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番外編
エプロンドレスは神器となった◆後編
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*番外編の後編です
*エプロンドレスのリクエスト、ありがとうございました!
*この番外編の設定は変わる可能性があります
*楽しんでいただけたら嬉しいです
*前編と後編で別れています
*ではどうぞ!
◇◇◇◇◇◇
「それ、取ってきたのか……!」
「え? 違う違う。俺もう人間の世界に行くことはできないし……。記憶のなかのエプロンドレスを再現したんだよ」
「……そうか、すまん」
確かに魔王である彼が人間の世界に行くことは、本来ならば不可能なことである。人の世界を守る聖神たちの加護はそんな甘いものではない。
少し前までの彼が何故簡単に行き来できていたかというと、それはあくまでもワタシという楔があったからだ。
彼はワタシを起点として世界を行き来していたに過ぎない。その起点たるワタシがここにいるのだから、もう前のように気軽に行き来できなくなったということだ。
「これ出来上がったのがついさっきでな。この二日間で作らせたんだぞ、凄くない? 凄いだろ? 凄いよな?」
「そんなに念を押さなくてもちゃんと凄いと思うよ」
「しかもフリルカチューシャ付き」
「よしよくやった!」
これがあのエプロンドレスでないなんていうのは些細なことではないか。
思い出なんて新しく作ればいい。
ああ、もちろんいくらでも作れるさ。このフリルカチューシャ付きのエプロンドレスならばいとも簡単にな!
「……ていうかジャンザ、これ見て分からないのか?」
「え? ああ。あのエプロンドレスによく似てる。よくここまで再現できたな」
かつて媚薬の材料を求めて行った市で買った、あの繊細かつ優美かつ、なのにきちんと仕事着としての機能美をすら取り入れるという奇蹟のバランスを呈していたエプロンドレス。あれに本当にそっくりだった。
アスタフェルは『記憶のなかのエプロンドレス』と言っていたし、彼が覚えているエプロンドレスをデザインとして裁縫職人に提供したにしても本当によくできている。
「これの凄さはそれだけじゃないぞ。うーん……、触ったら分かるかもしれんな。触ってみろ」
「触っても着ないからな」
と言いつつ受け取る。
絹のような薄さやしなやかさはなく、あくまでも丈夫なごわっとした厚めの生地である。それが本来の主目的である仕事着としての矜持をこのエプロンドレスに与えている――って、これは。
少しごわつくその生地のなかに、確かに魔力を感じる……。
「ようやく分かったようだな。俺の魔力を込めたんだ」
「何故そんなことを。エプロンドレスはそれだけで完成された美だ、余計な添加物など不要だ」
「着ると空飛べるようになるぞ」
アスタフェルのその言葉の意味を、ワタシは急いで頭の中に反芻させた。
「……はっ!? どういうことだよ!?」
しかし反芻しきれずキレ気味に聞き返してしまった。
「なんだよ怖いな。このエプロンドレス、俺の魔力を込めて作らせたんだよ。空飛べるようにって。フィナのこともあるけど、ここって飛べないと不便だろ? だからジャンザも空飛べた方がいいかなーって思ってさ」
「おお……」
確かにエプロンドレスはそれだけで完成されているものだが、この機能はありがたい。
ただでさえ完璧なエプロンドレスが便利機能でさらに完璧に……。
これはもはやエプロンドレスという名の神器だ。いやエプロンドレスが神器になったら駄目なんじゃないか? だってエプロンドレスはエプロンドレスで素晴らしいものだし……。
というか魔王の魔力が籠もってるのに神器っていうのもおかしいか。いやアスタフェルは元神族だから当たらずとも遠からずだ。そういうことにしておこう。
しかしどうしよう。この素晴らしい神器としてのエプロンドレスを前に、ワタシは既存のエプロンドレスとして完成されているエプロンドレスを否定してしまうというのか?
でもこれさえ身につければフィナ討伐に付いていける……!!!
