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トラヴェエ王太子の責務と恋
■爆ぜた想いと決意1
しおりを挟む国王との謁見からどれくらいの時が経ったのだろうか。ゆっくりと目を開くと、日は落ち辺りは既に暗くなっていた。
なんだか懐かしい夢を見ていたようだ。
アイリーンを護ると決めたその日の幸せな夢…しかし、現実はどうだ。
私は国のために、好きでもない、隣国の姫君と政略結婚をする。
再度認識したら息が止まってズクリと胸が痛んだ。
思わず両手で顔を覆うと頬が冷たく濡れていて、それが涙だと理解するまで時間はかからなかった。
そこで漸く自分が泣いていた事に気が付き、未だ想いを断ち切れない自分の浅ましさを自嘲した。
婚姻は王族の責務であり、王太子である以上は義務である。
王命が出された以上、私は父の言う通りハイデリガの王女と婚姻を結ばねばならない。
王族に生まれたからには、その責務をいつかは果たさないといけないと理解をしていたし納得もしていた。
だが、その義務を果たすのであれば想い焦がれた相手がいいと願い、そのために必死で努力をして根回しをしてきたのに……
願いが叶うまであともう少しだった。
もう少しだったのに……
ここまで来て、私は長年恋焦がれ続けたアイリーンへの想いを断ち切らねばならないとは、運命はなんと残酷なのだろうか。
自分の置かれた現実に目を背けてしまいたい。
しかし、自分は王太子なのだ。この責任からは逃れられない。
そんな事はわかっていたはずなのにそれでも、なお、心は彼女を求めている。
狂おしいほどに…
絶望にも似た感情に思考が支配され、頭が酷く痛んだ。
このまま眠ってしまおうか…
そしていっそそのまま永遠に目覚めなくてもいい…
そう考えたが、こんな時にまで私は自分の立場を切り離すことは出来ず、即座にその考えを打ち消すと、大きく息を吸い込む。
極度の緊張と精神的な疲労からか、口がカラカラに乾き肺が痛んでゴホゴホと激しく咳き込んだ。
喉ががひりついていて苦しくて、水を飲もうと咄嗟にベッドサイドに手を伸ばしたが、そこにあるはずの水差しはなく、虚しく空を掻いた。
先程水差しごと飲み干してしまった事を思い出した私は、力なくのろのろと重い身体を起こすとベッドへ腰を掛け、ふぅと一息つき、扉の向こうへ声を上げた。
「誰かある!」
すると、私の呼びかけに近衛がガチャリと私室の扉を開いたと同時に、ぴょこっと扉の向こうから見覚えのあるプラチナブロンドの頭が飛び出してきて、私は驚きのあまり瞠目し、我が目を疑った。
まさか……そんなはずはない…
これは私の欲望からの幻だろうか、そう思ってしまう程、私が求めてやまない人が目の前にあらわれたのだ。
そう、扉の陰から出できた人物は、紛れもなく恋焦がれてやまないアイリーンだった。
驚愕に固まっている私をアイリーンはチラリ見てにっこりと笑顔を向けると、ぴょこぴょこと跳ねるように部屋に入ってきた。
薄い緑のふわりとしたドレスを着ているアイリーンは、跳ねる度にプラチナブロンドの髪をふわふわと揺らし、その姿はまるで妖精のような可愛らしさだった。
その仕種姿に思わず見惚れていると、その可愛らしい妖精はあっという間に私の目の前までやって来て、空のように澄んだ碧眼はいたずらっ子のような笑みを浮かべながら下から私を真っ直ぐに見上げてきた。
そして、その可愛らしい鈴を鳴らしたような声で少し拗ねたように挨拶をする。
「ヒュー兄様、おはようございます。ようやくお目覚めですか?」
突然の上目遣いという可愛らしい仕種に、私の心臓はドキリと跳ね上がった。
「……あ、あぁ。すまない、少し眠っていたようだ。ところでリーナはどうしてここに?」
可愛い……
どうしようもない愛おしさが込み上げてきて、心臓が早鐘を打っている。彼女が可愛すぎて直視ができず私は少し視線を外しながらいつものように頭を撫でると、アイリーンは気持ちよさそうに目を閉じ、私の手に身を委ねた。
その仕種がとても可愛くて、嬉しくて、愛おしくて、何度も何度も夢中で撫で続けていると、アイリーンは首を竦め、くすぐったい、と笑いふるふると軽く頭を振って撫でる手を制止した。
私としてはもっと撫でていたかったのだが仕方がない。
苦笑を零すと気を取り直して私はアイリーンの手を取る。
「さぁ、こちらへどうぞ。お姫様。」
カウチの方へとエスコートし、その流れで掛けるようにアイリーンに勧めるが、彼女はカウチに掛ける事無く何故か私の手を取ったままこちらをじっと見つめて来た。
「ん?なんだ?」
私が笑みを浮かべてアイリーンの顔を覗き込むと、彼女は少し不貞腐れたような表情をすると一気に捲し立てるようにこう言った。
「本日はジュー兄様に用事を仰せつかったので、兄様の執務室へ行ってきました。折角登城したものですので、ヒュー兄様の執務室にも立ち寄ったのにいらっしゃらなかったので、こちらに来てみましたのに………
ノックしてもお返事もなくて、中々出てきてくださらないから…そろそろ屋敷へ帰ろうかしら?と思っていたところでしたよ?」
「…あぁ、それはすまないことをした…」
私が言葉を言い終わると、アイリーンはまたこちらをじっと見つめ、やがてふわりと笑顔でこう付け加えた。
「でも、待ってて良かったです。だって……こうして会えたもの。」
「っっ!!!」
途端に私の中で何かが弾けた音がした。
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