俺の賃貸1DKボロアパートの部屋が『石の中』に設定されてしまった件

やすぴこ

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第二章 あっちの世界の人達と、俺の上司とお隣さん、あともふもふ

第23話 お隣さん! ガチな方向でそんな反応するのやめて。

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「はいはい、今開けますよ」

 俺はいつになったら朝飯を食べられるのだろうと、ため息を付きながら外からガンガンとうるさく扉を叩く隣人に向かって声を掛ける。
 つい最近まで俺の騒音(決して騒音じゃない)に怒鳴り込んでくる以外まともな会話すらしたことがなかった隣人だが、あの恥ずかしい酒盛り以降騒音以外でもやってくるようになりやがった。
 まぁ、あの日の俺はまるで彼女に振られて泣き喚く情けない男そのままだったからな。
 傍から見るとそのまま自殺するくらい落ち込んでいるように思われたんだろう。
 昨日も俺の安否を確認しに来たくらいだし、隣人は案外面倒見が良いのかもな。

「どうしたんですか、こんな昼間に。別に騒音出してなかったでしょ」

 俺は扉を開けながら、廊下に立っている隣人をジト目で見ながらちょっとした文句を言う。
 う~ん、腹を割って飲み明かしたからなのだろうか、以前ならこの隣人に対してこんな態度取れなかったわ。

 ……だって見た目怖いんだもん。
 いや、本人が言ったように美人と言っちゃ美人の部類に入るんだろうけど、左側だけ刈り上げ、右側はキンキンに染めた金髪をガッチリ立たせた髪型に両耳デカいピアスを複数して、左手の甲にはよく分からない模様のタトゥーしてんの。
 メイクも目の下や頬を痩けさせてるかのような不健康な感じだしな。

 格好にしても今日は昨日までのTシャツにフリースのズボンな部屋着スタイルじゃなく、黒い革ジャンに同じく黒い革製のミニスカ。
 まるで今からライブでもするんですか? と思うくらいキメッキメなフル装備。
 どこのパンクロッカーだよ! 普通だったら絶対近寄りたくないって。

 けど、なんか手には楽器ではなく大きく膨らんだビニール袋。
 一体なんの用なんだろ?

「今日は騒音で来たんじゃねぇよ。ちょっと話したい事があるから中に入れろ」

 隣人はそう言うなり、有無を言わさず俺の横をすり抜けて玄関に侵入してきた。

「ちょ、駄目ですよ。いきなり入らないでくださいって」

「まぁまぁ、あたしとあんたの仲じゃん。そんな固いこと言うなって」

 隣人はそう言って部屋の中までに入るなり、手に持っていたビニール袋をドンとちゃぶ台に置いてそのままドカっと胡座をかいて座り出す。
 あっ、そんなミニスカで足広げると中身が見えちゃいますって!
 だが、口に出すとそれだけで代金を請求されそうなので、華麗にスルーして何もなかったことにする。

 しかし、どんな仲だよ。
 一回宅飲みしただけじゃないか。
 くそ~あの日ぐちゃぐちゃに泣いた顔を見せた手前、恥ずかしさが勝って強く言えない。

「はぁ~、もういいや。それで話ってなんですか? あの日のことはもう吹っ切れましたんで自殺なんてしませんよ。まぁ元からするつもりもなかったですけどね」

 隣人を追い出すことに諦めた俺は隣人の対面に座りながら、ため息混じりにそう言った。

「あ~そりゃ良かった。これ以上このアパートが事故物件にならなくて済むよ。ほら、そんなことよりコンビニで飯買って来たから一緒に食べようぜ」

 いや、そんなことで済ますには気になることを口にしなかったか?
 これ以上ここが事故物件にならなくてってどう言うこと?
 ここ事故物件だったの? たしかに安かったけどさ。
 不動産屋からそんな説明聞いてないんだけど? 契約書の備考欄にも心理的瑕疵とか書いてなかったんだけども?

 まぁ、今現在それ以上に不思議なことが起こってんだから今更だけどさ。
 上京してからずっとこのアパートに住んでるけど、これまで幽霊とか見たこと無いしね。
 それに光る変な掲示板や異世界人がやって来ることに比べたら、幽霊とか可愛いもん……と思っておこう。

「ほいアタシの奢りだ。遠慮なしに好きなの選べ」
 
「あっ、その天津丼いただきます」

 大きく膨らんだビニールの中身は全部食べ物だったようだ。
 不穏な隣人の言葉に対して深く考えることを止めた俺はズラッと並べられたコンビニ飯から一つ選ぶことにした。
 ひょんなことから朝飯をゲットすることが出来たな。
 ありがとう隣人さん。

 ……飯で懐柔されるって、俺ってばなんかチョロすぎるな。



       ◇◆◇



「で、改めてですが、話したいことってなんですか? ここが事故物件だってことですか?」

 ちゃぶ台の上の食べ物群をあらかた片付けた俺は、本来の目的を果たすべく隣人に無許可侵入した理由を聞くことにした。

「違う違う。そんな当たり前なこと言いに来るかよ」

 いや、当たり前も何もここが事故物件ってこと今初めて知ったんだけどね。
 ここで口答えしても仕方ないので大人しくしておこう。

「あたしは今日から暫く仕事で家空けるからさ。心配しないように言っておこうと思ってね」

「仕事ですか……?」

 少し戸惑った表情をしながらそう言ったものの、心の中では歓喜の声を上げながらガッツポーズする。
 やったぜ、暫くは壁ドン(本来の意味の方)や自宅侵入されることもなく自由に過ごせるぜ!