「……っていやちょっと待て。これって着ないと空飛べないんだよな?」
ワタシはふと我に返って、手すりに座ったままのアスタフェルの流麗な顔を見上げた。
「もちろんだともよ。ついでにジャンザのかわいい姿を見れるなんて一石二鳥。我ながらよく思いついたものだ」
「いや、駄目だ、駄目!」
慌ててそのエプロンドレスをアスタフェルに突っ返す。
「ワタシは着ないからな!」
「ええ……可愛いのに」
「それを着るのはオマエだ、アスタフェル」
「……は?」
「ワタシが着たらオマエが着てるのが見れない」
ワタシはアスタフェルがエプロンドレスを着たところが見たいのだ。自分で着ても意味はない。
アスタのエプロンドレス姿を見れないなんて、そんなのは……困る。
しかし、
「あっはははははははははははは!」
返ってきたのは爆笑だった。
「なっ、何がおかしい! これは由々しき事態なんだぞ!」
「ああ、悪い悪い。でも安心した、そんな理由だったのか。エプロンドレス自体が嫌いだったらどうしようかと思ったわ」
「好きだから……悩んでいるんだ……」
「まあそういうことになるのか。お前の並々ならぬ熱情、確かに感じるわ。だが別に一着を二人で着回したっていいだろうが」
「そういう問題じゃないんだ。一枚しかない貴重なエプロンドレスだぞ。所有権というか、所有者というか……、そのエプロンドレスを着用できるのはたったの一人。そんな関係がそのエプロンドレスには好ましいと、ワタシは思うんだ」
「そのこだわりはなんか怖いわ。まあでもこれじゃ埒があかないからさっさとネタばらししてやる」
と、アスタフェルがリュックからもう一枚、エプロンドレスを取り出したではないか!
ワタシは思わず息をのんだ。
「なっ……エプロンドレスがもう一着あるだと……!?」
「フリルカチューシャも付いてるぞ」
「よしよくやった!」
「別に一枚しか作っちゃいけないってわけじゃないからな。あと数枚作らせる予定だ。つまり俺のとお前のとで二組あるってわけだ、洗濯中の換えも含めてな」
「凄い、オマエ凄いじゃないかアスタフェル」
さすがは風の魔王、創世の時代から存在しているだけのことはある。ワタシ一人では思いもつかない解決方法だ。
エプロンドレス一枚に拘泥していたワタシはなんと小さな存在だったのだろうか……。
「そのかわり」
とん、と手すりから降りてワタシの隣りに立つ風の魔王アスタフェル。
「……分かってるよな?」
と熱っぽい視線で言いつつワタシの肩に手を掛けた。
「……?」
「いやすまん。お前は男女の機微にはとにかく疎いんだった。ええっとな、俺はエプロンドレス二枚持ってきたんだよ。何故だと思う?」
「一緒に着るんだろ? 楽しみだな。久々のオマエのエプロンドレス姿」
彼は視線を図書館内に向けた。顔が何故か真っ赤だ。
「まあ、ほら。図書館の暗がりでさ、二人でこれ着て機能テストを一緒にしようかなと思ったんだよ俺」
「それなら別にオマエは着なくてもいいんじゃないか? そりゃ着てくれたら嬉しいけど」
「ああもう。なんかいたいけな子供騙してるみたいで気が引ける。早く行こう。実地で分からせる。嫌いじゃないだろ?」
「……何に対して?」
「俺のこと」
「ああ、好きだよ」
「跳ね返ってくるみたいに即答するよなぁ。言葉が軽くて心配になるわ」
「ワタシもつい最近ようやくそれに気がついたよ」
ワタシは言葉で人を弄してきた。だからか、こういう言葉の端々がすごく軽い印象を与えてしまうらしい。それを、ワタシは最近ようやく知った。
「だがオマエのことは本気で好きなんだ。オマエと別れていた三ヶ月間でそれは嫌というほど思い知った。エンリオにも迷惑かけたしな」
今思うとあの三ヶ月間って、実はアスタフェルに未練がありすぎて知らず知らずのうちに聖騎士エンリオに迷惑かけていたんだよな……。
アスタフェルはその澄んだ空色の瞳でワタシをじっと見つめる。
