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トラヴェエ王太子の責務と恋
□二人の兄と執務室で
しおりを挟む兄のエスコートを受けてヒュー兄様の執務室に入ると、待ちかねたようにヒュー兄様が出迎えてくれた。
「リーナ、おはよう。よく寝ていたね。昨日は食事の途中で眠ってしまったから、よっぽど疲れていたんだね。疲れはもう大丈夫なのかい?」
いつも通りの優しい口調だが、少しだけいつもよりも甘さを含んでいる気がするのは私だけだろうか。
横で兄がニヤニヤしているのが視界に入ったが、無視を決め込むことにする。
執務机から立ち上がったヒュー兄様は、真っ直ぐに私を見つめ前までやって来ると、着飾った私の姿を上から下まで確認した。そして、嬉しそうに破顔した。
どうやらヒュー兄様の目には横に居るニヤニヤ顔の兄は、全く視界に入らないらしい。
「うん、私の見立ては間違いがなかったな。今日のドレス、可愛いよ、とてもよく似合っている。」
そう言うと、結ってある髪房を掬いそこに口付けを落とし私の頬をするりと撫でた。
うぁー……あ、あ、甘い…ヒュー兄様が甘すぎる。
思わず赤面する私を見つめふんわりと微笑むヒュー兄様に、心臓が高速で早鐘を打つ。
激しい動悸に息が出来ず、生理的な涙が滲んだ潤んだ瞳でヒュー兄様を見上げた。
「アイリーン……」
ヒュー兄様が私の名を呼び、両手で頬を包み込み顎を掬い上げる。
そのままヒュー兄様の綺麗な顔が近づいてきて……
そこで、すかさず兄が口挟んできた。
「あー……時にご両人。頼むからふたりだけの世界を作らないでくれ。ていうか俺の存在を忘れてないか?忘れられたら泣いて暴れるぞ?いいのか?ん?」
「あぁ、なんだ。ジュストいたのか。私のリーナが可愛すぎて、お前の存在が見えなかったぞ。」
泣き真似をする兄に真顔でしれっと返すヒュー兄様。
そして、何故か歯噛みして悔しがる兄。
「ぐぬぬ……当たり前だ!お前のじゃない!俺の妹だぞ!そんなの可愛いに決まっている!」
「何をいうか。私のリーナはお前の妹であろうがなかろうが可愛い。」
「いや、だから!まだお前のではない!俺の可愛いリーナだ!」
ふたりの応酬は暫く続き、完全に公開処刑に近く私は恥ずかしさで真っ赤になった。
何これ…ふたりして私を可愛い可愛いと……
恥ずかしすぎる…
終始赤面しっぱなしで俯いてやり過ごしていたのだが、そろそろ止めないと永遠にこの時間が続きそうな気がしてきて、私は意を決して止めに入った。
「ヒュー兄様、ジュー兄様、そろそろ……その…可愛いを辞めていただいてもいいです?流石に、これは恥ずかしすぎます…」
私の言葉にふたり同時にピタリと黙ると罰が悪そうに謝った。
「あ、あぁ。すまなかった。」
「リーナ、ごめんね。」
「わかって頂ければ……それから、いつまでここでお話されるのです?」
私がそう言うと、漸くここが執務室の入口だったと思い出したようで、兄とヒュー兄様がハッとする。
「そうだね、ごめんねリーナ。立ち話で済ませる内容じゃないし、とりあえずあっちに座ろうか。」
そう言うと兄は奥の応接へ誘導するため、再びエスコートをするため私の手を取った。その瞬間ふわりと身体が宙に浮く。
「え?!ヒ、ヒュー兄様?!」
「ジュスト、少しは遠慮してもらおうか。リーナは私が連れていく。」
ヒュー兄様がそう言うと、兄はやれやれというふうに両手を上げると苦笑した。
「ヒュー兄様…下ろしてくださいませ。あ、歩けますから……」
「いいから。黙って抱かれていろ。」
ヒュー兄様は私を横抱きに抱き上げたままぶっきらぼうにそう言うと、スタスタと歩き出した。
そしてカウチまで来ると、そのまま私を下ろすことなくカウチに座った。私は昨夜と同様ヒュー兄様の膝の上に座らされる。
その様子に、心底兄が呆れ返った顔でヒュー兄様に苦言を呈した。
「あのさ……肉親にまで嫉妬するのはいかがなものかと思うぞ?あぁ、可哀想にリーナが真っ赤になっているじゃないか。」
ヒュー兄様は兄の言葉にふん、とそっぽを向く。
「とりあえずお茶にするから、一度リーナを下ろしてやれ。喉が乾いていたら可哀想だろ?」
兄が呆れたように言うと、ヒュー兄様は間髪入れず返答する。
「このままここで飲めばいい。」
「いや、だからさ……なぁリーナ、お前も下りたいよな?」
頑ななヒュー兄様を説得するのを諦めた兄は、今度は私に同意を求めてきた。
も~~兄様~私に聞かないでよぉ~~!!!
兄の言葉を受けてチラリと上目遣いでヒュー兄様を見上げて言う。
「あ、あの……ヒュー兄様…下ろして?」
「嫌だ。」
ヒュー兄様はムスッとしながら即答した。
全く取り付く島もない様子に遠い目になりながらも、再度お願いをした。
「ヒュー兄様、お願い。お話もあるし。おふたりに聞きたいこともいくつかありますし……」
そう言うとヒュー兄様は少し何かを考える素振りをすると渋々拘束を解除してくれた。
その隙に私は膝から下り、そのまま空いている席に行こうとするとヒュー兄様にぎゅっと手を握られ、隣にピッタリと座らされた。
「リーナの席は私の隣だ。他に行くことは許さない。」
真剣にじっと私の顔を見つめるヒュー兄様を手を振り払えず、私は大人しくその言葉に従う。
「まずはリーナの聞きたいことの前に、私から言っておかねばならない事がある。……ジュスト、いいな。」
「あぁ、ヒューがいいなら。」
兄はそう言うと目を瞑り少し困ったような苦しいような顔をした。
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