【完結】ふしぎなえぼし岩 | オレがイトコとケンカして仲直りするまでの話

駒良瀬 洋

文字の大きさ
2 / 5

ふしぎなえぼし岩・2

しおりを挟む
 こういうときは、一人、思案にふけるのがいい。庭から丁度いいサイズの木の枝を拾って、玄関脇のコンクリートにしゃがみこむ。枝でガリガリと地面を引っ掻くと、うっすらと白い線が描ける。これは丈夫で良い枝だ。湘南ベルマーレのマスコットキャラクター・キングベルI世にあやかり、トライデントと名付けよう。
 こう言っちゃなんだが、オレはえぼし岩には相当詳しい。となり街の博物館で、博士が直々に教えてくれる勉強会に参加したことだってあるんだ。茅ヶ崎の沖に見えるえぼし岩――これは通称。地図上の名前は姥島うばじま諸島。一番大きなえぼし岩が目立って見えるけど、そのまわりにいくつも小さな島がある。もっとも、皆に呼ばれているように岩と表現したほうがしっくりとくるようなサイズだ。写真で見た限り、到底人が住めるようなところではない。
 なぜあそこにユニークな形の島があるのかというと、その秘密は相模湾の特別な環境にある。そもそも日本というのは、プレート境界の集合地域にある島国だ。これは世界から見ても珍しい。なんと、北米プレート、ユーラシアプレート、太平洋プレート、フィリピン海プレートという四つものプレートがひしめきあっている。だから火山活動がさかんで、国中が温泉だらけなんだ。
 しかも相模湾はそのうち二つ、北米プレートとフィリピン海プレートの境界になっている。ここには相模トラフなんて名前が付いていて、いかにも地震の巣という感じだ。プレートによる地殻変動のパワーはすさまじく、海の底が山になったりする。そう、えぼし岩だって、千二百万年もの昔は深海だったところが、プレートの沈み込む力であんなふうに盛り上がって海面に出てきたんだ。
 そして、えぼし岩の形は……こう。正面から見て、尖ったほうが右を向いている。記憶力はいいほうだ。魚のことだって、左ヒラメの右カレイを忘れたことがない。

 オレがトライデントでえぼし岩の描写にいそしんでいると、玄関のドアが開いた。顔を上げてみる。じいちゃんが肩でドアを押し開けながら、ヘルメットを二つ持って出てきたのだった。
「健太、海、行こか」

 じいちゃんはベテランライダーだが、驚くことなかれオレもまたバイクに乗るのだ。後部座席限定ではあるが。母ちゃんが保育園に迎えに来れなかった日に、じいちゃんの後ろに乗って帰ったこともあるんだぞ。丸くて光るライト、金属のピカピカしたマフラー、ドルルンというエンジンの響き。みんな羨ましがっていた。紀文だって、小学生ながらバイクに乗るオレを羨ましがっているに違いない。だが、ヘルメットがなければ乗れないのだ。
 自慢の赤いヘルメットを受け取ってかぶり、意気揚々と後部座席にまたがった。
 キルルルン、ダットットットッ。エンジンに火が入る。
 じいちゃんのお腹に手を回して、いざゆかん、海への冒険へ。
 それにしても、コンテストの絵の件はおもしろくない。海に行ったらじいちゃんに証拠写真を撮ってもらおう。そうだ、オレも一緒に写ってギャフンと言わせてやるんだ。



 軽快なフットワークで道路を駆け抜ける。クルマでは味わえない、風を切るこの爽快感。自転車と違って疲れないし、街の人々から浴びる羨望のまなざしも悪くない。じいちゃんは国道134号線から、「サザンビーチ」の交差点を海に向かって曲がる。サザンビーチとは茅ヶ崎の海水浴場の名前だ。言わずもがな、このネーミングはジャパニーズロックバンドの最高峰であり、茅ヶ崎きってのヒーローとして名高い「サザンオールスターズ」に由来する。来月になれば待ちに待った海開き。ここは家族連れで大いに賑わうだろう。オレももちろん、血湧き肉躍るほどに楽しみにしている一人だ。
 坂を下ると、すぐに海と砂浜が見えてきた。海の家は、もうほとんどできあがっている。肝心のえぼし岩は――すぐに見つけることができた。



「やっぱりオレの言ったとおりじゃん。えぼし岩の先っちょは、右を向いているんだよ」
 バイクを降りたオレ達は、せっかくなのでサイクリングロードを散歩することにした。このロケーション抜群の道は、名前と違って徒歩の利用者が多い。サイクリストよりも、むしろマラソンランナーに人気がある。
 今日の海は、誰もがうらやむマリンブルーだ。スカッと晴れた青空の下、遠浅の海面はところどころがエメラルドグリーンになっている。気温は高いはずだけれど、海からの風が涼しくて気持ちがいい。これほどの陽気でもまだ海で泳げない時期だなんて、どうかしているよ。このままザブンと、波間に飛び込んでしまいたい。
 ほどなくして、アルファベットのシーを型どった巨大モニュメントに到達する。その名も「サザンシー」。オレはCの真ん中の空間から海を覗き込んで、腕を高く掲げる。そこからぐいんと、バナナのごとく体全体を右側に反らせてみせた。刮目せよ、これぞえぼし岩を全身で表現したポーズだ。
「じいちゃん、写真撮って」
「はいよ、チーズ」
 パシャリ。
 完璧な証拠写真だ。オレの記憶に間違いはなかった。紀文の言うことが誤りであると確認できて、満足だ。
 準備のいいじいちゃんが、汗をかいているオレに水筒を寄越してくれた。たくさん氷の入った水は、キンキンに冷えていてうまい。喉を通った冷水が、失った水分を補うように体の隅々まで行き渡ったように感じる。

