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6話 珠、割れる
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強く光りを放つ選定の珠。
これは、聖女に選定したという証の光――?
おおおお、とティターニアの背後から歓声が起こるが、大神官が睨みを効かせてそれを抑えた。
(止まるな、ティターニア。踊り続けるのだ)
光りを放つ球に驚いて止まってしまったティターニアは、不思議な男の声に導かれるまま、舞の続きを踊りはじめた。
引いた足を横に。そしてしなやかにゆっくりと前へ。捧げた珠は頭上に掲げるように上へ。
何度も練習して身についたその動きを、ティターニアはことさらに意識して行っていく。
これで聖女に選ばれてしまえば、ティターニアはこの声の主……銀髪の青年とはもう会えなくなるかも知れない。
それでも……、ティターニアは無心に踊り続けた。
長年の聖女修行で培った女神への忠誠心がそうさせた。
踊り続けるティターニアの足下に、ぱっと光が生まれた。
光は広がり、床に複雑な紋様の魔法陣を描き出す。ティターニアが踊るにつれ、書き込みがさらに複雑に足されていく。まるで魔法陣自身すら踊っているかのように、華麗に……。
珠と魔法陣、両の光りに照らされながらティターニアは踊り続ける。
あと少しで舞が終わる。光りの魔法陣も完成する。そのとき、聖女の選定は成される……。
今は何も考えない。
ただ、踊りに集中する。
聖堂内全ての者が固唾をのんで見守っていた。
……いや、たった一人だけ、違った。
「きゃーっ! 私にしか感知できない強風が突然私を襲うー!!!!!」
説明口調の叫びが聞こえたかと思うと、ティターニアは突然の横からの衝撃に吹っ飛んだ。
「いっづぅっ……!」
顔からダイブ。
ティターニアは石の床に顔面をしたたかに打ってしまう。顔面、特に鼻がとにかく熱い。
「ふん。こういうことだったのね。ヒロインの私が聖女に選ばれない隠しイベントなのかと思っちゃったじゃない、まったく……」
さきほどまでティターニアがいた光る魔法陣の中央、そこに仁王立ちするのは異世界から来た少女ユリカだった。
ユリカが全力で体当たりしてきたのだ。
「あのスチルとテキストだけで踊りまで想像しろなんて無茶よ、手抜きしてさ。まあとにかく結果が全て! 私の踊りありがとね、ティターニア。もうすっこんでいいわよ、ここからは私のイベントだから」
だがティターニアはユリカの声をほとんど聞いていなかった。
鼻が尋常じゃないくらい熱い、痛い。折れたようだ。
なんだか鼻水のような生ぬるい感覚が唇に掛かってきたので鼻を押さえていた手を目の前に持ってきて広げてみると、ねっとりとした血が付いていた。
「うぇっ……」
「あーら、モブのくせに派手な鼻血ね! あはははははは!」
しかし、異世界から来た少女のあんまりな行動を咎めるものはいなかった。
あまりの突飛な行動に、あの王子さえも驚いて固まってしまっているのだ。
「さてっ、真のヒロインの私が続きをするわよ! 踊りの続きをしたらいいのかしら? 選定のクリスタルはどこ……?」
ユリカは周囲をキョロキョロと見渡す。
そして、床に転がった選定の珠を見つけてニヤリと笑った。
体当たりされたティターニアが、その勢いで放り出してしまったのである。
「あったあった……えっ」
ユリカにつられて珠を見つけた人々も、一様にはっと息をのんだ。
まだ光を放つ選定の珠には一本のヒビが糸のように入っていて……。
固い石の床に放り投げられごっちんと直撃したのだ。
そのダメージたるやかなりのものだったらしい。
皆の見守るなか、珠はパカッと、あっけなく真っ二つに割れた。
「え、あれって割れるものなの?」
ユリカが驚きの声を上げたのと同時に、割れた光の球から濃紫の光と荒れ狂う風が溢れ出してきた。
これは、聖女に選定したという証の光――?
