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トラヴェエ王太子の責務と恋
□王太子の婚約者
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ハッとしてふたりして声のした方へ振り向くと、そこには兄が気まずそうに私達から目を逸らして立っていた。
うわぁ……ジュー兄様の事、完全に忘れてた……
あろう事か、兄の前でラブシーンを披露してしまった事に気が付くと、途端に顔が熱が集まりぼんっと沸騰したかのようにカァッと熱くなる。
居た堪れなくなって俯く私をヒューは深く抱き込めると、兄をチラリと一瞥し舌打ちをして牽制する。
「ジュー、たった今俺とリーナは両思いの恋人となったんだ。邪魔をしてくれるな。」
そう言うとまたジューは私を愛おしそうに見つめる。その様子に兄は呆れたように深く大きな溜息を吐いた。
「うわ…砂糖吐きそ。ていうか、イチャつくなら後で部屋に戻ってからにしろよな。」
「見るな。不敬だぞ。」
「不敬も何もあるか!目の前でイチャつくな!それよりも……話を先に進めないか?」
兄が溜息混じりにそう言うと、ヒューは渋々私を先にカウチに座らせ自分も隣に座った。
兄は私達が座るのを見届けると、徐にカバンの中から一枚の書類を出し机に置きこちらに差し出した。
「婚…約……誓約……書?」
目の前に差し出されたその書類にはこう書かれていた。
声に出して読み上げると、兄が静かに頷く。
「そう、これは婚約誓約書だよ。ヒューに言われて用意していたものなんだが……まさか、このタイミングで使うとは思わなかったけどな。」
「ジュー兄様……」
一度は引っ込んだ涙が再びせり上がってきて溢れた私を、ヒューが横から優しく抱き締める。
「先程、ソーニエル公爵家次期当主である、ジュスト・ソーニエルが、両者の求婚の立会人として同席させて貰った。この婚約誓約書は必要な時が来たら、正式なものとして俺が証明しよう。ヒューとリーナ、それぞれのサインを。」
兄の言葉に瞠目して隣のヒューを見ると、ヒューは優しい笑みを湛えていた。
あぁ、なんということだろう。
朝からやたら念入りに身を清め綺麗に着飾ったり兄が仰々しくエスコートしたりしたのは、全てこの為だったのか。
仮ではあるし急ごしらえではあるが、これは正式な作法に則った求婚と婚約式だったのか。
その事に気が付くと、感極まって涙が溢れた。
「にい、さま…っ…ヒュー……」
涙は堰を切ったように後から後から溢れて頬を伝い、その涙を優しくヒューが指で拭ってくれる。
ヒューも兄もとても嬉しそうで優しい表情だった。
「あー……これ、バレたら父上に殺されるかもしれないなぁ……」
婚約誓約書に目を通してお互いのサインをして兄に渡すと、兄は白目でそうボヤキながら受け取り鞄にしまった。
そして、ヒューをじっと見据えると、念を押すように言った。
「さて、ヒュー。俺は、お前が幼い頃からリーナを一筋に愛し想ってきた事を知っているから、この計画に乗ったが、流石に王太子とはいえこんな暴挙は許されないぞ。」
暴挙……
それは、ハイデリガの王女との結婚を控えている身でありながら、私と仮ではあるが婚約を用意した事を指しているのだろう。
確かに正式な婚約はまだ結んでいないとはいえ、婚約者がありながら他の女性に求婚をするなど、下手したら国際問題となるのは間違いない。
安易にヒューの気持ちを受け入れてしまうべきではなかったのかもしれないが、ヒューが他の女性のものになる事を考えるとゾッとしたし、息が出来なくなる程胸が苦しかった。
「婚約発表がある生誕祭まで幸いにもまだ一ヶ月程ある。それまでに、ハイデリガの王女の件は方がつくよう手を尽くすつもりだ。そして、出来れば私はそこで王女ではなく、リーナとの婚約を発表したいと思っている。」
「それで?何か策はあるのか?」
兄がヒューにそう訊ねると、ヒューは真顔でしれっと言った。
「そんな物はない。何せ、父上から婚約の話を受けたのは昨日が初めてだからな。」
「はぁ?!ないのか?!……い、いや、そんな毅然と言ってもダメだぞ?はぁ…ホントこれで良く今までやってこれたなぁ…ていうか……この無計画に俺は乗ってしまったのか……マジか……」
特に策はないと毅然と言い張るヒューに、兄は、終わった…と額に手を当てて天を仰いで嘆いた。
その様子にヒューはニヤリと片口角を上げると、自信たっぷりに言う。
「何をいうか。戦況を見極めて攻めどきに攻める。戦の基本だろう?今が攻めどきだったから攻めたまでだ。」
「はぁ、さようですか…あ、ヒュー、瞳が赤くなってるぞ。とりあえず落ち着け。」
「あぁ、すまない。気が昂ってしまった。それで………」
それから如何にして、ヒュー兄様の政略結婚を阻止するか、という討論が始まった。
式を断行してくれたのは嬉しかったけど……
まさかのノープランとは……
最悪、ヒュー兄様が政略結婚することになったとしても、それは受け入れるしかないと思っている。
政略結婚は王族貴族に生まれた宿命で義務だから。
ここまでして貰って沢山の思い出と沢山の愛情を貰えたのだ。
そして、ヒュー兄様を愛しているというこの気持ちにも気付けた。
私はそれだけで十分幸せで、例えこの先道が違っても、お互い別の人と結婚をしても……きっと、この想いを胸に生きて行ける。
