龍使いの姫君~龍帝の寵姫となりまして~

卯月八花

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第6話 浮気の勧め!?

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「どうしようかしらねぇ……」

 咲き誇る花々と空の青さを眺めながら、私は呟いた。
 ここは後宮内の御花園にある東屋あずまや。私のお気に入りの場所の一つだ。

 あれから3ヶ月。季節はすでに夏に入っていた。
 私の悩み事はただひとつ。龍帝陛下がいつまでたってもお渡りに来てくれないことである。

 こっちの計画が(暗殺)はかどらないったらないわよ。

巫貴妃ふきひ様、お茶をお持ちいしました」

 と、女官の家麗さんが東屋の卓子テーブルに茶器を置いてくれた。

「ありがとう、家麗さん。まったく、龍帝陛下ったら。こんなに女がいて、なんで後宮にこようとしないのかしらね」

 家麗さんに愚痴ったってしょうがないというのは分かってるのだが、あまりにもお渡りがないものだからつい愚痴ってしまった。

「……えっと、巫貴妃様。その、龍帝陛下は、女性全般がお嫌いなのですわ。だから、その……」

「ごめん、ごめん」

 真面目に受け答えしてくれる家麗さんに、私は笑いながら謝った。

「分かってるって。冗談よ、冗談。ここに来た日に説明してくれたものね、家麗さん」

「はい」

「それにしても困ったものよね。せっかくここまできたっていうのに、このままじゃ後宮にいる意味もないわ」

 後宮の妃は外に出られないのよね……。これじゃあいつまで経っても暗殺なんかできないわよ。

「あの、巫貴妃様。龍帝陛下のお渡りを待つのは、無駄なことではないでしょうか?」

「はぁ。どうもそういうことになってきたわね。さてどうするか……」

 私が聞き返すと、彼女は少し顔を赤らめ、もじもじしながら言った。

「その、巫貴妃様、どうしても龍帝陛下がよろしいのでしょうか?」

「もちろんよ」

「いえ、その……。もしよろしければ、他の方を選ばれたほうがよろしいのではないかと、思いまして……」

「…………え?」

「例えば、龍帝陛下の異母弟であらせられる鳳哲幽ほうてつゆう様などはどうでしょうか? あの、血統的に繋がっていらっしゃるので皇統は継がれるといいますか……」

「は、え? ちょっと待って。それって……」

 浮気させようっていうこと?
 なに、これ。私のこと罠にはめようとでもしてるの?

「あ、あの、巫貴妃様、別に他意はございませんのよ! ただその、龍帝陛下にはその気がまったくございませんので。仕方なく、といいますか……」

「もしそれで妊娠でもしたらどうするのよ? いくらなんでも一度も来ない龍帝陛下の子です、なんていえないわよそんなの。他の男を引っ張り込んだっていってるようなものじゃないの」

「……そのぅ、龍帝陛下がそれを御承認なさっておいでなので……」

「は!?」

 思わず声が裏返ってしまった。

「嘘でしょ? 龍帝陛下自身が浮気認めてるの!?」

「いえ、浮気といっても前皇帝の子息……、つまり龍帝陛下の異母兄弟に限る、ということでございます。龍帝陛下は女性と契る気がまったくないので、それならば自分の兄弟たちに協力してもらってもいいのではないか、というようなお触れを出し……」

「……呆れた。そこまでこの後宮が嫌なわけ?」

「それはもう」

 家麗さんは苦笑する。

「本当なら後宮なんか解散したい、といつもおっしゃっておられます」

「…………………………」

 思わず言葉がなくなるわ。何もしていないのになんでそんなに嫌われなくちゃいけないのよ……。

「ええと……、他の妃たちはどうしてるの? お渡りがないとはいえ十数人はこの後宮にいるはずだけど。やっぱり、その、言葉は悪くなるけど他の男を引っ張り込んでるわけ?」

「いえ。皆様これは罠ではないかと怖がってしまって、浮気どころではありません」

「でしょうね……」

 そりゃそうだわ。私だってそんなことになったら絶対怖いもん。あとでどんな言いがかりを付けられるかわかったもんじゃないわよ。

「まぁ、いいわ。今のは聞かなかったことにしていいかしら? 私は龍帝陛下一筋だからね」

 私の目的は蒼霜国の皇帝を暗殺すること。国母となるべく皇統を受け継ぐ皇子を産むことじゃないからね。

「はい……。申し訳ありません、巫貴妃様」

 家麗さんが深々と頭を下げる。

「気にしないで。家麗さんが悪いんじゃないもの。全部龍帝陛下が悪いのよ」

「はい……」

 ほんとに。後宮の女にこんなよく分からない気の使わせ方までさせるなんて、ほんとに落第皇帝よね、龍帝陛下・秦瑞泉。

 そういえばさっき家麗さんが言っていた鳳哲幽って、けっこうな有名な人である。お母様が美長エルフ族のご出身ということで、哲幽様本人は半美長ハーフエルフってことになるらしい。一度見てみたいなあ、美長エルフも、半美長ハーフエルフも。世の中って案外いろんな種族がいるものよねぇ。

 なんて考えながら家麗さんの煎れてくれたお茶を飲む私。

「ん、これいい香りね。……これは、薔薇?」

「はい。薔薇の花茶でございます」

「へぇ。おいしい、今まで飲んだどの薔薇茶よりいい香りだわ」

「そういっていただけると嬉しいですわ、巫貴妃様。そのお言葉をお茶商にも伝えておきますわね」

 にっこり笑う家麗さん。
 この子、可愛いのよねぇ。後宮で実質一位の私の世話をするくらいだから彼女自身高位貴族の娘さんなんだけど……、ほんとに『いいところのお嬢さん』って感じなのよ。

 まとめた髪も、華奢な体つきも、優しい笑顔も、ちょっと幼い顔立ちも。その全てが可愛らしくて仕方がない。

 こういう子を妹にできたらいいなぁ、なんて思う……。ああ、こんな感じのことを誰かに言われたことがる……。
 ……兄の利祥だったわ……。血は争えないってこと? 嫌だな。兄を思い出して凹む私……。

 と、そのとき。上空から、

「キューーーッ!」

 と龍の鳴き声がした。翼龍の真琉しんるが翼をはためかせながら、後宮の御花園に舞い降りてきたのだ。



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