「エンリオに迷惑かけるほど俺のことが好き……、その言葉は重さがあって信じられるな。恋敵の苦労が掛かってるからか。皮肉なものだ」
「恋敵? エンリオが?」
「ああ。あいつはあいつなりにお前のこと本気で好きだったんだぞ、疎すぎて分かってないみたいだから言っとくけど」
「エンリオが好きなのはワタシじゃなくて聖妃様だろ。ワタシはワタシさ。それより早くテストしよう」
話を切り上げて、ワタシはアスタフェルが抱える二着のエプロンドレスを見つめた。
早く神器エプロンドレスを試してみたい。しかも二着もあるし、そのうえこれから増えるのだ。それをアスタフェルが着る。なんという多幸感であろうか。
「嬉しいよ。検証実験って好きなんだ。頭で予想したこと実験で確かめていくってワクワクするよな! しかもアスタがエプロンドレス着て協力してくれるなんて」
「……ここじゃなんだし、中に行こう。案内する……」
そういえば、図書館の暗がりで、とか言ってたな。
「室内でするのか? 空を飛ぶ機能の検証実験なら外でやったほうがいいだろうに」
ワタシの問いに、アスタフェルは視線を泳がせながら呟いた。
「……いや、まずは室内で」
「そうか? じゃあ頼む」
まあいいや。風の魔王がこう言ってるんだから、なにか深い考えがあってのことなのだろう。
アスタフェルはワタシの手をそっととって、ひんやりとしたしなやかな長い指を絡めてくる。
「………………」
ふぅ、と息をつくアスタフェル。
握った手に、きゅっと力が入った。
「ジャンザ、好きだぞ。俺の気持ちを実地で思う存分検証実験するがよい。俺はもう何されてもいいって覚悟してるからな!」
「……? ああ、そういうことか」
ようやく彼の真意がストンと腑に落ちた。
本当にワタシはこういうことに疎いんだな……。
まあ、ワタシも……やぶさかではない、かな。
図書館っていうのはちょっと気になるけどね……。
……ていうかワタシが検証実験の主導権を握るのか、アスタフェルよ……。
まあ、別にいいか。そうとなったらそうするのみだ。
「そういうことならオマエの覚悟に応えるのが礼儀というもの。ただしワタシの検証実験は厳しいぞ、アスタ。心してかかれよ」
「うむ、よろしく頼む。頑張る!」
真面目な答えに、ワタシは思わず吹き出した。
◇◇◇◇◇◇
お読みいただきありがとうございました!
番外編というか、本編のその後の話ですが
お気に召していたけたかどうか…
また何か、番外編(その後の話かも?)書くかもしれません
その時はまた、お読みいただけましたら嬉しいです
お気に入り登録、感想などお気軽にお願いします! やる気がみなぎります!
*エプロンドレスのリクエスト、ありがとうございました!
*この番外編の設定は変わる可能性があります
*楽しんでいただけたら嬉しいです
*前編と後編で別れています
*ではどうぞ!
◇◇◇◇◇◇
「それ、取ってきたのか……!」
「え? 違う違う。俺もう人間の世界に行くことはできないし……。記憶のなかのエプロンドレスを再現したんだよ」
「……そうか、すまん」
確かに魔王である彼が人間の世界に行くことは、本来ならば不可能なことである。人の世界を守る聖神たちの加護はそんな甘いものではない。
少し前までの彼が何故簡単に行き来できていたかというと、それはあくまでもワタシという楔があったからだ。
彼はワタシを起点として世界を行き来していたに過ぎない。その起点たるワタシがここにいるのだから、もう前のように気軽に行き来できなくなったということだ。
「これ出来上がったのがついさっきでな。この二日間で作らせたんだぞ、凄くない? 凄いだろ? 凄いよな?」
「そんなに念を押さなくてもちゃんと凄いと思うよ」
「しかもフリルカチューシャ付き」
「よしよくやった!」
これがあのエプロンドレスでないなんていうのは些細なことではないか。
思い出なんて新しく作ればいい。
ああ、もちろんいくらでも作れるさ。このフリルカチューシャ付きのエプロンドレスならばいとも簡単にな!
