年下上司の愛が重すぎる!

文字の大きさ
54 / 60

50話

しおりを挟む






「んっ...!?」

慌ただしく家に入るなり唇を塞がれた。
あまりにも唐突な出来事に、塞いでいるのが佐原の唇で、それがキスだと気づくのに一拍遅れた。

「な、んッ!ふ、んんっ....、は、ぁ...んっ....」

なにを、と言おうとして開いた口にぬるりとしたものが入り込み、口内を縦横無尽に動き回る。
てっきり怒られると思っていたのに、深くなった口づけに脳が混乱していた。
それともこれは仕返しのつもりだろうか。

どうしていいかわからずに逃げる舌を器用に絡め取られるたびに、身体がびくんと跳ねてしまう。
もう触れてないところなどないのではないかと思うほど長く口内に居座っているのに、止まってくれる気配がない。

「ん、ぁ...はっ、ま、んんっ....はぁ、んっ...」

玄関の扉を背に、後頭部も強く押さえられていて逃げ場がない。唇が離れた時に紡ごうとした言葉も、次の瞬間には佐原の口へと飲み込まれていく。
苦しい、ふわふわする、あったかい、熱い。色々なものが混ざりあってわけがわからなくなってきた。
どちらのものかわからない唾液が口の端から垂れても、拭う余裕がない。

永遠に続くかと思われたキスは、俺の脚から力が抜けたことで終わりを迎えた。
かくん、と膝から崩れ落ちそうになったところを支えてくれたので倒れることはなかったが、ようやく口が離れたのにすぐには喋れなかった。

「姫崎さんっ?大丈夫ですか?」

「はぁ...はぁ...」

くそ、涼しい顔しやがって。俺だけいっぱいいっぱいみたいじゃないか。
睨むために顔を上げると、佐原の顔は見たことのあるしゅんとした表情になっていた。
.....顔変わりすぎじゃないか?さっきまでの怖い顔はどうした。

「すみません、やりすぎましたか...?でも、俺ずっと我慢してて....」

「はぁ.....はぁ.....」

未だ肩で息をしている俺をおろおろと見下ろす姿は、先程とはまるで別人のようだ。
いったいなにがしたいんだ、こいつは。
振り回されているようでなんだか腹が立つ。自分のことを棚に上げているのはわかっていたが、むかつくものはむかつくのだ。仕方ない。

「えと、姫崎さん、キスの時は鼻で息するんですよ?」

「うるせえ!んなことわかってる!はぁ...」

さらにそんなことまで言われ、羞恥と苛立ちがないまぜになる。
わかってはいるが、それが実践できるかどうかは別の話だ。

「つーかお前は怒ってたんじゃないのかよ!」

「え?怒ってなんてないですよ」

「嘘つけ!怖い顔してたじゃねーか!」

「あ、あれは我慢してて...」

「我慢?」

「姫崎さんの顔見たら、.....ところ構わず....その、キス、しちゃいそうで....。抑えてたんです」

「はぁ?」

なんだそれ、とドン引いていると、佐原はむっとした表情をした。

「元はと言えば姫崎さんの所為ですからね」

「なんで俺の」

「あの時、姫崎さんがキスして逃げるから」

「う....」

確かにあれは俺が悪い。自覚があるだけに言葉に詰まった。

「追いかけたくても、できなくて。早く明日になれと思って寝ても夢にまででてくるし.....、もう限界で....」

切羽詰まったような顔に、声に、なんだかものすごく悪いことをした気分になってくる。いや、実際に悪いことはしたのだが、そんなに心労(?)をかけているとは思わなかった。

つか、そんなんで本当に体調は良くなったのか?声は治っているようだが、心なしか顔が赤い気がする。
こいつなら無理しかねん、と額に伸ばすと、その手をとられた。

「姫崎さん、答えてください。あの時の言葉と、キスの意味」

「っ、」

真っ直ぐに見据えられた瞳は、今まで一番熱を帯びている。気を抜いたら飲み込まれてしまいそうなほどに。
掴まれている手は、強く掴まれているわけでもないのに振りほどけなかった。

「....わ、わかってる、んだろ......」

声が震えないようにするのが精一杯で、かなり弱々しいものになってしまった。
最悪だ。この程度でびびってるなんて気づかれたくないのに。

「姫崎さんの口から、ちゃんと、聞きたいんです」

「なっ......」

勘弁してくれ。こっちはまだなんの準備もできてないんだ。そんな顔で、見つめないでくれ。
交わしている視線が、掴まれている手が、こんなにも熱く感じるなんて。俺はどこかおかしいのかもしれない。

「キス、嫌でしたか...?」

「違う!」

咄嗟に力強く否定してしまった。
これじゃあ嬉しいと言っているようなものじゃないか。
俺の答えにふわりと笑う佐原を直視できなくて下を向くと、顎を掴まれて強制的に上を向かされた。とは言えこれも、振りほどこうと思えばできる程の力だ。

「姫崎さん....、早く...、早く言ってください...。俺もう我慢できません....」

そう言いながら、硬いものを押し付けてくる。

「ぁ、ちょ、ちょっと待て...!」

「もう十分待ちました」

「お、俺にとってはまだ十分じゃ....!」

「..........なら、あとどのくらい待てばいいですか?」

かなり不服そうではあるが、ようやく耳を傾けてくれた。ただ、股間は押し付けられたままなので手放して喜べる状態ではない。
ここは慎重に交渉しなくては。佐原が長いと感じてしまえば、せっかく待ってくれそうなのに撤回されかねない。

正直一週間はほしかったが、きっと..いや、絶対に却下されるだろう。それなら三日...二日...

