年下上司の愛が重すぎる!

文字の大きさ
8 / 60

7話

しおりを挟む
「.....森元さんとは..警察学校時代から仲が良いんですか...?」

腹も膨れてきたし、そろそろ帰ろうかと思っていたら佐原が遠慮がちに聞いてきた。

「は...?...いや、別に仲良くは......。けど、まあ昔からあんな感じですね」

「....そうですか」

「それが何か?」

「いえ。.....少し..羨ましいな、と」

「は.......?」

羨ましい?何言ってんだこいつは。もう酔ったのか?

「俺は...姫崎さんの事全然知らないんだなって...。だから、姫崎さんの事、教えてくれませんか...?」

待て待て待て。ほんとに何言ってんの?絶対酔ってるだろ!
突然わけのわからない事を言い出したと思ったが、表情は真剣だ。顔に出ないだけかもしれないが。ただ、酔っていないんだとしたらそれはそれで問題だ。

「警部って姫崎さんのことめっちゃ好きですよねー」

「姫崎の事なら俺話せますよ」

「えっ!?えっと、その......」

聞いていたらしい影山の発言に、佐原がわたわたと慌てだす。なんでそんなに好かれているのかは全くわからないが、正直なんと返したら良いか分からなかったので助かる。ただ、神野さんも日本酒を飲みながらこちらに耳を傾けているし、これ以上話を広げないでほしい。

「そういえば今朝も憧れてるって言ってましたもんね。きっかけとかあるんですか?」

「きっかけは.....、その、ほとんど一目惚れでして....」

少し照れたように爆弾を投下され、ウーロン茶を飲んでいた俺は変な方に入ってしまい、盛大にむせた。そんな俺の事はお構いなしに外野は面白がって口笛を吹いたりそれでそれで?と先を促している。
............これ、俺聞いてないと駄目なのか?

すぐにでも帰りたかったのだが、影山が邪魔で出られない。トイレに行くと言ってもどいてくれないだろう。

「姫崎さんが交番勤務の時に初めて見かけて...。通行人に笑顔で挨拶してる姿を見て、こんな綺麗な人この世にいるんだなぁって....」

その言葉に俺は頭を抱え、千葉は盛大に吹き出した。
失礼な奴だ。そりゃあ俺にだって初々しい時くらいある。ただ、この場で言うのはマジで勘弁してもらいたいんだが....。しかも絶対美化してるだろ....。

「それから、少し遠回りでしたけど毎朝挨拶して、たまに学校の帰りとか休みの日も用事ないのに交番の前通ったり....」

.................。......え?ってことは初めましてじゃないってことか....?
千葉と影山がじとっとした目で俺を見る。

「い、いや覚えてるわけねーだろ!通行人どんだけいると思ってんだ!」

「あっ、もちろんわかってます!本当に挨拶してただけですし、当時から姫崎さんは人気がありましたから」

じと目を送ってきた二人に向けたものだったのに、佐原が答えた所為で彼に言ったかのようになってしまった。訂正しようと口を開いたが、それもなんか違う気がして結局口を閉じる。

「そういえば警部っておいくつなんですか?」

「25です」

「へー。俺より下なんすね。それじゃあ高校生の時に初めて会ったんですか?」

「はい。.......でも、大学に入って一年..くらい経って急に見かけなくなっちゃって....。当時は辞めたとか、他の交番に移ったとかと思ってたんですけど、それから暫くしてスーツ姿の姫崎さんを見かけて」

.......まだ話すのかよ....。
多分、その頃から刑事課に配属されたので佐原には突然居なくなったように感じたんだろう。
酒に逃げることもできず、公開処刑のような心持ちで、恍惚とした表情で話す佐原をちらりと盗み見る。

どうせこいつも俺の顔だけしか見ていない。
別にそんなこと珍しくもなんともないが、正直俺はこの顔が嫌いだ。だから褒められても嬉しくないし、なんならあまり気分は良くない。
....というか、話を聞く限り若干ストーカーっぽくないか?

