【R18】黒猫は月を愛でる

夢乃 空大

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第一章 黒猫の恋

第36話 私たちの家※

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「あ、あの……私まだ一緒に住むっていってな……」

「だから、却下だよ。名月は俺の物だよね?」


 私の一言で、にこにこご機嫌だった弦の表情は凍りつき、途端に部屋の中にブリザードが吹き荒れた。


 えと、怒って……いらっしゃる?

 あまりの剣幕に私が答えられず黙っていると、弦は冷たい表情のままもう一度私に訊ねた。


「ねぇ、名月…?名月は俺の物じゃないの?」

「そ、そうだけど……」


 弾かれたように私が答えると、弦は冷たい表情から一転、にっこりと笑顔を浮かべた。


「そっか、ならいいよね?名月は俺のものだもんね。」


 有無を言わさない口調でそう言うと、一体どこから見つけたのか、私のスーツケースを引っ張り出してきてテキパキとクローゼットの中の物を物色して詰め始める。


「何してるの?ほら、名月もやらなきゃ。急がないと日が暮れちゃう。」


 弦の勢いに後押しされ、私もカバンにノートPCや本などを詰める。荷物を詰めながら、あれこれ思考を巡らせていると、弦がふぅと深く息を吐いた。


「ていうかね、大事な名月をこんな所に置いておけないし、第一、俺がもう一時たりとも名月と離れるのが嫌なんだよ。」


 私を真剣な瞳でじっと見つめてそう言う弦の言葉に、私は荷物を詰める手が止まる。


「嬉しい…よ?嬉しいけど、色々と急過ぎて頭がついて行かない……」


 弦の気持ちは嬉しい、だけど頭がついて行かない、これは本心だった。嬉しいけれど、今はまだ戸惑いが勝っている。私が伏し目がちにそう言うと、弦はちょっと悲しそうな表情をした。


「名月は強引なのはいや?こんな俺は嫌い?」


 ふと顔を上げると、困ったような悲しそうな顔で私を見つめる弦と視線が絡んだ。


 そもそも、人との縁の薄く天涯孤独に近い私は、こんなに人に大切にされた事もなかったし、今まで生きるのに必死で、自分の気持ちですら省みる機会もなかった。だから、多少強引に距離を詰められても不快に思う事はないが、流石に戸惑いはある。

 そう伝えたつもりだった。

 あからさまにしょんぼりとした姿が堪らなく愛おしくなった私は、徐に弦の傍に行き彼の腕の中にすっぽりと納まる。


「そんなことないよ……好きだよ。」


 項垂れる彼の背中に腕を回して広い胸に頬をすり寄せると、弦の心臓は緊張しているのか、バクバクと早い脈を打っている。
 弦は私の頭に顎を載せ深く溜息を吐くと、私から少し身を離してじっと私の顔を覗き込んで訊ねる。


「じゃあ……愛してる?」


 真剣な弦の瞳に見つめられ、心臓が早鐘を打った。
 確かに、昨日から色々と強引な所があったのは否めないが、それらは全て私を愛するが故の行動だと思うと、何一つ嫌な気持ちはなかった。

 そう思った時点で抵抗するだけ無駄、私の負けなのだ。
 負けを認めてしまえば、弦の多少強引な行動もすんなり受け入れられたし、寧ろ喜びでしかない。


「うん、愛してるよ。心の底から。」


 だから私は、私のありったけの気持ちを込めて、きちんと視線を合わせて、そう言葉にすると、目の前の弦が心底嬉しそうに破顔した。


「よかった。なら何も問題ないよね?名月、愛してるよ。」

  
 先程とは打って変わって、機嫌良くキスを落としてきた。
 思わず現金だな、と思い苦笑いが零れる。だけど、弦の機嫌が良いのは私も嬉しいのでさせるがままにしていると、背中に回っていたはずの弦の手がいつの間にか腰の辺りをさわさわと撫で回していた。
 そして、だんだんと手つきが怪しくなってきて、ん?と思った時には時すでに遅し…パチンとホックを外され、スカートがストンと足元に落ちた。
 直感的に、これはまずい、そう思い、ハッとして顔を上げた瞬間噛み付くようにキスをされた。