 とは言うものの、壁が薄いせいで俺の生活音が隣人に聞こえてたという事は、俺にも隣人の生活音が聞こえているという事なんだよ。
 記憶にある限り今まで俺が部屋にいる時は、大抵隣人の音が聞こえていた。
 短時間の外出は有ったとしても、誰かが訪ねてくることもなければ今のように暫く留守にしていたってこともなかったと思う。
 まぁ、年がら年中休日以外の平日は毎日毎日朝から深夜までずっと仕事漬けだったんだから、全部を把握していた訳じゃないんだけどね。
 にしても、いちいち報告しに来ることかな?

「あんた『月刊ラー』って雑誌知ってる?」

「『げっかんらー』? ラーメンかなんかの雑誌ですか?」

「あ~知らないか。まぁあんたはこんなヤバい物件にのほほんと暮らしてるくらい鈍感だからそれも仕方ないな」

 なんか酷いディスられ方した気がするけど、何だよそのヤバい物件って。
 一応あの有名な事故物件サイトで調べたけど、特に情報が載ってなかったから安心してたのに!
 やっぱりこの安い家賃には理由があったってことか? 騙された!!

 ……とは思うのだが、今なんかこの部屋で面白いことが起こっている最中なので引っ越すつもりはないけどな。

「そう言うお隣さんも、そのヤバい物件ってやつの住人なんですけどね」

「ははははっ違いない。けど、あたしはちゃんと結界張ってるから良いんだよ」

 俺の皮肉込めた返しに大笑いしながらも、またもや気になる事を言いッてるんだけど。
 なんだよその結界張るって、むっちゃ気になるんだけど。

「そんなことより『エリ』」

 ん? いきなりどうしたんだ?『エリ』ってなんだよ。
 俺の襟になんか付いてるのか?
 俺は寝間着の襟元を引っ張って何か付いているのか確かめてみる。

「ばっか! 違うっての。あたしの名前! 『エリ』。しろかみとこしえことわりと書いて『白神 永理しらがみ えり』。いつまでも『お隣さん』とか他人行儀なこと言わずに、『エリ』って呼んでくれ。『エリちゃん』でも良いぞ」

 いや、お断りしたいんですが。
 だって他人行儀じゃなくて実際に他人ですし、今後ともあまり仲良くなりたい訳でもありませんから。
 しかし、なんだか由緒正しいそうな大層な名前だな。
 見た目は怪しいパンクロッカーだけど。
 エリちゃんとか呼ぶのはマジで勘弁してほしいが、ここで断ってもグダグダしそうなんで、折衷案で勘弁してもらおうか。

「では『白神さん』で。で、その雑誌はなんなんですか?」

「ちっ、名前の通り固いやつだなぁ。まぁいいや。『月刊ラー』は心霊やらUFOやら都市伝説。そんな情報を取り扱っている雑誌なんだよ。所謂オカルト雑誌ってやつだ」

 あぁ、そう言う……。
 要するにこっちの世界の妄想ゴシップ紙ってやつね。
 そう言えば小学校の頃に読んだことあるかも。
 異世界のゴシップ紙は読んでみたいけど、こっちの世界の不思議は色々解明しちゃってるからなぁ。
 しかし、さっき結界云々って言ってたけど厨二病的なアレかな。
 ゲーム的な厨二病なら話しが合いそうだけど、ガチな方向の厨二病は今更勘弁願いたいよ。

「あたしはそれに寄稿してるライターでね。普段はネットや知人とのメールで情報仕入れてんだけど、今回はちょっとばかしあたしが腰を上げなきゃならんくらいの大仕事を本家から依頼されたのさ」

「なるほど~。頑張ってください」

 『本家』とか気になるワードはあったものの、理由自体は思ったより真っ当っぽい感じなので、取り敢えず笑顔で応援してみた。
 なんか詳しく聞くと面倒くさいことにしかならなそうだしね。

「ちょっとタモツゥ~。あんたこの意味分かってないでしょ」

 おいおい、とうとう下の名前呼びしだしたぞコイツ。
 異性はおろか同性含めても今まで親にしか下の名前で呼ばれたこと無いってのに、初の名前呼びが厨二病パンクロッカーとか……。

「何なんですかこの意味って。不穏な言葉はやめてくださいって」

「いや、この際知ってもらおうか。あたしがなぜここに住んでる理由! それはこの土地を……」

「ちょっと、そんなの知りたくないですって、絶対聞くと後悔するやつじゃないですか」

 俺が聞くのを拒否してるのに、身体を乗り出して話そうとしてくるお隣さんの肩を必死で抑えていたんだけど、突然お隣さんの動きが止まった。
 一瞬「石の中現象」が発動したのかと思ったけど、外の音は聞こえるしお隣さん自体石みたいに固まっているというわけでもなく普通に息する声は聞こえる。
 まぁ俺以外の人間がいる時に発動した場合に、その人がどうなるのかは未体験なので分からないけどさ、どちらかと言うとなにかに驚いて固まっている感じだ。

「どうしたんですか?」

 そう言ってお隣さんを見上げると、その顔は俺ではなくベッドの方向に顔を向けて一点を凝視しているようだった。
 もしかしてこのタイミングで掲示板が出現してそれに驚いたのか?
 慌ててベッドの方を見たが、そこに掲示板は浮かんでいない。
 もう一度お隣さんの視線の先を確認すると、掲示板が表示される位置よりもずっと下の方なのに気づいた。
 それは丁度布団の上。
 そう、そこにはがある。

「ね、ねぇ……アレって……もしかして……」

 うわぁ……オカルト界隈の人間がアレ見てそんな反応するのは止めてくださいよ。
 折角心の中でアレの落とし所を決めてたんですから。
 
 俺はガルバンさんから押し付けられた、あの正体不明の玉を見ながら溜息を吐いた。
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