【R18】黒猫は月を愛でる

夢乃 空大

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番外編

初めての大型連休の過ごし方 連休8日目-ドライブデート-

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 翌日の連休8日目。満を持して今日は朝からお出かけ。

 昨日あの後、ベッドの中で行きたいところの希望を聞かれたのだが、アウトレットに、水族館に、日帰り温泉に…行きたい所があり過ぎてひとつに絞れず、どうしようか考え倦ねた結果、新しい営業鞄を買いたい事を思い出したので、弦の車で少し遠方のアウトレットモールに行くことになった。

 弦曰く、

「アウトレットじゃなくても、欲しい物があれば買ってあげるのに。」

 との事なのだが、流石に仕事で使う物や普段使いの物まで買って貰うのは気が引けるので、丁寧にお断りさせて頂いた。
 と、言うよりも、既に弦は、私が欲しいというよりも先に色々と調達をしているのだ。
 引越ししてきた日に一緒に買いに行った服もいつの間にか弦が支払いを済ませていたし、日に日にクローゼットの中には見覚えのないワンピースやら通勤用のスーツが吊り下がっていたりする。
 問い詰めても素知らぬ顔をされるので、諦めて放って置いたらあっという間にクローゼットにいっぱいになっていたのは何故なのか……しかも、どれも少しお高なブランドな気がしないでもないが、どの服もセンスが良く絶妙に私の好みをついてくるところが憎い。


「今日のデートはこのワンピースがいいと思うんだけどどうかな?」


 そう言って弦が持ってきたのはひまわりのような明るい黄色のワンピース。
 それに合わせて、薄手の白のレースのカーディガン、それとカンカン帽と小さめのショルダーバッグ。

 可愛い…凄く……可愛い。
 合わせた感じもツボで胸がキュンとする。


「可愛い…!でも、あれ?こんなのクローゼットにあったっけ?」


 そう、とても可愛いのだが……
 ワンピースはおろか小物に至るまで、クローゼットの中で見た事がなかったと思う。不思議に思い弦に訊ねてみると、にっこりと綺麗な笑顔ではぐらかされてしまった。

 そんな弦の装いは、白地のTシャツの上に黒のジャケットを羽織ってグレーのアンクルパンツ。
 シンプルだけど、オシャレでとても似合っていて格好よかった。

 弦のセンスの良さに惚れ惚れして見惚れていると、弦が片手に小さなトラベルバッグを持ちワンショルダーのボディバッグを背負ってやってきた。


「じゃあ行きましょうか、お姫様。」

「お姫様って……」


 そう言ってにっこり笑った弦が差し出した左手に、私は苦笑いして右手を重ねた。

 しかし、トラベルバッグって、何に使うんだろう……?
 考えてみたけどわからないので、深く考えるのは止めておく。それよりも、デートが楽しみで仕方がない。


 アウトレットには首都高湾岸線から東名を飛ばして2時間程なので、ちょっとした日帰り小旅行のようだ。途中サービスエリアにも立ち寄り、目的地にはお昼すぎに到着した。
 弦が助手席のドアを開けてくれると、爽やかな風が頬に当たった。都会とは空気がまるで違って、どうしたって気分が高揚してしまう。
 弦にエスコートされてクルマから降りると、ぐぐぐっと身体を伸ばして深呼吸をする。


「はぁ~っ!空気が冷たくて気持ちいい!」

「ん、確かに気持ちいいね。山の近くだからかな。」

「そうかも。でも、アウトレットなんて久しぶり!連れて来てくれてありがとう!」

「ふふふ、そんなに喜んでくれるならもっと早く連れて来てあげたら良かったなぁ。何でも欲しい物があったらいってね?鞄も、靴も、洋服も、宝石だって、全部買ってあげるから。」