「……ていうかジャンザ、これ見て分からないのか?」
「え? ああ。あのエプロンドレスによく似てる。よくここまで再現できたな」
かつて媚薬の材料を求めて行った市で買った、あの繊細かつ優美かつ、なのにきちんと仕事着としての機能美をすら取り入れるという奇蹟のバランスを呈していたエプロンドレス。あれに本当にそっくりだった。
アスタフェルは『記憶のなかのエプロンドレス』と言っていたし、彼が覚えているエプロンドレスをデザインとして裁縫職人に提供したにしても本当によくできている。
「これの凄さはそれだけじゃないぞ。うーん……、触ったら分かるかもしれんな。触ってみろ」
「触っても着ないからな」
と言いつつ受け取る。
絹のような薄さやしなやかさはなく、あくまでも丈夫なごわっとした厚めの生地である。それが本来の主目的である仕事着としての矜持をこのエプロンドレスに与えている――って、これは。
少しごわつくその生地のなかに、確かに魔力を感じる……。
「ようやく分かったようだな。俺の魔力を込めたんだ」
「何故そんなことを。エプロンドレスはそれだけで完成された美だ、余計な添加物など不要だ」
「着ると空飛べるようになるぞ」
アスタフェルのその言葉の意味を、ワタシは急いで頭の中に反芻させた。
「……はっ!? どういうことだよ!?」
しかし反芻しきれずキレ気味に聞き返してしまった。
「なんだよ怖いな。このエプロンドレス、俺の魔力を込めて作らせたんだよ。空飛べるようにって。フィナのこともあるけど、ここって飛べないと不便だろ? だからジャンザも空飛べた方がいいかなーって思ってさ」
「おお……」
確かにエプロンドレスはそれだけで完成されているものだが、この機能はありがたい。
ただでさえ完璧なエプロンドレスが便利機能でさらに完璧に……。
これはもはやエプロンドレスという名の神器だ。いやエプロンドレスが神器になったら駄目なんじゃないか? だってエプロンドレスはエプロンドレスで素晴らしいものだし……。
というか魔王の魔力が籠もってるのに神器っていうのもおかしいか。いやアスタフェルは元神族だから当たらずとも遠からずだ。そういうことにしておこう。
しかしどうしよう。この素晴らしい神器としてのエプロンドレスを前に、ワタシは既存のエプロンドレスとして完成されているエプロンドレスを否定してしまうというのか?
でもこれさえ身につければフィナ討伐に付いていける……!!!
「……っていやちょっと待て。これって着ないと空飛べないんだよな?」
ワタシはふと我に返って、手すりに座ったままのアスタフェルの流麗な顔を見上げた。
「もちろんだともよ。ついでにジャンザのかわいい姿を見れるなんて一石二鳥。我ながらよく思いついたものだ」
「いや、駄目だ、駄目!」
慌ててそのエプロンドレスをアスタフェルに突っ返す。
「ワタシは着ないからな!」
「ええ……可愛いのに」
「それを着るのはオマエだ、アスタフェル」
「……は?」
「ワタシが着たらオマエが着てるのが見れない」
ワタシはアスタフェルがエプロンドレスを着たところが見たいのだ。自分で着ても意味はない。
アスタのエプロンドレス姿を見れないなんて、そんなのは……困る。
しかし、
「あっはははははははははははは!」
返ってきたのは爆笑だった。
「なっ、何がおかしい! これは由々しき事態なんだぞ!」
「ああ、悪い悪い。でも安心した、そんな理由だったのか。エプロンドレス自体が嫌いだったらどうしようかと思ったわ」
「好きだから……悩んでいるんだ……」
「まあそういうことになるのか。お前の並々ならぬ熱情、確かに感じるわ。だが別に一着を二人で着回したっていいだろうが」
「そういう問題じゃないんだ。一枚しかない貴重なエプロンドレスだぞ。所有権というか、所有者というか……、そのエプロンドレスを着用できるのはたったの一人。そんな関係がそのエプロンドレスには好ましいと、ワタシは思うんだ」
「そのこだわりはなんか怖いわ。まあでもこれじゃ埒があかないからさっさとネタばらししてやる」
と、アスタフェルがリュックからもう一枚、エプロンドレスを取り出したではないか!
