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トラヴェエ王太子の責務と恋
□兄からの依頼
しおりを挟む「それで?ジュストのお遣いとやらは何だったのかな?」
兄から聞いたことをどこまで話していいのかわからないので、とりあえずカップの紅茶をちびちび飲みながら思考を巡らせる。
先程までの熱い抱擁などまるでなかったかのように、いつも通りの優しい表情でヒュー兄様から訊ねられたのだが、それがちょっぴり淋しく感じるのは何故だろうか…自分の感情が分からなくて困惑する。
それに依頼内容が気になるのであれば、ヒュー兄様が自身の補佐官である兄を明日にでも呼び出して聞き出せばいのに。何も今ここで私に聞かなくてもいい話なのだから。
ぐるぐると考えた結果、自分の気持ちも含めた諸々の事を私が判断をするには荷が重すぎると判断したので、とりあえず兄から聞いた話については当たり障りのない内容を話すことにして、ティーカップを一度テーブルに置いた。
「えっと…10日後にいらっしゃる、外国のお客様のお相手を頼まれました。来月の生誕祭の来賓の方だそうで……」
私がそう言い終わると、ヒュー兄様の顔色が変わり表情が一切無くなった。
そして、一瞬でこの部屋全てを凍てつかせるのではないかと思えるくらいの冷え冷えとした視線をこちらに向け、絶対零度の言葉を放った。
「ふぅん。その相手は、男?」
その今まで見たことないヒュー兄様の表情と口調に吃驚すると同時に恐怖を感じた。背筋が凍るというのはこういうことを言うのだと、身をもって体験した気分である。
いつものヒュー兄様の優しい口調とは違い、その口調には若干の怒気が含まれている気がしたが、私は何故怒りを向けられているのか理解出来ず戸惑った。
そもそも……
万年壁の花の私に兄が男性を充てがうはずがないと思う。
婚約者や恋人のいない私には、舞踏家のエスコート役を引き受けてくれる人もいなかったので、いつも兄のエスコートだったのはヒュー兄様もご存知のはず。しかも、国王陛下や王太子殿下のヒュー兄様の生誕祭の来賓は王族や有力貴族の男性である。
当たり前だが、お相手は基本的に兄が担当するので、異性である私にお世話係が私に回ってくることは有り得ない話だろう。
ヒュー兄様が懸念されているのは、万が一他国の王族や貴族に失礼があったら大変だという心配からの怒りだろうが……
悲しい事に、それは正直、全くの杞憂なのだ。
何だか自分で言っていて悲しくなってきた。
気持ちが重くなってきた私は否定の意味を込めて首を振った。
しかし、ヒュー兄様の表情からは納得していない様子が見受けられた。ヒュー兄様のこの剣幕では相手の身分までは話さざるを得ない。
私は諦めて観念すると、ヒュー兄様に今回お世話する相手を告げた。
「いえ……ハイデリガの王女殿下…です。」
私から相手を聞いたヒュー兄様は一瞬大きく目を見開き瞠目すると、額に手を当てて天井を仰ぎ絞り出す声で、なんという事だ、と呟き、そのまま暫く沈黙する。
やがて、ヒュー兄様は短く嘆息すると、困ったような苦しいような表情を浮かべて私を見つめて、ぽつりと呟いた。
「……それで、ジュストは……なんて言ってた?」
「はい、王女殿下とはお年が近いから話し相手になって欲しいと。私に務まるかどうかわかりませんけど。」
「……それだけ?他には何も言っていなかったか?」
「えぇ、あとは……くれぐれもお転婆するなよ?くらいですかね。」
「そうか……それで、リーナはその話引き受けたの?」
その心配そうな表情……
なんだかちょっと腹立つなぁ……
兄といいヒュー兄様といい私の事を信用していないのか、心配し過ぎだろう。
これでも公爵令嬢としての所作も作法も小さなうちから叩き込まれているので、公の場であれば、完璧にこなせる…はず。
第一、王女とは四六時中一緒にいる訳でないので、そうそうボロが出ることはないだろうから、こちらも全くの杞憂であるが、あまりの腹立たしさに一言言ってやらないと気が済まなかった。
「はい、特に断る理由も無いですし。大丈夫です!お転婆の心配なら無用ですよ?いつも通り立派に猫かぶりしてみせますから!」
ふふん、と鼻息あらく高らかに宣言すると、ヒュー兄様は右口角をあげ苦虫を噛み潰したような表情をして、ふぅん、引き受けた、ねぇ……と呟いた。
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