ありがとう、ヒュー。
そして、ありがとう、ジュストお兄様。
私は夢中で討論している兄とヒューを見詰めた。
うわぁ……ジュー兄様の事、完全に忘れてた……
あろう事か、兄の前でラブシーンを披露してしまった事に気が付くと、途端に顔が熱が集まりぼんっと沸騰したかのようにカァッと熱くなる。
居た堪れなくなって俯く私をヒューは深く抱き込めると、兄をチラリと一瞥し舌打ちをして牽制する。
「ジュー、たった今俺とリーナは両思いの恋人となったんだ。邪魔をしてくれるな。」
そう言うとまたジューは私を愛おしそうに見つめる。その様子に兄は呆れたように深く大きな溜息を吐いた。
「うわ…砂糖吐きそ。ていうか、イチャつくなら後で部屋に戻ってからにしろよな。」
「見るな。不敬だぞ。」
「不敬も何もあるか!目の前でイチャつくな!それよりも……話を先に進めないか?」
兄が溜息混じりにそう言うと、ヒューは渋々私を先にカウチに座らせ自分も隣に座った。
兄は私達が座るのを見届けると、徐にカバンの中から一枚の書類を出し机に置きこちらに差し出した。
「婚…約……誓約……書?」
目の前に差し出されたその書類にはこう書かれていた。
声に出して読み上げると、兄が静かに頷く。
「そう、これは婚約誓約書だよ。ヒューに言われて用意していたものなんだが……まさか、このタイミングで使うとは思わなかったけどな。」
「ジュー兄様……」
一度は引っ込んだ涙が再びせり上がってきて溢れた私を、ヒューが横から優しく抱き締める。
「先程、ソーニエル公爵家次期当主である、ジュスト・ソーニエルが、両者の求婚の立会人として同席させて貰った。この婚約誓約書は必要な時が来たら、正式なものとして俺が証明しよう。ヒューとリーナ、それぞれのサインを。」
兄の言葉に瞠目して隣のヒューを見ると、ヒューは優しい笑みを湛えていた。
あぁ、なんということだろう。
朝からやたら念入りに身を清め綺麗に着飾ったり兄が仰々しくエスコートしたりしたのは、全てこの為だったのか。
仮ではあるし急ごしらえではあるが、これは正式な作法に則った求婚と婚約式だったのか。
その事に気が付くと、感極まって涙が溢れた。
「にい、さま…っ…ヒュー……」
涙は堰を切ったように後から後から溢れて頬を伝い、その涙を優しくヒューが指で拭ってくれる。
ヒューも兄もとても嬉しそうで優しい表情だった。
「あー……これ、バレたら父上に殺されるかもしれないなぁ……」
婚約誓約書に目を通してお互いのサインをして兄に渡すと、兄は白目でそうボヤキながら受け取り鞄にしまった。
そして、ヒューをじっと見据えると、念を押すように言った。
「さて、ヒュー。俺は、お前が幼い頃からリーナを一筋に愛し想ってきた事を知っているから、この計画に乗ったが、流石に王太子とはいえこんな暴挙は許されないぞ。」
暴挙……
それは、ハイデリガの王女との結婚を控えている身でありながら、私と仮ではあるが婚約を用意した事を指しているのだろう。
確かに正式な婚約はまだ結んでいないとはいえ、婚約者がありながら他の女性に求婚をするなど、下手したら国際問題となるのは間違いない。
安易にヒューの気持ちを受け入れてしまうべきではなかったのかもしれないが、ヒューが他の女性のものになる事を考えるとゾッとしたし、息が出来なくなる程胸が苦しかった。
「婚約発表がある生誕祭まで幸いにもまだ一ヶ月程ある。それまでに、ハイデリガの王女の件は方がつくよう手を尽くすつもりだ。そして、出来れば私はそこで王女ではなく、リーナとの婚約を発表したいと思っている。」
「それで?何か策はあるのか?」
兄がヒューにそう訊ねると、ヒューは真顔でしれっと言った。
「そんな物はない。何せ、父上から婚約の話を受けたのは昨日が初めてだからな。」
「はぁ?!ないのか?!……い、いや、そんな毅然と言ってもダメだぞ?はぁ…ホントこれで良く今までやってこれたなぁ…ていうか……この無計画に俺は乗ってしまったのか……マジか……」
特に策はないと毅然と言い張るヒューに、兄は、終わった…と額に手を当てて天を仰いで嘆いた。
その様子にヒューはニヤリと片口角を上げると、自信たっぷりに言う。
「何をいうか。戦況を見極めて攻めどきに攻める。戦の基本だろう?今が攻めどきだったから攻めたまでだ。」
「はぁ、さようですか…あ、ヒュー、瞳が赤くなってるぞ。とりあえず落ち着け。」
「あぁ、すまない。気が昂ってしまった。それで………」
それから如何にして、ヒュー兄様の政略結婚を阻止するか、という討論が始まった。
式を断行してくれたのは嬉しかったけど……
まさかのノープランとは……
最悪、ヒュー兄様が政略結婚することになったとしても、それは受け入れるしかないと思っている。
政略結婚は王族貴族に生まれた宿命で義務だから。
ここまでして貰って沢山の思い出と沢山の愛情を貰えたのだ。
そして、ヒュー兄様を愛しているというこの気持ちにも気付けた。
私はそれだけで十分幸せで、例えこの先道が違っても、お互い別の人と結婚をしても……きっと、この想いを胸に生きて行ける。
ありがとう、ヒュー。
そして、ありがとう、ジュストお兄様。
私は夢中で討論している兄とヒューを見詰めた。
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