ワタシは思わず息をのんだ。
「なっ……エプロンドレスがもう一着あるだと……!?」
「フリルカチューシャも付いてるぞ」
「よしよくやった!」
「別に一枚しか作っちゃいけないってわけじゃないからな。あと数枚作らせる予定だ。つまり俺のとお前のとで二組あるってわけだ、洗濯中の換えも含めてな」
「凄い、オマエ凄いじゃないかアスタフェル」
さすがは風の魔王、創世の時代から存在しているだけのことはある。ワタシ一人では思いもつかない解決方法だ。
エプロンドレス一枚に拘泥していたワタシはなんと小さな存在だったのだろうか……。
「そのかわり」
とん、と手すりから降りてワタシの隣りに立つ風の魔王アスタフェル。
「……分かってるよな?」
と熱っぽい視線で言いつつワタシの肩に手を掛けた。
「……?」
「いやすまん。お前は男女の機微にはとにかく疎いんだった。ええっとな、俺はエプロンドレス二枚持ってきたんだよ。何故だと思う?」
「一緒に着るんだろ? 楽しみだな。久々のオマエのエプロンドレス姿」
彼は視線を図書館内に向けた。顔が何故か真っ赤だ。
「まあ、ほら。図書館の暗がりでさ、二人でこれ着て機能テストを一緒にしようかなと思ったんだよ俺」
「それなら別にオマエは着なくてもいいんじゃないか? そりゃ着てくれたら嬉しいけど」
「ああもう。なんかいたいけな子供騙してるみたいで気が引ける。早く行こう。実地で分からせる。嫌いじゃないだろ?」
「……何に対して?」
「俺のこと」
「ああ、好きだよ」
「跳ね返ってくるみたいに即答するよなぁ。言葉が軽くて心配になるわ」
「ワタシもつい最近ようやくそれに気がついたよ」
ワタシは言葉で人を弄してきた。だからか、こういう言葉の端々がすごく軽い印象を与えてしまうらしい。それを、ワタシは最近ようやく知った。
「だがオマエのことは本気で好きなんだ。オマエと別れていた三ヶ月間でそれは嫌というほど思い知った。エンリオにも迷惑かけたしな」
今思うとあの三ヶ月間って、実はアスタフェルに未練がありすぎて知らず知らずのうちに聖騎士エンリオに迷惑かけていたんだよな……。
アスタフェルはその澄んだ空色の瞳でワタシをじっと見つめる。
「エンリオに迷惑かけるほど俺のことが好き……、その言葉は重さがあって信じられるな。恋敵の苦労が掛かってるからか。皮肉なものだ」
「恋敵? エンリオが?」
「ああ。あいつはあいつなりにお前のこと本気で好きだったんだぞ、疎すぎて分かってないみたいだから言っとくけど」
「エンリオが好きなのはワタシじゃなくて聖妃様だろ。ワタシはワタシさ。それより早くテストしよう」
話を切り上げて、ワタシはアスタフェルが抱える二着のエプロンドレスを見つめた。
早く神器エプロンドレスを試してみたい。しかも二着もあるし、そのうえこれから増えるのだ。それをアスタフェルが着る。なんという多幸感であろうか。
「嬉しいよ。検証実験って好きなんだ。頭で予想したこと実験で確かめていくってワクワクするよな! しかもアスタがエプロンドレス着て協力してくれるなんて」
「……ここじゃなんだし、中に行こう。案内する……」
そういえば、図書館の暗がりで、とか言ってたな。
「室内でするのか? 空を飛ぶ機能の検証実験なら外でやったほうがいいだろうに」
ワタシの問いに、アスタフェルは視線を泳がせながら呟いた。
「……いや、まずは室内で」
「そうか? じゃあ頼む」
まあいいや。風の魔王がこう言ってるんだから、なにか深い考えがあってのことなのだろう。
アスタフェルはワタシの手をそっととって、ひんやりとしたしなやかな長い指を絡めてくる。
「………………」
ふぅ、と息をつくアスタフェル。
握った手に、きゅっと力が入った。
「ジャンザ、好きだぞ。俺の気持ちを実地で思う存分検証実験するがよい。俺はもう何されてもいいって覚悟してるからな!」
「……? ああ、そういうことか」
ようやく彼の真意がストンと腑に落ちた。
本当にワタシはこういうことに疎いんだな……。
まあ、ワタシも……やぶさかではない、かな。
図書館っていうのはちょっと気になるけどね……。
……ていうかワタシが検証実験の主導権を握るのか、アスタフェルよ……。
まあ、別にいいか。そうとなったらそうするのみだ。
「そういうことならオマエの覚悟に応えるのが礼儀というもの。ただしワタシの検証実験は厳しいぞ、アスタ。心してかかれよ」
「うむ、よろしく頼む。頑張る!」
真面目な答えに、ワタシは思わず吹き出した。
◇◇◇◇◇◇
お読みいただきありがとうございました!
番外編というか、本編のその後の話ですが
お気に召していたけたかどうか…
また何か、番外編(その後の話かも?)書くかもしれません
その時はまた、お読みいただけましたら嬉しいです
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