「会社員に転職したと思ってたんですけど、俺が大学二年の時に助けてもらったことがあるんです」

「助けて....って、え?なんか事件に巻き込まれたんですか?」

「あ、そんな大したことじゃないんです。酔っ払いに絡まれたことがあって、その時に」

またもじとっとした目がこちらに向く。
だから!覚えてるわけないだろ!
自分らだって同じようなことがあっても絶対に覚えてないだろうに、なんで俺だけ責められなきゃいけないんだ。

「その時の姫崎さんがかっこよくて、そこから本格的に警察官を目指したんです。柔道もその頃から始めました」

「「「え!?」」」

三人とも、同じように驚きの声を上げた。
柔道の大会で優勝するくらいだから、てっきり小さい頃から習っているものだと思っていた。長くやっているからといって、必ずしも実力が伴うわけではないのはわかっている。でも、だからこそ余計悔しい。

たった数年で俺は抜かれてしまったのか、と。

「それで柔道大会優勝ってやばくないですか!?」

「今年も出るんですか?」

影山と千葉が興奮したように質問するのを横で聞き、自分の小ささを突きつけられているようだ。居心地が悪くなって神野さんを見ると、会話には参加していないが話はしっかりと聞いているようで、変わらない表情で酒を呷り、俺と目が合うとにっこりと笑って首を傾げた。

結局、俺だけが小さい事を余計に突きつけられただけ。

「いえ、大会には.....勝ち進めば姫崎さんに見てもらえるかもしれない、と思って出ただけですので」

お会いできた今、もう大会に出るつもりはありません。と続ける佐原にそれぞれ違った反応を示した。

神野さんはへぇ、と少し驚いたように声を漏らし、
千葉は笑を堪えるようにくくっ、と喉を鳴らし、
影山はわーお、と言って頬を染めている。
当然俺はドン引きだ。

いくら酔っているからといって、よく恥ずかしげもなくそんなことを言えたもんだ。しかもストーカーの線が濃厚になってきてないか?

未だに俺の話を止めない佐原を遮るように、机をバン!と少し強めに叩いて立ち上がった。

「帰ります」

「えー、もう少しいいじゃないですかー」

ここからが面白いのに、などと影山がほざきながら、退く気配はない。もう十分義理は果たしただろう。これ以上は聞きたくない。

「影山、退かないならそれでもいいが...、覚悟はできてんだろうな?」

暗に、無理矢理にでも退かすぞ、と睨みながら言えば、顔を引き攣らせて席を立った。
自分の分のお金を適当に置いていこうとしたら、神野さんに「今日は私の奢りだから」とやんわり断られ、お言葉に甘えてお礼を言ってから店を出た。


外に出ると、店内の熱気がすーっと消えていく。昼間はまだ暑いが、夜になると秋の気配を感じられるようになった。
ようやく一人になれてほっと息をつく。早く帰って今日はもう寝よう。そう決めて歩き出したところで、背中から声がかかった。

「姫崎さん!」

またお前か。せっかく一人になれたのに。かったるいことを隠しもせず、ため息をつきながら振り向く。

「あの...、送らせてください」

「断る」

「でもっ...、噂の事もありますしあまり一人には...」

「余計なお世話だ」

だいたい、酔っ払いがなんの役に立つっていうんだ。

「お願いします。近くまででいいんで....」

「家知られたくないつってんのわかんない?」

言い過ぎた、と思ったのは佐原がざっくりと傷ついた顔をしたからだ。
イラついてかなりキツい言い方をしてしまった。本心ではあったが、もう少し言い方あるだろ。仮にも上司で、これから嫌でも顔を合わせなきゃいけないのに。

「あー.....」

「すみません!....そう、ですよね...。俺、姫崎さんに会えて浮かれちゃって....。.....失礼します」

なにかフォローを、と考えているうちに佐原は頭を下げて店内へと戻っていった。
遅れてやってくる罪悪感をため息をついて振り払う。

いや、なんで俺が罪悪感なんて感じないといけないんだ。多少言い方がキツかっただけで、事実は事実。ただ、あのしゅんとした顔をされると、犬を虐めているような心持ちになってしまう。

明日からの事を考えると、既に憂鬱な気分になる。
だが、どうしたって明日はやってくるんだ。気持ちを切り替える為にも帰路に着いた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