 散歩で汗をかいたが、海風がさわやかなことと答え合わせが百点満点の結果で、気分上々だ。ヘルメットをかぶって、颯爽と後部座席またがった。じいちゃんのお腹に手を回す。紀文の奴め、オレの言うことが正しいとわかったら、降参して晩のおかずを一つお詫びとして差し出すに違いない。思わず、頬がゆるんでくる。
 キルルルン、ダットットットッ。
 バイクはサザンビーチの坂を登って134号線に出ると、東へと向かった。家の方向とは逆だ。どこかに寄り道するのかな。もしかしたら、アイスでも買ってもらえるのかもしれない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

神ちゃま

吉高雅己
絵本
☆神ちゃま☆は どんな願いも 叶えることができる 神の力を失っていた

童話短編集

木野もくば
児童書・童話
一話完結の物語をまとめています。

不幸でしあわせな子どもたち 「しあわせのふうせん」

山口かずなり
絵本
小説 不幸でしあわせな子どもたち スピンオフ作品 ・ ウルが友だちのメロウからもらったのは、 緑色のふうせん だけどウルにとっては、いらないもの いらないものは、誰かにとっては、 ほしいもの。 だけど、気づいて ふうせんの正体に‥。

ぽんちゃん、しっぽ!

こいちろう
児童書・童話
 タケルは一人、じいちゃんとばあちゃんの島に引っ越してきた。島の小学校は三年生のタケルと六年生の女子が二人だけ。昼休みなんか広い校庭にひとりぼっちだ。ひとりぼっちはやっぱりつまらない。サッカーをしたって、いつだってゴールだもん。こんなにゴールした小学生ってタケルだけだ。と思っていたら、みかん畑から飛び出してきた。たぬきだ!タケルのけったボールに向かっていちもくさん、あっという間にゴールだ!やった、相手ができたんだ。よし、これで面白くなるぞ・・・

おっとりドンの童歌

花田 一劫
児童書・童話
いつもおっとりしているドン(道明寺僚) が、通学途中で暴走車に引かれてしまった。 意識を失い気が付くと、この世では見たことのない奇妙な部屋の中。 「どこ。どこ。ここはどこ?」と自問していたら、こっちに雀が近づいて来た。 なんと、その雀は歌をうたい狂ったように踊って(跳ねて)いた。 「チュン。チュン。はあ~。らっせーら。らっせいら。らせらせ、らせーら。」と。 その雀が言うことには、ドンが死んだことを(津軽弁や古いギャグを交えて)伝えに来た者だという。 道明寺が下の世界を覗くと、テレビのドラマで観た昔話の風景のようだった。 その中には、自分と瓜二つのドン助や同級生の瓜二つのハナちゃん、ヤーミ、イート、ヨウカイ、カトッぺがいた。 みんながいる村では、ヌエという妖怪がいた。 ヌエとは、顔は鬼、身体は熊、虎の手や足をもち、何とシッポの先に大蛇の頭がついてあり、人を食べる恐ろしい妖怪のことだった。 ある時、ハナちゃんがヌエに攫われて、ドン助とヤーミがヌエを退治に行くことになるが、天界からドラマを観るように楽しんで鑑賞していた道明寺だったが、道明寺の体は消え、意識はドン助の体と同化していった。 ドン助とヤーミは、ハナちゃんを救出できたのか?恐ろしいヌエは退治できたのか?

世にも奇妙な日本昔話

佐野絹恵(サノキヌエ)
児童書・童話
昔々ある所に お爺さんと お婆さんが住んでいました お婆さんは川に洗濯物へ お爺さんは山へ竹取りへ 竹取り? お婆さんが川で 洗濯物をしていると 巨大な亀が泳いで来ました ??? ━━━━━━━━━━━━━━━ 貴方の知っている日本昔話とは 異なる話 ミステリーコメディ小説

14歳で定年ってマジ!? 世界を変えた少年漫画家、再起のノート

谷川 雅
児童書・童話
この世界、子どもがエリート。 “スーパーチャイルド制度”によって、能力のピークは12歳。 そして14歳で、まさかの《定年》。 6歳の星野幸弘は、将来の夢「世界を笑顔にする漫画家」を目指して全力疾走する。 だけど、定年まで残された時間はわずか8年……! ――そして14歳。夢は叶わぬまま、制度に押し流されるように“退場”を迎える。 だが、そんな幸弘の前に現れたのは、 「まちがえた人間」のノートが集まる、不思議な図書室だった。 これは、間違えたままじゃ終われなかった少年たちの“再スタート”の物語。 描けなかった物語の“つづき”は、きっと君の手の中にある。

「いっすん坊」てなんなんだ

こいちろう
児童書・童話
 ヨシキは中学一年生。毎年お盆は瀬戸内海の小さな島に帰省する。去年は帰れなかったから二年ぶりだ。石段を上った崖の上にお寺があって、書院の裏は狭い瀬戸を見下ろす絶壁だ。その崖にあった小さなセミ穴にいとこのユキちゃんと一緒に吸い込まれた。長い長い穴の底。そこにいたのがいっすん坊だ。ずっとこの島の歴史と、生きてきた全ての人の過去を記録しているという。ユキちゃんは神様だと信じているが、どうもうさんくさいやつだ。するといっすん坊が、「それなら、おまえの振り返りたい過去を三つだけ、再現してみせてやろう」という。  自分の過去の振り返りから、両親への愛を再認識するヨシキ・・・           

処理中です...