「い、一日だけでいい....」

俺としてはかなり譲歩しての発言だったのだが、思いっきり"は?"という顔をされた。実際声に出していないだけで、心の中では言っていたんだと思う。

「.....そんなに待てるわけないでしょう。せいぜい一時間が限度です」

「いっ...!?」

一時間!?いくらなんでも短すぎじゃ...!

「も、もう一声....」

「三十分」

「短くなってんじゃねえか!」

「だから、限界だって言ってるじゃないですか。ここも、もう痛いんですよ...」

確かに、押し付けられているそれはかなり硬い。

「ちょ、あんま押し付けんな....!」

「姫崎さんが早く言ってくれないからじゃないですか」

「そっ、だけど...!待ってくれるっつっただろ...!」

「だから待ってるじゃないですか」

「っ、これは待ってるって言わねえんだよ...!」

押し付けてくるモノとは別に、唇以外の耳や頬に何度もキスを落としていく。

「姫崎さんのわがまま聞いたんですから、俺のわがままだって聞いてくれてもいいでしょう?」

「わっ...!?」

わがまま!?これわがままだったのか!?
そう言われてしまうと、駄々を捏ねているようにも見えてきて愕然とする。これはもう準備ができていないなどと言っている場合ではない。
これ以上情けない姿を見せてたまるか、と腹を括った。

逞しい胸板を優しく押し返せば、佐原も察したのか少しだけ体を離した。
目が合っただけなのに、ドクン、と心臓が大きく跳ねる。
小さく息を吸って、シンプルに告げた。

「好きだ」

そう伝えた瞬間、細められた佐原の目に透明の膜が張った。そして、それはすぐに溢れ、頬を濡らしていく。

「な、泣くなよ....」

まさか泣くとは思わず、こんなこと初めてでどうしたらいいかわからない。
それでも、ただ静かにぽろぽろと涙を流すだけの佐原に代わって拭ってやった。

「っ、おれも、俺も好きですっ...、姫崎さんっ...」

涙を拭ってやっている手に、俺よりも大きい佐原の手が重なる。
いつもだったら自分よりも大きいことに腹が立っていただろうが、この時ばかりは心臓がきゅうっと締め付けられたように苦しくなった。

こういうのを、愛しい、と言うんだろうか。

こんな感情、抱くとも、抱ける日がくるとも思っていなかった。

「知ってる」

少しだけ強がって、自分から唇を寄せた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

【完結】※セーブポイントに入って一汁三菜の夕飯を頂いた勇者くんは体力が全回復します。

きのこいもむし
BL
ある日突然セーブポイントになってしまった自宅のクローゼットからダンジョン攻略中の勇者くんが出てきたので、一汁三菜の夕飯を作って一緒に食べようねみたいなお料理BLです。 自炊に目覚めた独身フリーターのアラサー男子(27)が、セーブポイントの中に入ると体力が全回復するタイプの勇者くん(19)を餌付けしてそれを肴に旨い酒を飲むだけの逆異世界転移もの。 食いしん坊わんこのローグライク系勇者×料理好きのセーブポイント系平凡受けの超ほんわかした感じの話です。

執着

紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。

【完結】兄さん、✕✕✕✕✕✕✕✕

亜依流.@.@
BL
「兄さん、会いたかった」 夏樹にとって、義弟の蓮は不気味だった。 6年間の空白を経て再開する2人。突如始まった同棲性活と共に、夏樹の「いつも通り」は狂い始め·····。 過去の回想と現在を行き来します。

冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される

マンスーン
BL
​王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。 泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。

死に戻り騎士は、今こそ駆け落ち王子を護ります!

時雨
BL
「駆け落ちの供をしてほしい」 すべては真面目な王子エリアスの、この一言から始まった。 王子に”国を捨てても一緒になりたい人がいる”と打ち明けられた、護衛騎士ランベルト。 発表されたばかりの公爵家令嬢との婚約はなんだったのか!?混乱する騎士の気持ちなど関係ない。 国境へ向かう二人を追う影……騎士ランベルトは追手の剣に倒れた。 後悔と共に途切れた騎士の意識は、死亡した時から三年も前の騎士団の寮で目覚める。 ――二人に追手を放った犯人は、一体誰だったのか? 容疑者が浮かんでは消える。そもそも犯人が三年先まで何もしてこない保証はない。 怪しいのは、王位を争う第一王子?裏切られた公爵令嬢?…正体不明の駆け落ち相手? 今度こそ王子エリアスを護るため、過去の記憶よりも積極的に王子に関わるランベルト。 急に距離を縮める騎士を、はじめは警戒するエリアス。ランベルトの昔と変わらぬ態度に、徐々にその警戒も解けていって…? 過去にない行動で変わっていく事象。動き出す影。 ランベルトは今度こそエリアスを護りきれるのか!? 負けず嫌いで頑固で堅実、第二王子(年下) × 面倒見の良い、気の長い一途騎士(年上)のお話です。 ------------------------------------------------------------------- 主人公は頑な、王子も頑固なので、ゆるい気持ちで見守っていただけると幸いです。

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします

  *  ゆるゆ
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!? しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが、びっくりして憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です! めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので! ノィユとヴィルの動画を作ってみました!(笑)  インスタ @yuruyu0   Youtube @BL小説動画 です!  プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったらお話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです! ヴィル×ノィユのお話です。 本編完結しました! 『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく舞踏会編、完結しました! 時々おまけのお話を更新するかもです。 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

処理中です...