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第九章

初デート⁇⑨

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 誰も瑞希に手紙を送っていなかった事実に、あの時勇気を出して書いて良かったと思う。あの時手紙を出したから、今日の楽しい時間があるのだ。

 それだけではない。瑞希の一言一言が、由奈を正しい道に導いてくれている。

 一歩踏み出した先には、想像以上に素敵な時間が待っていた。

「由奈ちゃんのお陰で、僕が知ることのできない同級生達のことも知ることができるし、こうして楽しいデートができるしね」
「デ、デ、デート?!」

 サラッと瑞希の口から紡がれた言葉に、思いのほか動揺してしまった。

「あっ、ごめん。デートだなんて厚かましかったかな?」
「ち、違うの。デートって言ってもらえて嬉しすぎて。デートだったらいいなぁと思ってたけど、瑞希くんには迷惑かなって」
「迷惑だったら誘わないよ。じゃあ、デートってことで最後まで楽しもうね」

 もう何度、瑞希によってドキドキさせられているかわからない。

 サラッとデートと言える瑞希の横顔を見ても、いつもと変わらない。

 イルカショーが始まっても、ドキドキが止まらない由奈とは違い、瑞希が無邪気にはしゃいでいる。

「ズルイ……」と思わずポツリと呟いてしまう。

 次の瞬間、目の前でイルカがジャンプした。

『バシャッ』と盛大な音を立ててプールに潜ったのだが、前方の席にいた由奈達は思った以上に濡れてしまった。

 お互い顔を見合わせる。

「「プッ、アハハハハ」」

 由奈はバックを開けてハンドタオルを出し、先に瑞希に渡した。受け取った瑞希は、由奈の濡れたところを拭いてくれる。

「えっ、瑞希くんが先に使ってくれていいのに」
「いいからいいから」

 ふたりの後ろに座っていた孫を連れたおばあさんからは、「まあまあ、微笑ましいこと」と言われた。

 嬉しいやら恥ずかしいやらで、由奈の頬は真っ赤になる。

「由奈ちゃん、真っ赤だけど大丈夫?涼しいところに行こうか」
「だ、大丈夫。熱いけど暑くない」
「??」

 瑞希には伝わらなかったが、言葉の通り照れて熱いが暑さは感じていなかった。



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