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番外編
初めての大型連休の過ごし方 連休8日目-今度こそ温泉でしっぽり?-
しおりを挟むショーツを脱ぎ手早くタオルを巻くと、リビングの窓を抜けて半露天になっている浴場へ向かう。
源泉掛け流しの総檜の広い湯船に、なみなみと湛えられた無色透明のお湯からは、ほこほこと温かい湯気が立ちのぼっていて、見ているだけでも気持ちよさそうな雰囲気だ。
「やっと来た。名月も早くおいで。温かくて気持ちいいよ。」
湯気の向こう側で、ほんのり顔を蒸気させ髪をかき揚げながら言う弦の表情が思いの外色っぽくて、ドキドキして心臓に悪い。
ただお湯に浸かっているだけなのにあの色香は何なんだ?!
凄まじい色気にクラクラっとして、お腹の奥がきゅんとしたが、目の前の温泉にも早く入りたい。
不埒な考えは頭の片隅に追いやり、湯船に浸かる前に掛け湯をする為に、長い髪をくるりとまとめた。
桶に汲み取ったお湯はぬる過ぎず熱過ぎない程の適温で、海が近いせいなのかサラサラしていて少し塩辛い。
2、3回程掛け湯をしてから念願の温泉に足を付ける。足元からじんわりと温かさが伝わってきて、思わずほぅと溜息が出た。
「名月、足元滑るから気をつけて。」
いつの間にか、先に湯船に浸かっていた弦が傍までやって来て、私の手を取り支えながら湯船にエスコートをしてくれて、漸く温泉に浸かる事が出来た。
弦の斜め向かいに腰を降ろすと、ちゃぷんと首まで身体をお湯に沈め、広い湯船にぐぐぐっと足を延ばす。最高だ。あまりの気持ち良さに自然と声が出た。
「はぁぁぁ…気持ちいいぃぃぃ!」
お湯の温かさと塩の効果なのか、身体がポカポカと温まって解れていく。
「うん、気持ちいいね。あ、名月の足、沢山歩いたからパンパンだ。」
弦は私の様子に目を見開き、くすくすと笑ってそういうと私の足へ手を伸ばしてきて、徐にふくらはぎを掌で包み込みポンプするようにマッサージし始めた。
下から上へ、上から下へと揉んだり摩ったり…弦の手の気持ちよさに思わず恍とした声が漏れた。
「っあ…それ、凄く気持ちいい……」
「ははは、お褒めに預かり恐悦至極です、お姫様。」
わざとらしく仰仰しい言い方をして戯ける弦に、自然と笑みが零れた。
弦の手がふくらはぎから脛のリンパに移り、外側と内側のリンパを親指と人差し指の腹で挟み込み滑らせていく。
結構痛いけど、これがまた癖になる気持ち良さだった。
「くぅ~、それはちょっと痛い。でも、気持ちいい……はぁぁ、そこそこ……弦はマッサージも上手だねぇ。」
「ありがとう。名月のリンパ、ゴリゴリだね。俺も営業で一日外回りしてた時は夜にはパンパンになってたから風呂で良くセルフマッサージしてたんだよね。」
弦はそういいながら、私の滞っているリンパを容赦なくゴリゴリと流していく。
それにしても…セルフマッサージとは……
私は…そんな事した事ない。正直、毎日ヘトヘトで、帰ってきてからマッサージしようとか…そんなめんどくさい事思いもしなかった。足が浮腫んで痛いなと思っても、せいぜいお風呂上がってから加圧ソックス履いて寝るだけ。
付き合って一緒に暮らし始めてから弦の女子力の高さにはびっくりさせられてばかりだ。
「……セルフマッサージって…弦の女子力の高さ…私より上だわ。」
恨めしげにジト目で弦を見るが、当の弦は全く意に介してない様子で、逆ににっこりと微笑まれてしまった。
「え?そう?」
「そうだよ。マッサージもそうだけど、何よあのバスグッズの種類!入浴剤だって、すっごい沢山あるし、何よりお風呂上がりのスキンケアとか、かなり念入りだよね。私なんて乳液と化粧水パッパだけなのに。」
「んー、俺はもう若くないからね。名月はまだ若いからそれだけで全然大丈夫。ていうか、何?そんな事気にしてたの?」
なんだか自分の女子力のなさに自分で言っていて悲しくなってきて、しょんぼりと意気消沈する。
そして、この弦の女子力についてが少しばかり気になった。もしかして、元カノとかの影響なのだろうか…
「…気にするでしょ?……誰の影響よ…」
楽しそうにくつくつと喉を鳴らして笑う弦の顔を複雑な表情で見つめると、俯きふくれ気味にボヤくと、弦は意地悪そうな笑みを浮かべて、俯く私の顔を覗き込んできた。
「あらら、どうしたの?そんなに可愛い顔しちゃって。誰の影響って…もしかしてヤキモチかな?」
「なっ……」
その通りだった。今の弦に影響を与えた元カノに嫉妬している。
過去の事など気にしても仕方がないのだが、気になるものは気になるのだ。
しかも、自分よりも明らかに女子力が上となると、流石に比べてしまうし、若干嫌な気持ちにもなる。
それを言い当てられて、かっと顔が熱くなり絶句した私は、俯いたまま顔をぷいと逸らした。
「……悪い?」
色々と言いたい事はあったが、なんとか絞り出すように言えたのはこれだけ。
我ながら可愛くない対応だなと思ったが、私の中の不貞腐れた気持ちが素直になるのを拒んでしまっているのだから仕方がない。だけど、そんな反応をしても、私に甘い弦なら許してくれるだろうと思っていた。
しかし、いつもならすぐに抱き寄せて、甘く優しい声で「機嫌なおして?」と来る弦なのに、待てど暮らせど何もして来ない。
それどころか、声も発さないし微動だにしない。
どうしたのだろうか…
可愛くない反応をしたので、流石に愛想を尽かしてしまったのか…
悪い考えだけがグルグルと回り、不安が募った。
私は意を決して、恐る恐る逸らした顔を弦の方へ向ける。
すると、目の前には、真っ赤になって口を手で覆い、目をぎゅっと瞑り天を仰いで呻いている弦が視界に映った。
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