「……っ、げ……んっ、んんっ?!」


 抗議の声を上げるべく口を開いた私が馬鹿だった。
 その僅かな隙間に、弦は舌をねじ込んできたのだ。
 弦の舌が私の口腔内を蹂躙し、快感に背筋がゾクゾクする。

 先程まで弦に抱かれていた熱が残っていたのか、頭の芯が蕩けてしまいそうな程の快感に、無意識に弦の首に腕を回す。
 弦は私の舌をじゅるじゅると舐りながら、ブラウスのボタンをプチプチと外し始めた。

 そこで、我に返った私は、弾かれたように弦の胸を押し返して距離を取る。


「…んぅっ……げ、弦、落ち着いて……」

「……っ、名月、無理だよ。煽った名月が悪い……」


 ペロリと唇を舌で舐めながら覗き込む弦の瞳には明らかな情欲が灯っている。
 顔はにっこりしているが、眼光は鋭く獲物を追い詰める肉食獣の目をしていた。

 これはやばい、このままだとまたここで美味しくいただかれてしまう。


「いやいや流石にここでは……それに今日はもう…身体が無理…だよ……?」


 慌てて弦を制止するが、そんな事で弦の勢いは止まらない。


「うん。わかってる、ゆっくり優しく抱くから大丈夫だよ。ね?名月、愛してるから……抱かせて?」


 うわぁん、コノヒトニホンゴツウジナイヨォ……

 ゆっくり優しくって、身体中が筋肉痛で腰もお股も痛いんだよぉ…

 舌なめずりをしながら、弦がじりじりと近づくにつれて、私は後退るように弦から距離を置く。
 しかし、奇しくもそれがベッドの方向であった事に、パニックになっている私が気が付いたのは、既にベッドに転がされた後だった。



 ◇◇◇



「あっあっあっ……げ、んっ…もっと……んぁっ…」


 ベッドに転がされた後、足の付け根に弦は顔を埋めて、もう既に何度も抱かれて解れきっている秘部を舌を使い丹念に舐めている。

 あれだけ嫌がったのに、あっさりと裸に剥かれ、彼の愛撫を受け入れてしまった上に、あまつさえもっとと善がっている自分がいる。

 そんな私を弦は嬉しそうに目を細めながら、蜜口から溢れ出る蜜をじゅるじゅると吸い取る。


「あぁ、名月……ほんとに可愛い。愛してる。もっと…もっと俺を欲しがって?」


 トロリと蜜を零す蜜口に、弦は舌を差し込み、なかを刺激する。
 あまりの気持ちよさにそれだけで達しそうになり、背筋がぴんと仰け反ると、足が快感に痙攣を起こす。
 その様子を弦は嬉しそうに下から上目遣いで見上げ、剥かれた花芽をカリッと軽く齧った。


「んんっ!!!あぁぁぁぁ…!!!あぅっ…はぁ……」


 途端に凄まじい快感が身体中を駆け巡る。
 眦の裏にチカチカと星が散り、目の前が弾けたと思った時には私は激しく達していた。


「んちゅっ……名月、可愛い。沢山イケたね。」


 達したばかりの秘部に弦は口付けると、身体を離し衣服を整えている。
 私は突然与えられていた刺激が無くなったことに頭がついて行かず、呆然と弦を見上げた。


「ふぇ…?どしたの?」

「うん?名月が気持ちよくなってくれたから満足したの。これ以上は身体も辛いだろうからね。」


 そう言って、弦は優しい笑みを浮かべ私の頭を撫でた。その笑顔に、不覚にもキュンとしてしまった。

 しかし、途中で止められると、それはそれで不完全燃焼というか、物足りないというか……悶々としてしまう自分がいて…
 そんな事を思ったこともなかったから、新たな感情に自分でもかなり吃驚している。

 そもそも、セックス自体淡白な方で、気持ちいいと思った事も達した事もほとんどく、半ば義務のように感じていたのだが、弦とのセックスは気持ちが良く、寧ろもっと沢山したいと思ってしまう。

 今だって、本当はもっとして欲しかった…という言葉が、危うく口から出かけたのだが、それはぐっと飲み込む。

 だって、ここで始めたらきっと1回じゃ終わらない。
 ここで立てなくなるまでするのは勘弁して欲しかった。
 弦ならやりかねないし。

 抱かれるなら、ここじゃなくて弦のベッドで弦の匂いに包まれて抱かれたい……眠るのも弦のベッドがいい。

 そう思ったところで、ふとある事に気が付く。


 "眠るのも弦のベッドがいい"


