BLゲームのモブに転生したので壁になろうと思います

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4話

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「いよいよか。体には気をつけるんだよ」
「はい」

「寂しくなりますね....。くれぐれも、無理はしないように....」
「はい。お母様、泣かないでください。兄さんも居ますし私は大丈夫ですから」

いよいよ王都へ向かって旅立つ日。ハグをして両親に別れを告げると、お母様が今生の別れかのように泣き出してしまった。

「さあ、新たな門出だ。笑顔で見送ろう」

お父様がお母様の肩を抱いてなだめると、ようやく泣き止んでくれたので馬車へと乗り込んだ。

「いってきます!」

姿が見えなくなるまで手を振り続けた。


「兄さん、一緒に来てくれてありがとうございます」

しっかりと座り直してから隣に座る兄さんにお礼を言った。
というのも新入生は入学前のテストやら入寮の準備やらで1週間ほど早く行かなくてはならないのだ。

兄さんはあと1週間家でゆっくりできたのに俺に合わせて一緒に王都へと向かってくれている。

「私もフィルと一緒に行きたかったからね」

正直とても心強い。
なんせ遠くへ行くのはこれが初めてだ。
泊まる場所などももう決められていて馬車に乗っていればいいだけなのだがそれでも1人だと心細い。

他愛のない会話をしながら馬車から見る景色を飽きもせず眺めた。


◇◇◇◇


着いたー!

3日かけ、ようやく学校へ辿り着いた。
新入生はこちらです、と言われ兄さんとは別れることになってしまったがまずは寮に案内された。

1人部屋で広さは前世で言う12畳くらいかな?
自室よりは狭いけど思ったより広い。

他にもシャワールームとトイレが設備されている。
この国では湯船に浸かる習慣がないのが少し残念だ。

少ない荷物を片付けてからふと思い立って校舎裏へ行ってみた。

どこか隠れる場所があれば出会いイベントを盗み見できるかなと思ったからである。

立派な校舎の裏に入ると人気が全くなく、大きな木も何本か植っている。

え、どの木?

しかも隠れられそうな場所もない。
隠れられたとしても木の上くらいだろうか。

でもどの木の下で起こるかわからないイベントだ。
試しに手近な木に登ってみた。

ジャンプと同時に風魔法でふわりと体を浮かせる。
飛ぶことはできないが補助的な役割としてはとても使える魔法だ。

上の方まで登ってみたものの、横からは葉で隠れるが下からはあまり隠れられていない気がする。

これじゃあ盗み見るのは無理かなぁ....。

万が一見つかったら事である。
木の上からの景色を少し堪能してから飛び降りて再び風魔法で着地した。

「そこでなにをしている」

着地と同時に背後から声をかけられた。

どくん

その声に、心臓が跳ねる。
うそ、まさか.....。
この声は.....。
一言だけだったけど大好きな声を聞き間違えるはずもない。

「おい、聞こえてないのか」

驚きすぎて振り向けずにいたら再度背後から声が響く。
ちょ、ちょっと待って!イケボすぎて鳥肌立ってきた....!
しかもなんか嬉しすぎて泣きそうだし!

「し、失礼いたしました。ここへは散歩に来ただけにございます」

思い切って振り向くとゲームそのままの姿でベルトレッドが立っていた。

少し長めの黒髪にガラス玉のようなブルーの瞳。
整った顔立ち、すらりとした背に鍛えられた体。

やばい!めちゃくちゃかっこいいんだけど!

「こんなところを散歩だと?.....おい、なんで泣いている」

「え?」

えっ、嘘、俺泣いてんの?
頬を触ると確かに濡れていた。
やば、どうしよう。あなたの全てがかっこよくて感動して泣きましたとか言ったら絶対変人扱いされる....!

「こ、これは、目に、ゴミが入りまして....」

苦しい言い訳なのは分かってます!
でもこれしか思いつかなかったんだもん!
案の定、ベルトレッド様は納得していない表情だ。

「お初にお目にかかります。マクファイン子爵家次男、フィルローゼと申します。以後、お見知り置きを」

話を変えようと挨拶をしたのに妙に納得されてしまった。

「ああ、あのマクファイン家か」

マクファイン家?
うちってそんな有名だったの?
それとも別の人と勘違いしてるとか?

「.....ベルトレッドだ」
「存じております」

「........」
「........」

え....。なにこの沈黙。他になんか言わなきゃいけないことでもあるとか!?
気まずっ。

「.....それでは私はこれで失礼いたします....」

沈黙に耐えきれず腰を折ってくるりと背を向けた。

「待て」

えー!?俺なんかやらかした!?
まさか呼び止められるとは思わず内心ビクビクしながら向き直る。

「なんでしょうか」
「俺がここに居たことは他言無用で頼む」

ああ、なんだそんなこと?
「もちろんでございます」
俺もなんでこんなとこに居たのか聞かれても困るしね。

ほっとしたのもあって顔が綻んだ。
もう一度失礼いたします、と腰を折って今度こそその場を後にした。

ふー、緊張したぁー。
間近で声が聞けるのはいいんだけどそれが自分に向けられてると思うと緊張してイケボを堪能できない。

やっぱり誰かと話してるところを聞くのが一番だなぁ。

録音するのを忘れたことに気づいたのは寮に着く直前だった。
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