おおおお、とティターニアの背後から歓声が起こるが、大神官が睨みを効かせてそれを抑えた。
(止まるな、ティターニア。踊り続けるのだ)
光りを放つ球に驚いて止まってしまったティターニアは、不思議な男の声に導かれるまま、舞の続きを踊りはじめた。
引いた足を横に。そしてしなやかにゆっくりと前へ。捧げた珠は頭上に掲げるように上へ。
何度も練習して身についたその動きを、ティターニアはことさらに意識して行っていく。
これで聖女に選ばれてしまえば、ティターニアはこの声の主……銀髪の青年とはもう会えなくなるかも知れない。
それでも……、ティターニアは無心に踊り続けた。
長年の聖女修行で培った女神への忠誠心がそうさせた。
踊り続けるティターニアの足下に、ぱっと光が生まれた。
光は広がり、床に複雑な紋様の魔法陣を描き出す。ティターニアが踊るにつれ、書き込みがさらに複雑に足されていく。まるで魔法陣自身すら踊っているかのように、華麗に……。
珠と魔法陣、両の光りに照らされながらティターニアは踊り続ける。
あと少しで舞が終わる。光りの魔法陣も完成する。そのとき、聖女の選定は成される……。
今は何も考えない。
ただ、踊りに集中する。
聖堂内全ての者が固唾をのんで見守っていた。
……いや、たった一人だけ、違った。
「きゃーっ! 私にしか感知できない強風が突然私を襲うー!!!!!」
説明口調の叫びが聞こえたかと思うと、ティターニアは突然の横からの衝撃に吹っ飛んだ。
「いっづぅっ……!」
顔からダイブ。
ティターニアは石の床に顔面をしたたかに打ってしまう。顔面、特に鼻がとにかく熱い。
「ふん。こういうことだったのね。ヒロインの私が聖女に選ばれない隠しイベントなのかと思っちゃったじゃない、まったく……」
さきほどまでティターニアがいた光る魔法陣の中央、そこに仁王立ちするのは異世界から来た少女ユリカだった。
ユリカが全力で体当たりしてきたのだ。
「あのスチルとテキストだけで踊りまで想像しろなんて無茶よ、手抜きしてさ。まあとにかく結果が全て! 私の踊りありがとね、ティターニア。もうすっこんでいいわよ、ここからは私のイベントだから」
だがティターニアはユリカの声をほとんど聞いていなかった。
鼻が尋常じゃないくらい熱い、痛い。折れたようだ。
なんだか鼻水のような生ぬるい感覚が唇に掛かってきたので鼻を押さえていた手を目の前に持ってきて広げてみると、ねっとりとした血が付いていた。
「うぇっ……」
「あーら、モブのくせに派手な鼻血ね! あはははははは!」
しかし、異世界から来た少女のあんまりな行動を咎めるものはいなかった。
あまりの突飛な行動に、あの王子さえも驚いて固まってしまっているのだ。
「さてっ、真のヒロインの私が続きをするわよ! 踊りの続きをしたらいいのかしら? 選定のクリスタルはどこ……?」
ユリカは周囲をキョロキョロと見渡す。
そして、床に転がった選定の珠を見つけてニヤリと笑った。
体当たりされたティターニアが、その勢いで放り出してしまったのである。
「あったあった……えっ」
ユリカにつられて珠を見つけた人々も、一様にはっと息をのんだ。
まだ光を放つ選定の珠には一本のヒビが糸のように入っていて……。
固い石の床に放り投げられごっちんと直撃したのだ。
そのダメージたるやかなりのものだったらしい。
皆の見守るなか、珠はパカッと、あっけなく真っ二つに割れた。
「え、あれって割れるものなの?」
ユリカが驚きの声を上げたのと同時に、割れた光の球から濃紫の光と荒れ狂う風が溢れ出してきた。
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