珈琲いかがですか?

木葉風子

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ひと休み 動きだした真実

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「えっ…?」
奏の言葉におもわず
息を飲む萌
「それって、どういうこと?」
双葉が奏を問い詰める
「双葉ちゃん、怖いよ…」
おどけて言う
「奏さん、真面目に答えて」
声を荒げて言う双葉
そんなやりとりをしている
二人の横で真っ青な顔の萌
しゃがみ込んでしまう

「萌、大丈夫?」
由季が彼女を抱きかかえた
「わからないの…」
「えっ?何がなの?」
由季が聞き返す
「もしかしたら
ケン兄ちゃんには迷惑なこと
かもしれないでしょ?」
切なそうな顔をする萌
「別にそれでも
いいじゃない!」
萌の背中を撫でながら言う

「たとえケン兄ちゃんが
どんな風になってても
会いたいんでしょ
だったら堂々と会いに
行けばいいじゃない!」
「由季…」
背中を撫でていた手に力を
込め抱きしめる由季
そんな彼女の思いに不安
だった気持ちが和らぐ

「それで奏さんの答えは?」
「答え?」
「だって、わかったんでしょ
その答え、教えてよ」
「うん、でもまだ
100%じゃないからな!
ちゃんとしてから報告する」
萌をじっと見つめ言った

店を出て駅に向かう四人
心なしか顔色が冴えない萌
彼女を心配そうに見守る由季

「ねぇ、満弥
今日は奏さんと
何してたの?」
並んで歩く満弥を問いただす
「何って…
おとうさんに会いに…」
「えっ…おじさん?
でも、どうして…」
「来栖商会のこと
聞いてたけど」
「来栖商会…?」
隣を歩く満弥を上目遣いに
見る双葉、見られた彼は少し
顔を赤らめながら言う
「なんだか知らないけど
社長さんのこと聞いてた」

「社長…」
「何年か前に就任したばかり
確か、タケルさんだよ」
「タケル…」

やがて改札口に到着した四人
「私達はこっちだから」
萌と由季に言う
「じゃあ、これで…」
「明日も古時計に集合ね」
双葉がみんなに言った
駅で二組に分かれた四人
そして、夜は更けていく

「お待たせー!」
いつもの陽気な声で
テーブルの前に来る奏
「なんだ、今日はおまえか」
残念そうに言われた
「おやじさん
その言い方はヒドイよ」
そう言いながら出来上がった
ばかりのオムレツとトースト
のモーニングセットを置く
「だって、どうせなら
可愛い娘の方がいいだろ」
「俺だっていい男だろ」
あいも変わらずやり合う二人

「奏」
カウンターから時の呼ぶ声
その場を離れそちらへ行く
カウンターには煎れたての
珈琲が湯気を上げていた
その珈琲を客の元へ運ぶ
最後の一つはもちろん
彼の元へ運んだ
「ありがとう
やっばりいい香りだよ」
何も入れずブラックで味わう
「うん。美味しいよ」
「それは珈琲?
オムレツ?」
空いてる椅子に座った奏
「もちろん、両方ともだよ」
満面の笑みで答える
「仕事は一段落したのか?」
普段の顔に戻り聞いた
「内緒…だよ!」
「守秘義務ってことか」
お互い顔を見合わし
笑顔になる

“チリーン”
扉が開きだれかが入って来る
「おはようございます」
明るい声が店内に響いた
「双葉ちゃんが
来たみたいだな」
嬉しそうな声になる
「へえ~、おやじさんは
双葉ちゃんがいいんだ」
少し皮肉を込めて言った
「そりゃあ、男だからね
野郎より可愛い娘の方が
いいに決まってるだろ」

「双葉ちゃん、おはよう」
「今日は遅かったね」
「待ってたよ!」
店にいる客達が彼女に
声をかける
「ごめんなさい
今日は客として来たの」
楽しそうにやりとりする
双葉と客達

「彼らも双葉ちゃんが
目当てみたいだな」
奏を見て大笑いする
「どうぞ、ご心配なく
俺目当ての美女も
いるからさ!」
口角を上げニヤリと笑う奏

「ありがとうございました」
客を見送る双葉 
「休みなのに手伝って
もらって悪かったね」
カウンターの中から礼を言う

静かになった店内
客は奏の前にいる彼だけ
「そろそろ引き上げるよ」
席を立つおやじさん
「仕事
早く片付くといいな」
「大丈夫
ほとんど終わってるから」
「そうか
じゃあ、頑張れよ」

店内には時と奏
双葉だけになった
無言の店内
双葉がカウンターに椅子を
動かす音が響いた
おもむろに腰かけ、奏の方に
椅子を回し話しかける

「ねぇ、わかってるんでしょ
早く彼女に教えてあげてよ」
訴えかけるように言う
双葉の言葉に真剣な表情の奏
「まだ確信ないからね…」
苦笑いを浮かべ言う奏
「何か手伝えない?」
「手伝うって?」
「うん、だって早く会わせて
あげたいからね」
力強い瞳を奏に向ける

「だから間違いなく
ケン兄ちゃんだと
わかってから言うから…」
「間違いなく…か」
奏から目を反らして
窓の外を見た双葉
「萌ちゃんと由季ちゃん
来たわ」
その言葉に唇に人差し指で
押さえる奏
「大丈夫よ
何も言わないから」

扉の鈴が鳴り店内に来る
「こんにちはー
双葉ちゃん、いますか?」
萌の声が聞こえた
「こっちよ!」
カウンターの席から返事する
二人が双葉の横に座る
「珈琲でいいかな?」
時が二人に聞く
「はい、お願いします」
「時さんの珈琲
ほんとに美味しいですよ」
「それは嬉しい
褒め言葉ですね」
二人の言葉に優しく礼を言う

「じゃあ、俺は出かけるよ」
四人に向かって言うと二階に
続く扉を開けた奏
「今日は遅くなりそうだ
だから後は任すね」
「わかった。じゃあ今日は
閉店にするよ」
背中を向けたまま右手を上げ
扉の向こうに行く奏

悲しそうな顔で奏が
出ていった扉を見つめる萌
「大丈夫ですよ」
時の低い声が店内に響いた
その優しい声を聞いて
気持ちが安らぐ萌
「一つ聞いてもいいですか?」
時が煎れた珈琲を一口飲むと
彼をじっと見つめ訊ねる由季
「どうぞ
なんでも聞いてください」
いつもの顔で言う時

「捜しやはあなたでしょ…
でも、奏さんばかり
動いてるわ…
なんだか、そんな気がする」
「ハハ、確かにね…
これじゃあ、どちらが捜しや
なのか…そう思うよね
あいつが、奏がいなければ
探偵もこの店も
やっていけてないからね」
そう言ってる口調が
何故か嬉しそうだ

「確かに走り回っているのは
奏さんだけどね
でも、時さんの情報収集力は
すごいんだからね」
双葉が時の代わりに説明した

「僕は人と話すのは
苦手だから…逆に奏は人と
話すのは得意だからね」
「あら、奏さんの場合は
得意というより特技だわ!」
双葉が半ば呆れ顔になる
「その言い方って、奏さんに
失礼じゃないの?」
そう言って双葉を見た
「あら、いいのよ
ほんとのことなんだから」
出かけている奏がどこかで
クシャミをしてそうだ

「まぁ、おまけにあいつ
フットワーク軽いから
すぐに動いてくれるよ
助手としても料理人としても
最高の相棒だよ!」
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