忠犬だったはずの後輩が、独占欲を隠さなくなった

ちとせ
BL
後輩(男前イケメン)×先輩(無自覚美人)  「俺がやめるのも、先輩にとってはどうでもいいことなんですね…」 退職する直前に爪痕を残していった元後輩ワンコは、再会後独占欲を隠さなくて… 商社で働く雨宮 叶斗(あめみや かなと)は冷たい印象を与えてしまうほど整った美貌を持つ。 そんな彼には指導係だった時からずっと付き従ってくる後輩がいた。 その後輩、村瀬 樹(むらせ いつき)はある日突然叶斗に退職することを告げた。 2年後、戻ってきた村瀬は自分の欲望を我慢することをせず… 後半甘々です。 すれ違いもありますが、結局攻めは最初から最後まで受け大好きで、受けは終始振り回されてます。

経理部の美人チーフは、イケメン新人営業に口説かれています――「凛さん、俺だけに甘くないですか?」年下の猛攻にツンデレ先輩が陥落寸前!

中岡 始
BL
社内一の“整いすぎた男”、阿波座凛(あわざりん)は経理部のチーフ。 無表情・無駄のない所作・隙のない資料―― 完璧主義で知られる凛に、誰もが一歩距離を置いている。 けれど、新卒営業の谷町光だけは違った。 イケメン・人懐こい・書類はギリギリ不備、でも笑顔は無敵。 毎日のように経費精算の修正を理由に現れる彼は、 凛にだけ距離感がおかしい――そしてやたら甘い。 「また会えて嬉しいです。…書類ミスった甲斐ありました」 戸惑う凛をよそに、光の“攻略”は着実に進行中。 けれど凛は、自分だけに見せる光の視線に、 どこか“計算”を感じ始めていて……? 狙って懐くイケメン新人営業×こじらせツンデレ美人経理チーフ 業務上のやりとりから始まる、じわじわ甘くてときどき切ない“再計算不能”なオフィスラブ!

ヤンキーDKの献身

ナムラケイ
BL
スパダリ高校生×こじらせ公務員のBLです。 ケンカ上等、金髪ヤンキー高校生の三沢空乃は、築51年のオンボロアパートで一人暮らしを始めることに。隣人の近間行人は、お堅い公務員かと思いきや、夜な夜な違う男と寝ているビッチ系ネコで…。 性描写があるものには、タイトルに★をつけています。 行人の兄が主人公の「戦闘機乗りの劣情」(完結済み)も掲載しています。

女子にモテる極上のイケメンな幼馴染(男)は、ずっと俺に片思いしてたらしいです。

山法師
BL
 南野奏夜(みなみの そうや)、総合大学の一年生。彼には同じ大学に通う同い年の幼馴染がいる。橘圭介(たちばな けいすけ)というイケメンの権化のような幼馴染は、イケメンの権化ゆえに女子にモテ、いつも彼女がいる……が、なぜか彼女と長続きしない男だった。  彼女ができて、付き合って、数ヶ月しないで彼女と別れて泣く圭介を、奏夜が慰める。そして、モテる幼馴染である圭介なので、彼にはまた彼女ができる。  そんな日々の中で、今日もまた「別れた」と連絡を寄越してきた圭介に会いに行くと、こう言われた。 「そーちゃん、キスさせて」  その日を境に、奏夜と圭介の関係は変化していく。

恋人と別れるために田舎に移住体験に行ったら元二股相手と再会しました

ゆまは なお
BL
東京生まれ東京育ちの富和灯里(ふわとうり)は、6年付き合った恋人と別れるために田舎への移住を決意する。ところが移住体験に行ってみれば、そこには4年前に別れた二股相手、松岡一颯(まつおかかずさ)がいた。驚いて移住は取りやめようと思った灯里だが、恋人とは別れてくれず勢いで移住を決意してしてしまう。移住はしたが、松岡とは関係を疎遠にしておこうとする灯里の意思に反して、トラブルが次々起こり、松岡とは距離が縮まっていく……。