 そんな事が頭を過ぎるって……とどのつまり、結局のところ私は、あれだけ抵抗した同棲をあっさりと受け入れてしまっているということなのだ。

 いやそれどころか、寧ろ自分から望んでいるようにすら思えてきた。

 たった1日でここまで考えが変わるなんて、思っても見なかったから自分でも吃驚している。

 弦の強引さに充てられたのだろうか……

 まあ、考えても仕方がない。
 こうなったら、腹を括ってしまおう。

 ところで、今日一日で私は一体何回腹をくくるんだ?

 そんな事を考えたらなんだか可笑しくなってきた。

 人知れず心の中で一大決心をしている私の気持ちを知る由もない弦は、ささっと自らの衣服を整え終わると、ぐったりしている私の身を簡単に清めて新しい下着を付けてくれた。


「クローゼットの中の服だけど、俺チョイスで何着か選んだけど、後は置いていっていいよね?足りない分は後日買いに行こう?」


 弦はクローゼットの中から先程引っ張りだした私服の中から、春らしい薄い水色のワンピースと白いカーディガンを着せてくれて、私を膝の上にのせ項にキスをする。


「うん、可愛い。荷物まとまったらちょっと買い物がてらデートに行こ。」


 そう言いながら、弦はシュシュで纏めてあった私の髪を解き、サイドを編み込み、ハーフアップに変えてくれた。


 凄く上手で凄く可愛い。

 昨日から思っていたが、弦はとても女性の扱いが上手い。
 こういった身支度やエスコート、そしてセックスも。

 見た目だって、背が高くてイケメンで仕事も出来て…正直かなりモテると思う。

 私でいいのだろうか……

 そんな不安と歴代彼女達へのモヤモヤした気持ちが湧き上がり、少しばかり胸がチリチリと痛んだ。
 そして、そんな気持ちがついポロリと口からついて出てしまった。


「……弦って…なんか手馴れてる気がする……なんか嫌。」

「えっ?名月?どうしたの?」


 弦が吃驚して目を丸くして私の顔を覗き込んできたが、一度気持ちが溢れると、堰を切ったように止まらない。
 くるりと弦の方を振り返り、思いっきり抱きつくと、ドンと弦を床へと押し倒す格好になる。
 一瞬何が起こったのかわからず、ぽかんとする弦の瞳を上から覗き込む。


「……他の人にはこんな事しちゃ嫌。もうずっと弦は私しか触っちゃダメ。」


 言い終わると、弦の顔がみるみるうちに、耳まで真っ赤になる。


「え…えぇ……名月、何それ……可愛すぎるんだけど。もしかして、ヤキモチを焼いてくれたの?」


 弦にいわれて、はっと気が付く。

 そうか、これがヤキモチか。
 私は今ヤキモチを焼いたのか。

 途端にものすごく恥ずかしくなって、今度は私が耳まで真っ赤になった。
 それを見た弦は嬉しそうに破顔して、私の頭を撫でた。


「ねぇ、名月。それってさ、俺の事独占したいってことだよね?」

「うぅぅ……恥ずかし…ごめん、忘れて……」


 頭から蒸気がシューシュー出ている気がする。恥ずかしすぎて両手で顔を覆った私の手を、弦はひとつずつ外すと優しい瞳で見つめ、キスをする。


「なんで?嬉しいよ。今までこんなに嬉しいことなかったから、これは忘れてあげない。」

「えぇ……」

「名月、俺の全部は名月の物だよ。だから安心して俺の事独占して?」


 弦は身体を起こし、ふわりと優しく微笑んで私の頬をするりと撫でると、ぎゅっと抱きしめられた。


「それから……俺にも名月を独占させてね。愛してるよ。」

「弦……うん。私も愛してる。大好き。」


 私も弦を抱きしめ返した。弦が優しく笑う。


「さぁ、もう出ようか。さっさと買い物済ませて、俺たちの家に帰ろう?」


 ――俺たちの家

 これからは弦とずっと一緒に居られるんだと思うと、胸がいっぱいになる。
 私は、弦の言葉に頷いて頬にキスを贈った。


「うん、早く帰ろう。私たちの家に。」


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