年下上司の愛が重すぎる!

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2話

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『ちょっと姫崎さん、まだミーティングも終わってないのに逃げないでくださいよー』

「うっせ。あの状況で他にどうしろっつうんだよ」

署を出てすぐに影山から電話がかかってきた。
パトロールとはなにも嘘というわけじゃなく、日常的に行っているものだ。取り憑かれているかどうかは視える者にとって一発でわかるため、街を歩くことで予防にも繋がる。

『新たな情報です。要注意人物を発見しました』

「バカ野郎、それを早く言え」

とはいっても一人で見て回れる範囲などたかが知れているので、SNSからも常に情報を収集している。パソコンが得意な影山が、それをまとめてこうやって報告をしてくれるのだ。

『詳細は警部に伝えたので仲良くしてくださいね~』

「あ゛!?待て、影山!」

ツー、ツー、という音とともに電話が切れた。思わず舌打ちが漏れ、深くため息をつくと丸めた背中に声がかかる。

「姫崎さん!」

あー、くそ。なんで俺が。
正直関わりたくないのだが、要注意人物の情報を持っているのなら邪険にはできない。

「場所はどこです」

「え?」

「要注意人物の居る場所ですよ。影山から聞いたんでしょう?」

言い争っている場合ではない。現場に着いてから追い返しても遅くはないだろう。

「あ、大学ですっ。ここの...」

携帯を操作して出した画像は、ここから電車で三駅ほど行った大学だ。道中に詳しい説明をしてもらう事にして、先を急いだ。


「あの、姫崎さん。お願いがあるんですけど....」

「.............なんです」

電車に乗り込んですぐ、佐原がおずおずと口を開いた。
本当は聞きたくなかったが、これから嫌でも付き合っていかなければならない。それも上司。既に印象は最悪だろうが。

「敬語、やめてくれませんか...?」

「は?」

何を言われるのかと身構えていたら敬語をやめろ?どういうつもりで言ってんだ、こいつは。

上司なんで」

「でもっ、俺の方が年下ですし、刑事としても大先輩ですし...!」

こいつ....、今の嫌味だってわかってねえのか!?
一応、とかなり含みを持たせて言ったのに、本人は特に気にした様子はなく、相変わらずキラキラとした目で見つめてくる。キャリア組は使えないくせにプライドばかり高いやつらの集まりだと思ってたけど違うのか?

当然無理だと伝えると、目に見えてしゅんとしてしまった。犬の耳まで見えそうだ。あまりの落ち込みように、気の毒になってつい口走った。

「命令なら、聞かざるを得ませんが...」

ぱあっと明るくなった顔を見てしまった、と反射的に思った。ただ、今度はぶんぶんと振っている犬の尻尾まで見えそうで、撤回するのも躊躇われる。

「でしたらっ、その....、命令、ということで....」

「ぶっ」

命令しなれていない様子に思わず吹き出してしまった。

「駄目、ですか....?」

.....なんで俺がイジメてるみたいになってんだよ...。はぁ...、はいはい。俺の負けですよ。

「...わかったよ。二人の時だけな」

「はい!」

何がそんなに嬉しいんだか。

「で、詳細は?」

「ターゲットは森下もりした 紗知さち20歳ハタチ、女性。自身のSNSに"最近寝れない"などの投稿が頻繁にされるようになり、ご友人だと思われる方も"友達の隈がすごい"といった投稿をされているので可能性は高いかと」

携帯に送られてきた情報にざっと目を通す。佐原は要約していたが、実際には『最近まじ寝れんw添い寝してくれる人募集w』といった投稿で、お世辞にも頭が良さそうには見えない。写真で見た感じもかなり派手だ。

友人の方も、『私のプロテクでクマ消したった!wすごくね?w』と似たような感じだ。心配しているかどうかも怪しい。
ま、友人関係がどうであろうと、会話ができるようであればこちらは全く問題ないが。

情報も確認し終え、人間観察でも始めようと周りに目を向けた時、まだ聞いてなかったことを思い出した。

「そういや、式神は何体使役できるんだ?」

式神を使役できる数はその人の霊力の量によって決まる。俺であれば二体、千葉であれば一体だ。
現場に出たいと言うからには当然使役できるものと思って聞いたのだが、佐原は言葉を喉に詰まらせた。

「まさか.....」

「いえっ、一応できるんですが....。その、下位のものしか使役できなくて.....」

「嘘だろ.....」

式神にも昔はいくつか種類があったようだが、今は擬人式神だけだ。理由は定かではないが、そこまで強い霊力を持っている人がいないからだろう、と言われている。

擬人式神は、式札しきふだに霊力を込めることで式神を使役できるものだ。式札とは、人型をした和紙のこと。霊力を込める量によって、上位式神と下位式神に分かれる。霊力を多く込めることによって意思を持った上位式神となり、少ないと意思を持たない下位式神となる。

下位式神は基本的に一つのことしかできないので、主に護符として使われることが多い。壁などに貼り付ければ、場所も守ってくれるので汎用性が高いのだ。いんを変えれば攻撃にも使えるが、なにせ一つの式札で一度しか使えないので使うタイミングが難しい。

「......それ、神野さんは知ってるのか?」

「はい。知ってます」

知ってて現場送るとかマジでなに考えてんだ!あの人!

「......悪いことは言わない。署に戻れ」

「っ嫌です!迷惑かけないのでそばに居させてください!」

「上位を使役できない時点で迷惑だ」

「っ」

「自分の身も守れない奴は足手纏いでしかない」

少々言い方はきついが、本当のことだ。はっきり言った方が佐原にとってもいいだろう。
だが———

「...足手纏いなのはわかってます。もしもの時は切り捨ててもらって構いません。でも、生半可な気持ちでここに来たわけじゃないんです。きっと役に立ってみせますから。そばに居させてください」

「っ、」

頑として頷くことはなかった。それどころかもっと傷ついた顔をすると思ったのに、真っ直ぐに俺を見据えてくる。その瞳に迷いはなく、相応の覚悟が窺える。そこまで言われてしまえば、これ以上の説得は野暮だろう。

「.....好きにしろ」

そう、言うしかなかった。
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