【R18】黒猫は月を愛でる

夢乃 空大

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第二章 黒猫の恋人

第77話 指輪の意味

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 目的階に到着してエレベーターが開くと、そこにはまた広いエレベーター前のホールがあり、少し進むと目の前に豪華な扉が見えてきた。


 弦はその扉に先程から使用しているカードキーを翳して解錠すると、中にはクローゼットとパウダールームを備えた明るく広々とした空間が広がっていた。

 弦は躊躇することなく部屋に入ると私を抱き抱えたまま、片手で器用にスーツのジャケットを脱ぎクローゼットに掛けると、広くて長いホワイエを抜け部屋の奥へと進んでいく。

 ぱっと空間がひらけたので辺りをぐるりと見回すと、そこは大きく開放的な窓が印象的な広々としたリビングルームだった。

 日中はこの大きな窓から採光するのだろう、先程とは違ってリビングに大きな照明はなく、ダウンライトと間接照明の灯りのみの落ち着いた空間となっている。


 ゆったり寛げそうな大きなカウチソファに、大きなダイニングテーブル、小さなバーカウンターまであり、そして、恐らくあの奥の扉はベッドルーム……


 気後れしそうな程、豪華で洗練された空間に圧倒されている私を見て、弦は楽しそうにくつくつと笑う。


 先程から感じていたが……
 専用エレベーターといい、客室の豪華さといい……

 ここは恐らくスイートルームだろう。

 人生初の、多分…スイートルームに若干怖気付いた私は、弦を上目遣いで見上げると恐る恐る確認するように訊ねた。


「あ、あの……ここ……は?スィートルームというやつではないでしょうか……」

「ふふふ、うん、そう。部屋とってるっていったでしょ?ここは俺と名月が今日と明日過ごす部屋だよ。」

「きょ、今日と明日……?」

「……そう、今日と明日。不安なんて感じてる暇無いくらいゆっくりじっくりトロトロに愛してあげるから、安心して俺に全部委ねて。」


 弦は優しい笑みを湛え、戸惑う私の頬をするりと撫でると、そのままリビングの大きな窓まで歩を進めた。


 高層階にある部屋の大きな窓から外をみると、薄暗い足元が暗闇に溶け込み、抱き上げられている浮遊感と併せて空に浮いている様な感覚を覚える。

 ふわっとした感覚に恐怖を覚えて思わず弦の首に縋りつくと、弦が安心させるように優しく囁いた。


「ふふ、名月、絶対に落としたりしないから大丈夫だよ。それよりも、ほら、見てごらん?綺麗だよ。」


 弦に言われて恐る恐る視線を窓の外に向けると弦の言う通り、キラキラと幻想的な光景が広がっていた。


「ほんとだ…凄く綺麗……」


 もっと間近で見たくなって、勇気を出して少し身を乗り出し足元の街の灯りを覗き込むと、そこには色とりどりの光が散りばめられていて、まるで宝石箱を見ているような高揚感に包まれる。
 その美しい夜景に思わず溜息が漏れると、ふっと笑った弦が耳元で甘く囁いた。


「でも、名月の方がずっとずっと綺麗だ。」


 その声にぱっと顔を上げると、窓ガラスに映った弦が腕の中の私を心底幸せそうに陶然と見つめている姿がみえた。
 思わず弦の方に振り向くと、熱っぽく私を見つめる瞳とぶつかり、途端に顔が熱く火照る。
 その様子に弦はくすりと笑い、私は緊張と羞恥でふいと目を逸らした。


