年下上司の愛が重すぎる!

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49話

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翌日、佐原は当分休みのため、俺は安心して仕事をしていた。

逃げるように病院を立ち去った後、佐原の家から適当に着替えを見繕って看護師さんに渡したため、会わずに済んでいる。

冷静になってみると、告白の代わりにキスだなんてどう考えてもおかしい。
付き合っているならまだしも、まだ付き合ってもいないのに同意なくしたのはよくなかった。——いや、まだってなんだ。そもそもなんでキスなんてしたんだ!俺は!

きっと身体が先行していた所為で、貞操観念がぶっ壊れていたんだろう。
言葉で伝えるよりも、行動で伝えた方が言い方は悪いが楽だと思ってしまったのだ。どうかしている。

でもまあ、あの場から逃げることもできたし、猶予もできた。あとは佐原が復帰するまでに覚悟を決めればいい。

そんなことを考えながら朝のミーティングを終え、パトロールにでも行こうかと腰を上げた時だった。


「姫崎さん」

効き馴染みのある声が、俺の名前を読んだ。

「え?」

だが、その声の持ち主は今、ここにいるはずがない。それに、昨日はもっと掠れていたはずだ。
まさかとは思いつつも聞き間違えるはずもなく、声のした方へ顔を向ければ、やはりそこにいたのは佐原だった。
なぜか、鬼のような形相をしている。

「あれ、警部って退院午後じゃなかったですっけ?」

近くにいた影山が話しかけると、顔は一瞬でいつも通りになっていた。見間違えたのかと思うほどの早技だ。

「一晩寝たら熱も下がったので早めてもらいました」

回復早すぎないか!?
顔はまだ痛々しいが、声はほとんど元通りだ。

「わざわざ報告に?」

「いえ。ちょっと姫崎さんに用が....」

そう言って向き直った顔は、やはり鬼のような形相だった。心なしか、目の焦点も合ってないような気がする。

「ひっ...!」

思わず引き攣ったような悲鳴が出てしまい、後ずさった。
な、なに!?なんで怒ってんだよ!?勝手にキスしたから!?それとも逃げたから!?つかなんで非番なのに来てんだよ!

佐原が近づいて来る分、俺は後ろに下がっているため距離は全然縮まらない。

「.......姫崎さん?なんで逃げるんです?」

「お、お前の顔が怖いからだろ...!誰でも逃げるわっ!」

「えー、そんな怖い顔してました?」

影山が覗き込むと、佐原はにっこりと微笑んだ。そして、また向き直ると怖い顔に逆戻りしている。

「...警部が怒るなんて....。姫崎なんかやったのか?」

千葉の位置からは怒っている佐原の顔が見えているので、信じられないといったような面持ちだ。

....やったといえばやった。が、そんなに怒ることか?勝手にしたことは悪いと思っている。それでも、俺がされてきたことを思えばかわいいものじゃないか?

本当のことを言うわけにもいかずに黙っていると、肯定だと受け取ったようだ。千葉はため息をつき、影山は「悪いことしたら謝らないとダメですよー」なんて言っている。余計なお世話だ。

「神野さん、姫崎さんお借りしてもいいですか?」

そうこうしている内に、佐原はなぜか神野さんに確認をとりだした。

「ええ。そもそも姫崎くんも休んでもらうつもりでしたので、好きにしていただいてかまいませんよ」

「神野さん!?」

こんな怖い顔をしている奴にあっさりと売るなんて!と非難すれば、いつものようににっこりと笑顔で返される。
いつもそうだ。いつもこの圧のある笑顔で何も言えなくなってしまう。

この時も謎の圧に気圧されていると、いつの間にか近づいてきていた佐原に担ぎ上げられた。

「うおっ!」

俵のように軽々と肩に担がれ、屈辱と羞恥が同時に襲ってくる。

「お、おろせっ...!謝る、からっ...!」

「別に謝ってほしいと思ってません」

「は!?」

ならなんで怒ってんだよ!
佐原の進行方向とは逆向きに担がれているため、顔が見えない。
俺から見えるのは、「姫崎さんって軽くはないですよね?」「見た目ほどな」などと呑気に会話している影山と千葉、それから笑顔で手を振っている神野さんだけだ。

「ちょっ!下せって...!」

抱えたまま歩きだしてしまい、背中をバシバシと叩いて抗議するが止まってくれない。それどころか返事もしない。

「おい!見てないで助けろ!」

我関せず、という体で見ているだけの二人に助けを求めるが、神野さんと同様に微笑みながら手を振られてしまった。
う、裏切り者め!!

三人の姿がどんどん遠ざかっていく。
まずい。どこに向かっているかわからないが、このままでは人目についてしまう。
この課はかなり奥まった場所にあるため、ほとんど人は通らない。とはいえゼロではないし、もっと進めばもちろん人は大勢いる。

「佐原っ、頼むから!」

「..........」

ようやく噂も落ち着いてきたというのに、またあの状況に逆戻りするのはごめんだ。

「おいって!返事くらいしろよ!」

「..........逃げるでしょう?」

ようやく反応があったと思ったら昨日と全く同じことを言った。ただ、あの時は弱っていて声が掠れていたのもあったが、不安げだったのに対し、今のは怒気を含んでいる。

「逃げない!約束するから!」

「..........」

どんだけ根に持ってんだよ!

「なあ、まじで逃げないから...。また変な噂立てられたくないんだよ。頼む」

真摯に頼めば、ようやく足を止めてくれた。
下ろしてくれるまでに少し間があったものの、足が地面についたことでほっと息を吐く。
だが、まだ完全に信用したわけではないようで、右手をがっちりと掴まれて歩みを再開させた。

はたから見たら、この光景もまあまあ異様だろう。
人でも殺しそうな顔を晒しながら、男の手を引いて脇目も振らずに人混みの中を足早に通り抜けているのだから。警察の人間だとわかっていなければ職質もんだ。

周りでは佐原の異様さに気づいてぎょっとする人もいれば、気づかずに通り過ぎてしまう人も意外と多い。
その後ろで引きずられている俺のことなんて誰も見ていなかったが、極力顔を伏せて後に続いた。

それから外に出てタクシーに乗るまでずっと無言だ。正直怖い。
運転手に告げた場所で佐原の家に向かっていることはわかったが、到着するまでずっと無言で顔も背けているため表情がわからない。

運転手もさぞかし居心地が悪いだろう。元々喋らないタイプなのか、気を遣っているのか、逃げ場などないのにも関わらず、未だ痛いくらい強く握られている手を見ても何も言ってこないのはありがたかった。

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