宵にまぎれて兎は回る

宇土為名
BL
高校3年の春、同級生の名取に告白した冬だったが名取にはあっさりと冗談だったことにされてしまう。それを否定することもなく卒業し手以来、冬は親友だった名取とは距離を置こうと一度も連絡を取らなかった。そして8年後、勤めている会社の取引先で転勤してきた名取と8年ぶりに再会を果たす。再会してすぐ名取は自身の結婚式に出席してくれと冬に頼んできた。はじめは断るつもりだった冬だが、名取の願いには弱く結局引き受けてしまう。そして式当日、幸せに溢れた雰囲気に疲れてしまった冬は式場の中庭で避難するように休憩した。いまだに思いを断ち切れていない自分の情けなさを反省していると、そこで別の式に出席している男と出会い…

【オメガバース】替えのパンツは3日分です

久乃り
BL
オメガバースに独自の設定があります。 専門知識皆無の作者が何となくそれっぽい感じで書いているだけなので、マジレスはご遠慮ください。 タグに不足があるかもしれません。何かいいタグありましたらご連絡下さい。 杉山貴文はベータの両親の間に生まれたごく普通のベータ男子。ひとつ上の姉がいる29歳、彼女なし。 とある休日、何故か姉と一緒に新しい下着を買いに出かけたら、車から降りてきたかなりセレブな男と危うくぶつかりそうになる。 ぶつかりはしなかったものの、何故かその後貴文が目覚めると見知らぬ天井の部屋に寝ていた。しかも1週間も経過していたのだ。 何がどうしてどうなった? 訳の分からない貴文を、セレブなアルファが口説いてくる。 「いや、俺は通りすがりのベータです」 逃げるベータを追いかけるアルファのお話です。

ただの雑兵が、年上武士に溺愛された結果。

みどりのおおかみ
BL
「強情だな」 忠頼はぽつりと呟く。 「ならば、体に証を残す。どうしても嫌なら、自分の力で、逃げてみろ」  滅茶苦茶なことを言われているはずなのに、俺はぼんやりした頭で、全然別のことを思っていた。 ――俺は、この声が、嫌いじゃねえ。 *******  雑兵の弥次郎は、なぜか急に、有力武士である、忠頼の寝所に呼ばれる。嫌々寝所に行く弥次郎だったが、なぜか忠頼は弥次郎を抱こうとはしなくて――。  やんちゃ系雑兵・弥次郎17歳と、不愛想&無口だがハイスぺ武士の忠頼28歳。  身分差を越えて、二人は惹かれ合う。  けれど二人は、どうしても避けられない、戦乱の濁流の中に、追い込まれていく。 ※南北朝時代の話をベースにした、和風世界が舞台です。 ※pixivに、作品のキャライラストを置いています。宜しければそちらもご覧ください。 https://www.pixiv.net/users/4499660 【キャラクター紹介】 ●弥次郎  「戦場では武士も雑兵も、命の価値は皆平等なんじゃ、なかったのかよ? なんで命令一つで、寝所に連れてこられなきゃならねえんだ! 他人に思うようにされるくらいなら、死ぬほうがましだ!」 ・十八歳。 ・忠頼と共に、南波軍の雑兵として、既存権力に反旗を翻す。 ・吊り目。髪も目も焦げ茶に近い。目鼻立ちははっきりしている。 ・細身だが、すばしこい。槍を武器にしている。 ・はねっかえりだが、本質は割と素直。 ●忠頼  忠頼は、俺の耳元に、そっと唇を寄せる。 「お前がいなくなったら、どこまででも、捜しに行く」  地獄へでもな、と囁く声に、俺の全身が、ぞくりと震えた。 ・二十八歳。 ・父や祖父の代から、南波とは村ぐるみで深いかかわりがあったため、南波とともに戦うことを承諾。 ・弓の名手。才能より、弛まぬ鍛錬によるところが大きい。 ・感情の起伏が少なく、あまり笑わない。 ・派手な顔立ちではないが、端正な配置の塩顔。 ●南波 ・弥次郎たちの頭。帝を戴き、帝を排除しようとする武士を退けさせ、帝の地位と安全を守ることを目指す。策士で、かつ人格者。 ●源太 ・医療兵として南波軍に従軍。弥次郎が、一番信頼する友。 ●五郎兵衛 ・雑兵。弥次郎の仲間。体が大きく、力も強い。 ●孝太郎 ・雑兵。弥次郎の仲間。頭がいい。 ●庄吉 ・雑兵。弥次郎の仲間。色白で、小さい。物腰が柔らかい。

処理中です...