないから付いていくのは反対、なのである。
逆に言えば、自力で飛ぶことができれば同行を許可するということだ。
アスタフェルの魔力を引き出して自分に飛行の魔法を掛ければいい――と高をくくっていたワタシは、その申し出に乗った。
申し出に乗ったまではよかったのだが、肝心の飛行の魔法が存在していなかった。
「……しかしほんと、なんでここには飛行の魔法がないんだよ。魔界の、それも風の力が充ち満ちた風の領域だぞここは。普通そういうところは風の魔法の本場だろうに」
「といってもなあ。空を飛ぶなんて当たり前すぎて……。お前だって足で歩くにはどうしたらいい? とか聞かれても困るだろ」
「まあ、そりゃあな……」
空を飛ぶというのは風の魔物達が無意識にしていることで、誰かに順序立てて教えるようなことでもないというのである。
だから空を飛ぶ魔法を覚えようと思ったら違ったアプローチが必要であり、それがここの蔵書にあるのではないかと……そう願っている。
それに空を自由に飛べれば、いちいちアスタフェルに運んでもらわなくて済むから浮遊島間の移動も楽に行える。……アスタフェルがワタシを運ぶのってどうにも雑で怖いし。
とにかく、ワタシは早急に飛行魔法を覚える必要があるのだ。
ちなみに図書館に収められた本の文字は読めた。ここの文字は魔女にのみ伝わる古代の文字そのままだったからだ。
魔女の伝える神話時代の文字は凄まじく精確に伝わっていた、ということだ。
「で、だ。それについてなんだが、俺に考えがある」
「なんだよ」
「実はな……」
ワタシとほぼ同い年に見えるアスタフェルは、その身軽な体躯をふわりとバルコニーの手すりに腰掛けさせた。
魔界に帰ってきてからというもの、アスタフェルからは体重というものがなくなってしまったようだった。人間の世界ではあんなに重かったのに……。これも風の力なのだろう。
「ジャンザよ。エプロンドレス着ないか?」
「話が繋がってないぞ」
「現物を見ればお前は自ら、そのエプロンドレス着たーいっ、というであろうぞ」
と変なシナを作ってニヤけるアスタフェル。
そんな彼の態度に少し興味が出る。
「ほう、何か考えがあるみたいだな」
「まあとりあえず現物を見てみろ。話はそれからだ」
彼はバルコニーの手すりに座ったままリュックを降ろし、抱えるようにして中を漁った。
そして出てきたのは……
「おお、それは」
西からの風にそよそよと靡く白きフリル。
……それは、これは。
まさか、あのエプロンドレス……!?
*エプロンドレスのリクエスト、ありがとうございました!
*この番外編の設定は変わる可能性があります
*楽しんでいただけたら嬉しいです
*前編と後編で別れています
*ではどうぞ!
◇◇◇◇◇◇
魔界に来て三日が経過した。
その間ワタシは自分がいるこの場所や置かれている現状の把握に努めつつ、ある調べものをしていた。
ワタシの目標はあくまでも人間の世界に帰って薬草薬を広めることだが、それをするには時間がかかる。
だからここでの生活の基盤を作っておく必要があったのだ。
ただでさえ初めての場所というのはいろいろと知らなければならないことが多いのに、こと魔界などという基本的に人間がいない世界なら尚のことだった。
ワタシは早急にここの現状を頭にたたき込まなくてはならない。そしてその情報をいつでも引き出せるようにするのだ。
そして宰相ゼーヴァから課せられたある条件をクリアするためのある知識も必要だった。
こんな時に行く場所は決まっている。図書館だ。
アスタフェルに城の図書館に連れてきてもらって、ワタシは本を漁りはじめた。
ここに用がなくワタシが相手もしなくなって暇になったアスタフェルは、じゃあそのうち迎えに来るわ、と飛び去っていった……というのが数時間前の出来事となる。
さすがに本を読むのにも疲れたワタシは、図書館のバルコニーに出て外を眺めていた。
着ている黒いローブの袖や裾が風を受けて揺れる。このローブはアスタフェルに借りた物で、人間の世界で着ていたものより質や縫製がしっかりしているし、もちろん染みついた薬草の匂いもなかった。
ここは風が強く本を読むのには適さないが、高い場所にあるから本当に遠くまで見渡すことができる。本当に、遠くまで。
目の下に広がるのは地図のような景色だ。
遠く地平まで続く森林。あるのはそれだけだ。それを俯瞰できている。
つまりは物理的に高い所から眺めているのだ。
といっても崖の上にいるというわけではない。
ワタシがいるこの図書館、空に浮かんだ浮遊島に建っているのである。つまり正確にいうと図書館というより図書館島だった。
困ったことに、ここにはいくつもの浮遊島があり、各浮遊島にそれぞれ施設が独立して建っていて、それを全体として『城』と称しているのである。
その時、空から美しい魔王がやって来た。
純白の四枚の翼が常に動き、白銀の長髪が翼の風圧に靡いている。そして頭には禍々しき二本の捻れ曲った角。着ているのは前を合わせ帯で腰を留めた紺色の異国のローブ……。
そしてその背にリュックを背負っていた。
「よっ、ジャンザ! エプロンドレス着るか?」
「開口一番それかよ……。普通は、目的の知識はあったか? とかだろ」
「うむ。我が婚約者ジャンザよ、目的の知識は見つかったか?」
「なんでちょっと偉そうに……。とりあえずリクエスト通りの台詞、どうもありがとう。それが見当たらなくてな。まだまだ時間がかかりそうだ。まったく、知識を得ようとする行為とは何故斯様にも時間がかかるものなのか……」
「そうだよなあ、ちょっと調べものしてたらすぐ百年とか経つしな」
「それはオマエだけだ」