 楽しみ過ぎて、行きの高速道路の中でもはしゃぎっぱなしの私だったが、流石にこの激甘い発言には絶句してしまう。


「も、もう……弦はまたそうやってすぐに私を甘やかすんだから。必要なものだけでいいの。自分の物は自分でちゃんと買うよ。」

「だぁめ。そう言うのは、男の役目だよ。お願いだから、俺に役目を果たさせて?ね?」

「うぅ……そんなこと言われちゃったら…」

「ね?名月、愛してるよ。俺の大事なお姫様。俺に名月を着飾らせて?お願い。」


 弦に困ったように眉根を寄せて懇願されてしまうと、断るにも断れない。


「わ……わかった…わかったけど、最低限だよ?無駄遣いはダメだからね?ね?ね?」

「ありがとう。善処するよ。」


 私の言葉に弦は嬉しそうに顔を綻ばせながら、非常に心許ない返事をした。
 これは全然信用できない。放っておくと際限なく買い物しそうなので、いざとなったら全力で阻止しようと私はひっそり心の中で決意をする。

 その瞬間突然お腹がぐぅきゅるるると、けたたましく鳴った。


「はわっ!」


 さ、さっきサービスエリアでソフトクリームとメロンパン食べたばかりなのに…

 あまりの恥ずかしさに真っ赤になってお腹を押さえて下を向くと、隣の弦は肩を震わせて笑いを堪えながら、手に持ったMAPで顔を覆った。


「ふっは、凄い音!とりあえず、お腹空いたみたいだからランチにしようか?」

「むぅ、そんなに笑わなくても……」


 あーおかしい、と言いながら目尻に滲んだ涙を拭う弦をジト目で睨めつけ、恨み言をいう私の頭をぽんぽんと撫でる。


「折角だからご当地グルメがいいよね?この辺だと、魚とか……」

「ご、ご当地グルメ!」


 その甘美な響に一気にテンションが上がり、先程の鬱屈とした気持ちが吹き飛んだ。
 その様子に弦はふいと顔を背けまたもや肩を震わせている。


「ぶっ……げ、現金…」

「へ?何が?ほら、弦、早くいこうよ。ご当地グルメ♪」

「う、ううん…な、なんでもないよ……ぶはっ」


 ご当地グルメの事で頭がいっぱいでルンルンな私は、震える弦の手をグイッと引っ張り先を促す。
 そんな私の様子に、弦はとうとう我慢できずに盛大に吹き出しお腹を抱えて楽しそうに笑った。


「むっ。何がそんなにおかしいのよ。」

「ううん、なんか可愛いなぁって。」

「へ?か、か、かわ、可愛いって……なんで?」


 可愛い?特になにもしていないはずだが…
 私はまた何かやらかしたのだろうか……

 何が何だかわからず、立ち止まって弦を見上げてキョトンとしていると、弦は目を細めて私を見つめ繋いだ手をぎゅっと握ってまた楽しそうに歩きだした。


「ふふふ、名月は何をしても可愛いって事だよ。た、食べ物に弱いところとか……ふははは!」

「確かに食べる事は好きだけど……」

「そんなに細い身体のどこに入るの?ってくらい食べるしね。見てて気持ちがいいよ。……ハ、ハムスターみたいだし…」


 笑いを噛み殺しながら弦は人の事をまたもやハムスターとか言う。前も思ったが、些か失礼ではないかと思う。私は少しむくれながら弦に抗議をした。


「ハムスターって前にも言ってたけどさ、どの辺がハムスターなの?なんだかちょっと失礼だと思うんだけど。」

「んー、ちっちゃくてちょこちょこしてて、食べる時に小さい口にいっぱいに頬張って一生懸命食べてるところかな。小動物みたいで可愛いよ。」

「むぅ。私が小さいっていうか…弦が大きいだけだと思うの。」


 笑いながら私を小動物と言う弦をちらりと横目で見上げながら、ささやかな反論してみる。
 当の弦は180cmを超える高身長なので、そんな弦から見れば私は小さいのかもしれないが、小さいと言われても身長は158cmと女子の平均身長だから、ヒールを履くと160cm以上になるので言うほど小さくはないのだ。

 弦は顎に手を当てて少し何かを考えると、うんうんと頷き、にっこりと笑った。


「うん、そうだね。それはそうかもしれないね。」

「でしょ?」

「ぶはっ、その顔。そういう所が可愛くって堪んないんだよなぁ。」


 弦の答えに満足してドヤ顔をする私を見て、弦はまた楽しそうに声を上げて笑った。

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