魔力のいらない世界であなたと

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1章

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「チッ」

寒空のなか、いつも入っている場所にないタバコを探し、全てのポケットを叩くがやはり入っていない。

何処かで無くしたか。

大方先程まで飲んでいたバーに忘れてきたのだろう。

思えば今日は朝からついていなかった。

携帯のアラームがいつの間にかサイレントになっており、寝坊して会社には遅れなかったものの始業時間ぎりぎり。

しかも通勤ラッシュに巻き込まれるのが嫌で早く出ているのに、今日はもみくちゃになるほどの満員電車で人酔いした。

昼に買った弁当に箸はついていないし、良い事などひとつもない。

おまけに先程まで飲んでいた行きつけのゲイバーでは好みの子が居なくてこの鬱憤を発散することさえできない。

金曜だってんのにしけてるよなぁー。

いつもであればすぐにお持ち帰りできるのだが今日は深夜の2時まで粘ったのに収穫はゼロ。

ちなみに俺はバイだ。
ただ、最近は男ばかり相手にしている。
男の方が割り切ってる奴が多い分、後腐れがなくて楽だから。

白い煙、ではなくただの息を吐きながら近場のコンビニへと向かった。

金曜日だからだろうか、深夜2時を過ぎているにも関わらずコンビニには数人の客がいる。

レジに直行し、いつも吸っている同じ銘柄のタバコと使い捨てのライターを買ってさっさと店を出た。

途中の公園に寄り、ベンチに座って先程買ったタバコに火をつける。

誰も居ない公園はかなり静かで車の音も全くしない。
自分の煙を吐く音がやけに大きく感じた。

何も考えずにただ吸って吐いてを繰り返していると、公園の隅に何かが見えた。

薄暗いうえに遠いので何かは全くわからない。
むしろよく気づいたなと自分でも思う。

なんだありゃ、ゴミか?

普段なら絶対にそのまま無視して帰るのにこの日はなぜか気になった。

興味本位でタバコを咥えながら近づくと、ゴミかと思っていたものはどうやら人だった。

それもかなりの美人だ。
美人と言っても女ではなく男だが。
薄暗いなかでも顔が整っているのがわかるほどだ。

口に咥えていたタバコがぽろりと地面に落ちた。
慌てて拾い、携帯用の灰皿に入れる。

おいおい、死んでんじゃねえだろうな.....。

息があるか確かめるために鼻の前に手をかざすと一定の間隔で風が当たりほっとした。

酒の匂いもしないし酔って寝ているわけでもなさそうだ。
ざっと見たところ外傷などもない。

あと考えられるのは空腹で動けなくなって寝ちゃったとかか?

「おーい、お兄さん。こんなとこで寝てたら死ぬぞ」

頬をぺちぺちと叩いてみるが眉毛をぴくりと動かしただけで起きる気配はない。

どうしたものか。

ここは警察だな。
そう思って携帯を出すがふと男の服装に目がいった。

あまり見慣れない服装をしている。
携帯のライトをつけてまじまじと見ればやはり奇妙な格好だ。

胸当てや小手などを身につけ、すらりと伸びた長い脚にはぴたりとしたズボン。
膝下まであるブーツを履いてマントのようなものまで羽織っている。

普段着とはとても思えないような格好で生地も薄い。
1月も終わろうとしているこの時期にコートを着ていないのも不自然だった。

もしかして、自分が知らないだけで有名な人物なのだろうか。
この顔や体型ならモデルと言われても驚かないし、撮影だったのならこの格好も頷ける。

あとは俳優とかコスプレする人とか。
とにかく、有名人かもしれないと思ったら通報するのは躊躇われた。

もし通報してスキャンダルのようなことになればこの人の人生は終わってしまうかもしれない。

.....しかたねぇ、運ぶか。

目が覚めてから警察なり病院なり行っても遅くはないだろう。

重っ。

寝ている青年は小柄なわけではないが大柄でもない。
対して自分はタッパも力もある方なので楽に担げるかと思ったのだが予想に反してかなりの重量だった。

なんとか背中に乗せるが早くも後悔した。
ここから家まで近いとはいえ、こいつを抱えたまま戻るのはかなりの重労働だ。

よっこいしょ、と年寄りくさい掛け声を発しながら立ち上がりなんとか帰路についた。
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