「そ…んっなこと……」

「綺麗だよ。世界で一番。」


 弦は砂糖菓子のような甘い声で耳元でそう言うと、真っ赤になって熱く火照る私の頬にちゅっちゅっとキスをした。


「名月、目を開けてこっち見て?お願い。」


 羞恥と緊張に震え固く目を瞑る私に、弦は優しく甘い声で懇願するように言うと、顔中にキスの雨を降らせる。

 その優しい愛撫に徐々に私の緊張が解れていき、おずおずと目を開けると、蕩けるように甘い笑みを湛えた弦が私を愛おしそうに見つめていた。

 優しく甘い弦の瞳に捉えられ、私は瞳を逸らす事が出来ず、じっと弦の目を見つめることしか出来なかった。

 やがて弦は、私を抱き抱えたまま徐に私の左手をとり、指を絡めてきた。


「愛してるよ。ねぇ、名月。もう俺には名月のいない毎日なんて考えられない。だから…ずっと俺と一緒にいて欲しい。」


 そう言って弦が絡めた指を解くと、なんだか左手に違和感を感じた。

 その違和感の正体を知りたくて、私は、徐に左手を目の前に掲げる。
 すると、目の前にある私の左手の薬指には、いつの間にかブルーサファイアとダイヤモンドが交互に散りばめられた綺麗なエタニティリングがまっていた。

 指輪の豪華さにも吃驚したが、私と弦が今身につけている装飾品アクセサリーとデザインが同じなので、揃えて作ったのだろう。

 いつ用意していたのか、揃いのアクセサリーなら壮行会前に渡してくれれば良かったのに……
  
 そう、壮行会前にパーティに必要だからと、ドレスとアクセサリーを貰った。

 ただし、指輪以外……

 一緒に出来上がってきたわけだから、忘れていたわけではなく、わざわざタイミングをずらして指輪を渡してきたんだよね?

 そう思った瞬間、ドキリと心臓が跳ね上がり、心臓が物凄い速さで脈打ち始める。


「弦、これって……」


 ぱっと弦を見上げると、優しいけれども真剣な眼差しを向ける弦と目が合う。


 左手の薬指に填まっている指輪が意味するもの……

 その意味を理解すると、じわじわと涙が込み上げてきて、視界が滲んでくる。

 私はもう一度指輪をまじまじと見た後、潤む瞳で弦を見上げると、弦は私を愛おしそうに見つめて頷き、蜂蜜のように蕩けるような甘い声で囁いた。


「名月、結婚しよう。この先もずっと一緒にいられるように……俺と家族になって欲しい。……いい?」


 そう告げられると、胸がいっぱいになって、眦から温かい涙が溢れ頬をぱたぱたと滑り落ちる。


「……私でいいの?」


 震える声で訊ねると、弦は優しく微笑み答える。


「うん。名月がいい。名月以外は要らないの。俺は名月じゃなきゃ嫌なんだ。名月は?俺と結婚したくない?」


 弦の言葉に、私はこみ上げてくる涙を必死で堪え、鼻を啜りながらなんとか言葉を絞り出した。


「したい……私も、弦とずっと一緒にいたい。結婚したい。家族になりたい。」

「うん、俺も名月とずっと一緒にいたい。俺が一生幸せにするって誓うから、結婚してくれる?」


 幸福で胸が埋め尽くされていっぱいになって、それが涙となって溢れた。
 涙が後から後から溢れて止まらなくて、上手く言葉が出ない代わりに、私は何度も首を縦に振って答えた。


「うん…うん……結婚する。家族になる……」

「じゃあ……仲原名月から猫実名月になってくれる?」


 そう言いながら眉を下げて、困ったような顔で覗き込む弦の瞳には、心做しか薄らと涙が滲んでいた。


「うん……なる。」


 私は溢れる涙を我慢しようとするが、涙は一向に止まらなず、結果、泣きながら精一杯笑顔を作り、弦に笑いかける。

 弦は私の返事を聞くと、唇に優しいキスを落としてぎゅうっと私を抱き締めた。
 私も弦の首に両腕を回して弦を抱き締める。


「……ありがとう。名月、愛してるよ。心から君を愛してる。」


 弦はこの上なく幸せだというようにくしゃくしゃっと破顔した。



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