【R18】黒猫は月を愛でる

夢乃 空大

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第一章 黒猫の恋

第34話 糖度高め

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「ほんっっっとにすみませんでした……」


 むすりとむくれる私の目の前で床に額を擦り付けているのは、先程までまだ眠っている私をノリノリで朝っぱらから組み敷いていた、昨夜結ばれて恋人同士となったばかりの男…猫実 弦だ。


 弦曰く、ちょっとだけ悪戯するつもりが、ついつい調子に乗ってやり過ぎたと。

 その結果、こちらが気持ち良く眠っていたところを彼にがっつり美味しくいただかれてしまった訳で……

 まぁ…最後は私もノリノリだったので、本来なら強く言えない所なのだが……

 いや、今後のためにもここではっきり厳しくしておかないと!

 そう思い、敢えてきつめに叱っておく事にする、と決め、やや上目遣いで目の前の弦を睨めつける。


「猫実さん、流石に、気持ち良く眠っている人を襲うのは…どうかと思います…」

「はい……面目次第も無いことです……」


 明らかに見てわかる程、しゅんとしている彼を見ると、なんかこちらが悪い事をしている気持ちになり、胸がチクチクと痛んできたが、寝込みを襲うなど言語道断だ。
 せめて起きてからにして、と言おうとした時、いきなり弦はぱっと顔を上げた。


「………が!」

「が?」


 私の疑問符に対して、弦はあろう事か、全く悪びれる様子もなく、はっきりきっぱり一点の曇りもない真顔で言い切った。


「可愛く誘う名月も悪い。」


 私は目が点になる。
 へ?私がいつ誘った?

 私はただ気持ちよく寝てただけで、それを不埒にも弦がちょっかいをかけてきて……

 私が一体何をした!?!?

 確かに弦から与えられる愛撫に気持ち良くなってたのは間違いないが……

 先に仕掛けたのは弦である。断じて私ではない。


「わ、私、誘ってなんかいないもん!」


 あまりにも当然至極のようにのたまう彼に、思わず気後れして焦ったような物言いになると、弦はそんな私の様子ににやりと意地の悪い笑みを浮かべ立ち上がった。

 やばい……これはやばい。

 すっかり動揺して萎縮してしまった私の横に腰を下ろし弦は抱き寄せると、艶然と微笑みあのバリトンボイスで耳元で囁いた。


「名月だって満更でもなかったでしょ?もっとって…」


 はうん。いい声……って違ーう!涙


 色っぽい声で耳元で囁かれて、不覚にも背筋がゾクゾクしていまった私は羞恥で真っ赤に染まる。
 その反応を見た弦は嬉しそうに目を細め、腰に回した腕に力を籠めた。


「うぅぅぅっ…それは……寝惚けてたっていうか…なんというか」


 ちらりと見上げると、弦の優しい目と視線がぶつかり更に真っ赤になって、しどろもどろになる私の頬に弦はちゅっと軽くキスをする。

 完全に形勢逆転である。


「でも、気持ちよかったでしょ?」

「……それは………うん。でも、私怒ってるんだけど。」


 優しく抱き寄せられて甘い弦の声を聞いているうちに、怒りなどは既に吹き飛んでいたが、どうにも腹の虫が治まらない私は上目遣いで弦を睨めつけた。
 ところが弦は反省するどころか、更に甘く蕩けるような笑みを浮かべて私の頭にキスを落とすと、私をひょいと抱き上げ膝の上に向かい合わせに座らせて、蜂蜜のようにトロリと甘ったるい声で言う。


「名月、愛してるよ。ねぇ、そんな他人行儀に猫実なんて呼ばないで?その可愛い声で弦って呼んでよ。」

「ま、まだ怒ってるもん……」

「ねぇ、名月…機嫌を直して?お願い。ね?愛してるよ。」


 懇願する口調だが、顔は全開でにこにこしている。
 弦は再度、お願い、と言いちゅっと音を立てて唇にキスを落とすと、じっと私の目を覗き込んだ。

 綺麗に整った弦の顔が、私を見て幸せそうに蕩けている。
 それが堪らなく嬉しかった。
 そして、どうやら私は弦にこの顔をされると弱いようだ。

 これ以上意地を張っても無駄な抵抗だろう。
 そんな彼を好きになってしまったのだ、仕方がない。
 さっさと諦めてその幸せそうな顔に免じて、今回は許して上げることにしよう。
 だけど、このまま何もしないのは癪なので、目の前の弦の幸せそうに緩みきった頬をむにっと軽くつねると、私から弦の唇に触れるだけのキスをする。


「……私も………弦のこと愛してるよ。」

「ふふふっ、可愛い。俺も名月のこと愛してるよ。」


 唇を離し上目遣いで弦を見上げて言うと、にこにこ顔の弦の顔が近付いてくる。
 そっと目を閉じると、私の唇に弦の柔らかな唇が触れる。そして、角度を変えながら啄むようなキスから始まり、徐々に口付けが深まっていく。


「んっ…名月…愛してる。」

「っはぁ……弦…私も………」

「ふふふっ…気持ちいいね。」

「…っ……きもちぃ……」


 ぴちゃぴちゃと舌を絡め唾液の交換をする。それだけで気持ちが良くて頭がぼーっとしてくる。


「名月…目を開けて?俺を見て?」


 そう言われて恐る恐る目を開けてみると、幸せそうに私を見つめる弦の瞳と視線が合った。
 どくんと心臓が跳ね上がり、どんどん顔が熱くなっていくのがわかった。
 弦の瞳から目が離せないでいると、弦は目を細めくすりと笑って、それから私を甘く甘く誘惑した。


