俺様上司と複雑な関係〜初恋相手で憧れの先輩〜

第三章

完璧な上司で先輩との関係⑤

　ただ週末の今日、押しつけられた仕事で残業していただけの日常のはずが……。

　会社からどこかに向かって歩いている蒼空さんに、訳も分からずついて行くしかない。

「着いた。ここ」
「……」

　驚きで黙ってしまうのもしょうがないだろう。

　会社から数分で着いた目的地は、最近オープンしたばかりの都心のラグジュアリーホテル『SAKURA』だ。

　神楽坂グループのこのホテルは、『愛する人と過ごす最高の空間』をコンセプトに、神楽坂社長が愛する妻をイメージして建てられたと、連日マスコミに取り上げらるほど話題沸騰なのだ。

　名前の通り和のイメージをふんだんに取り入れた、和洋折衷が絶妙なバランスのこのホテルは、世界の名立たるセレブ達がオープンからこぞって訪れている。

　そして、何より『SAKURA』が愛する妻の名前だというのだから驚きだ。

　そんな、私には縁のないホテルを前に怖気づく。

「ここって……。私、仕事帰りで服装が……」
「そのままで大丈夫だ」
「でも……」

　服装も気になるが、それよりもこんなに人気のホテルに予約もなく訪れて食事ができるのだろうか。

「ここのホテルの関係者と知り合いなんだ」
「えっ⁈」
「夜景も綺麗だし、食事もできる。行こう」

　断る選択肢もなく、エスコートされたまま、エントランスに入った。宿泊客のチェックインはすでにピークを過ぎている時間で、フロントもエントランスも人がまばらで少しだけホッとした。

「凛花、ここに座って待っていて」

　フロントの前の高級なソファに座るように促され、背筋を伸ばしたまま固まってしまう。そんな私をよそに蒼空さんは慣れた様子でフロントに行き、何か話をしている。周りは見るからにセレブな人達ばかりで、パーティーでもあるのかと思うほどのエレガントなワンピース姿の女性や、一目で高級ブランドのスーツだとわかる上質な装いの男性が通り過ぎていく。

　仕事帰りの私の服装は、たまたまワンピースにカーディガンを羽織っているが、仕事用の装いなので控えめな色合いだ。