創世の神話時代から存在し続ける永劫の命を持つ風の魔王アスタフェル。彼にかかれば百年というのは一時間くらいのものらしい。
「ところでジャンザ、お前に頼まれてたゼーヴァの説得なんだが……」
「おお、どうだった?」
「やっぱり駄目だなアレ。頭の固さがジャンザ並みなんだよなあいつって」
「なるほどワタシ並み。それは無理だな」
「なあ、どうしてもフィナ討伐に付いてきたいのか? ここでおとなしく待っててもいいだろ別に」
……フィナ。死んだワタシの師匠アリアネディアの使い魔にして、その墓を守る恐ろしき魔物。
アスタフェルは近々、そのフィナの討伐に行くことになっていた。
師匠の亡骸を護りながら、墓を荒らしに来た魔物達を風の刃で千々に切り刻んでいるそうだ。
……宣言通りじゃないか、フィナ。
やっぱりフィナは強いし、ワタシの頼れる姉さんだ。けどちょっとやり過ぎているらしく、アスタフェルのところに危ないからどうにかしてくれと陳情が来ているという。
「フィナはワタシの姉代わりの魔物だ。どうしても結婚式に呼びたい。ワタシが行けばそれも叶うだろう。少なくともオマエ一人で行くよりは話を聞いてくれる」
もちろんフィナはワタシの姉代わりの魔物ということで、殺したり、本気を出すことはしないとアスタフェルは約束してくれている。
……実のところ、フィナを結婚式に呼びたいというのはただの建前だった。
とにかくフィナのことが心配なのだ。
いくら手加減してくれると約束してくれていても、アスタフェルの魔力は膨大すぎる。少し手加減を間違えただけであっという間に消滅するだろう。
それならフィナと話をして気を鎮めるほうが確実だ。
ワタシには、それができる。
「なあ、どうしてもフィナを結婚式に呼びたいのか……?」
「新婦の姉代わりを結婚式に呼ぶなんて涙必至のいい演出じゃないか。絶対に呼ぶべきだよ。オマエだってワタシの姉代わりのフィナとならしたい話もあるだろう? 惨殺魔のフィナじゃなしにさ」
「そりゃそうだが……」
ワタシとアスタフェルは前々からの宣言通り、この地で結婚することになっていた。
魔界で生活していく上ではワタシにも何か肩書きがあると便利なので、ワタシとしても願ったり叶ったりである。魔王の妻、というのはなかなか上物の肩書きだからだ。
だから、今のワタシの肩書きは魔王の婚約者ということになる。
まあ、やぶさかではない。ワタシだって好きだしな、アスタフェルのこと。
が、縁の深い姉代わりの魔物を式に呼びたいという健気な新婦の願いを真っ向から反対するものがいた。宰相のゼーヴァだ。
別に、危険だから同行禁止、というわけではない。
ゼーヴァにしてみればワタシはアスタフェルに纏わり付くただの人間にしか過ぎず、自ら危険に飛び込んで死んでくれれば万々歳だろう。
飛べもしないただの人間が魔王についていったら足手まといになって魔王に危険が及ぶかも知れないから付いていくのは反対、なのである。
逆に言えば、自力で飛ぶことができれば同行を許可するということだ。
アスタフェルの魔力を引き出して自分に飛行の魔法を掛ければいい――と高をくくっていたワタシは、その申し出に乗った。
申し出に乗ったまではよかったのだが、肝心の飛行の魔法が存在していなかった。
「……しかしほんと、なんでここには飛行の魔法がないんだよ。魔界の、それも風の力が充ち満ちた風の領域だぞここは。普通そういうところは風の魔法の本場だろうに」
「といってもなあ。空を飛ぶなんて当たり前すぎて……。お前だって足で歩くにはどうしたらいい? とか聞かれても困るだろ」
「まあ、そりゃあな……」
空を飛ぶというのは風の魔物達が無意識にしていることで、誰かに順序立てて教えるようなことでもないというのである。
だから空を飛ぶ魔法を覚えようと思ったら違ったアプローチが必要であり、それがここの蔵書にあるのではないかと……そう願っている。
それに空を自由に飛べれば、いちいちアスタフェルに運んでもらわなくて済むから浮遊島間の移動も楽に行える。……アスタフェルがワタシを運ぶのってどうにも雑で怖いし。
とにかく、ワタシは早急に飛行魔法を覚える必要があるのだ。
ちなみに図書館に収められた本の文字は読めた。ここの文字は魔女にのみ伝わる古代の文字そのままだったからだ。
魔女の伝える神話時代の文字は凄まじく精確に伝わっていた、ということだ。
「で、だ。それについてなんだが、俺に考えがある」
「なんだよ」
「実はな……」
ワタシとほぼ同い年に見えるアスタフェルは、その身軽な体躯をふわりとバルコニーの手すりに腰掛けさせた。
魔界に帰ってきてからというもの、アスタフェルからは体重というものがなくなってしまったようだった。人間の世界ではあんなに重かったのに……。これも風の力なのだろう。
「ジャンザよ。エプロンドレス着ないか?」
「話が繋がってないぞ」
「現物を見ればお前は自ら、そのエプロンドレス着たーいっ、というであろうぞ」
と変なシナを作ってニヤけるアスタフェル。
そんな彼の態度に少し興味が出る。
「ほう、何か考えがあるみたいだな」
「まあとりあえず現物を見てみろ。話はそれからだ」
彼はバルコニーの手すりに座ったままリュックを降ろし、抱えるようにして中を漁った。
そして出てきたのは……
「おお、それは」
西からの風にそよそよと靡く白きフリル。
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まさか、あのエプロンドレス……!?
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