「名月、愛してるよ。ねぇ、このままもう一回しよっか?」



 ◇◇◇



 結局あの後、また美味しくいただかれる事3回…
 昨夜から数えると半日経たずで…7回……

 弦は所謂『絶倫』というやつなのではないだろうか。

 流石に腰と身体のあちこちが痛くて悲鳴をあげている。
 特に股関節……

 8回目に及ぼうとしていた弦にそう涙目で訴えると、温かい湯船に浸かっておいで、とお風呂の準備をしてくれた。

 そう言う弦は私が気を失っている間にシャワーを済ませていたらしい。

 私はその提案を有難く受け入れ、浴室へ向かおうとよろよろベッドから起き上がると、途端にふわりと身体が中に浮いた。


「ふぇっ…!?」

「無理させたから。身体辛いだろう?浴室までお連れしますよ、お姫様。」


 甘い笑みを浮かべた弦が私を横抱き…所謂いわゆるお姫様抱っこをして歩き出す。


「げ、弦!自分で歩けるよ……」

「いいから。俺に名月を甘やかさせて。ね?」


 甘く甘くどこまでも甘い弦に溶けてしまいそうになり、私は顔を両手で覆って呻く。


「うぅっ…そんな事言われたら…拒めないじゃない…」

「ふふっ、拒まなくていいよ。ほら、着いたよ。ゆっくり温まっておいで。」


 そう言うと弦は私を脱衣場で下ろし、額にキスをして出ていった。


 え?え?何、何?何これ?弦ってこんなに甘かったの?

 仕事でやり取りした時には、こんな甘さを持っているとは微塵も感じた事はなかった。口調は優しいけど、指摘は正確だし隙のない完璧な仕事をする弦は私の憧れで、スーパーエースで……
 そんな彼がこんな事に砂糖を煮詰めたような甘さを持っているなんて、夢にも思わなくて、若干混乱をしている。

  辺りを見回すと、洗面台にはコップに注がれた冷たいお水と新品のメイク落としの他に、ふかふかのバスタオルと着替え…弦のものであろうシャツが置いてあった。

 そして横の洗濯機を見ると、私の下着と服が既に洗われている。


 なんというか…
 出来る男はこういう所も出来るのだな、と感心してしまう。

 折角用意して貰ったのだからと、洗面台でメイクを落としていると、鏡に映る首筋や胸元、二の腕など、見えるところ全てに赤い鬱血痕が沢山散らばっているのが目に入る。
 ギョッとして自分の身体に目を落とすと、首筋、胸元だけではなく、お腹や太もも…恐らく背中にも…身体中に弦の所有印が無数にあり、否が応でも自分が弦の物だと思い知らされ顔が熱くなる。


「…もう、見える所にも付いてる……コンシーラーで隠れるかなぁ……」


 首筋の所有印を指で撫でると、自分の指の熱さで弦にキスをされている錯覚に陥った。
 そうなると、散々弦に抱かれた身体は、弦の感覚を覚えていて、自然と身体が火照り出し、また弦に抱かれたいと思ってしまう。

 はっとして、ふるふると頭を振り、私はその思いを打ち消した。


「とりあえず、お風呂はいろ。」


 浴室の扉を開けるとそこは広々としていて中央に大きな浴槽があった。
 キョロキョロと浴室中を見回すと、ミストシャワーが付いていたり、よくよく見ると浴槽もジャグジー付きだったりと、かなり豪華で気後れしてしまう。

 そして、浴槽にたっぷりと湛えられたお湯には、既に乳白色のいい匂いのする入浴剤が入っていて、窓側にはアロマキャンドルまで……

 なんという至れり尽くせりだろうか。
 普通はここまではしないだろう。

 くすぐったいやら何だか申し訳ないやらで、どうしたらいいかわからずポカンと立ち尽くしていると、後ろから楽しそうな笑い声が聞こえた。
 くるりと振り返ると、腕を組んで入口に寄りかかって微笑んでいる弦がいた。


「お気に召しましたか?お姫様。」

「弦……どうしよう…お気に召すもなにも、こんなに尽くされたことないからどうしたらいいか……」


 尽くす事はあっても尽くされた事がない私は、戸惑いを隠せずあわあわしてしまった。
 それを優しい目で見ていた弦は、私をそっと抱きしめて頭を撫でながら言い聞かせるように言う。


「んー、名月は何も気にする必要はないよ。俺が好きでやってることだからね。ただ、受け入れてくれればそれでいいの。それに、これからはいっぱい尽くしてあげるし、ドロッドロに甘やかしてあげるから。覚悟してね?」

「ドロッドロって……これ以上?」

「そ。こんなの序の口だよ。もう俺なしじゃ居られなくなるまで…ね?」


 にっこりと笑みを浮かべ糖度高めな発言をする弦に、若干引きつつ固まっていると、弦に手を取られ湯船に浸かるように促される。

 湯船のお湯はトロリとしていて、温度もぬるめでとても気持ちが良い。
 あまりの気持ち良さに、目を瞑りほぅと一息つくと、弦がくすりと笑った。


「あぁそうそう……手始めに、とりあえず引っ越そっか?」


 弦は私にお湯をかけてくれながら、サラリと聞き捨てならない事を言った…?

 今、引っ越そっか、って言った?

 何かの聞き間違いでは無いかと、念の為…確認してみる。


「へ?……ひ、引越し?誰が?どこに?」


 おずおずと弦の顔を見上げると、にっこりと全開の笑顔で私を見つめている弦がいた。そして、さも当然のように宣う。


「ん?名月がここにだよ。お風呂から上がったら、車出すから食事ついでに荷物取りにいこう。」


 えぇ……マジですか……
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