BLゲームのモブに転生したので壁になろうと思います

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10話

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取り敢えず誰も居ない事を確認してから木に登った。

「ふぅ....」
早まる心臓をなんとか抑えながら風に魔力を少し込める。

そうすることで誰かが通ると魔力が揺らぎ、感知できるのだ。
自分で風を発生させているわけではないので魔力も少量ですむ。

すぐに反応があった。
囲まれていたからすぐには来ないだろうと思っていたのにもう来たのだろうか?

誰が来るかまではわからないので木の上から窺っていたがやはりベルトレッド様だ。

木から降りて腰を折る。

「ベルトレッド様、お待ちしておりました」
「ああ、.....よほど木の上が好きなのだな」
「いえ....、そういうわけではないのですが....」

会うたびに木から降りてきたらそう思うのも無理はないか。

「ベルトレッド様、お見せする前にひとつよろしいでしょうか?」
「なんだ」

「もし、この場に他の方がいらっしゃいましたら私は木の上に隠れますので居ないものとして扱ってほしいのです」
「なぜだ」

「どうか、お願いできないでしょうか」
「理由は言えないということか」
返事の代わりに腰を折る。

「......わかった」
「ありがとうございます!」
よかった!これで俺が鉢合わせる心配はない!

ほっとしたのも束の間、なぜかベルトレッド様が顔を近づけてきた。
思わず一歩後ずさるが木に背中がぶつかり、これ以上さがれない。

近い近い近い近い!
なに!?急にどうしたの!?

「あのっ、ベルトレッド様!?」

俺の声は無視して顎に指を当て、上を向かされる。

ちょっ....!あなたご自分の破壊力知っててやってます!?
イケメンの顎クイとか心臓に悪すぎる....!

それでもガラス玉のようなブルーの瞳から目が離せない。
きっと顔は真っ赤になっているだろう。

「....黒かと思っていたが、ネイビーだったのか」

そう言って顎から指を離した。

目の色確認しただけかいっ。
紛らわしいっ。

早まる鼓動を落ち着かせるために深呼吸した時、魔力を含ませた風に反応があった。

「ベルトレッド様、私は木の上に居ますのでお願いいたします」
「は?おい....」

いつものように木に登り、下を窺う。

少しして顔を見せたのはアレンではなかった。
多分ライバルの人だろう。

でもこれでやっと声に集中できる!
録音機である左手首のブレスレットに触れる。
いつでも録音できるように身につけるタイプにしてもらったのだ。

「ベルトレッド様、このような所におられたのですね」
「何用だ」

笑顔で近づいてきた人がその声色にびくりと固まる。
ものすごく低い、いや、もともと低いのだがさらに低く怒気を含んでいるようにも聞こえる。

えっ、こっわ。
なんで?怒ってる?

「....教室から出て行かれる姿をお見かけしましたので....」
「つまり、後をつけていたということか?」
「!?も、申し訳ございません」

「ニ度目はないと思え。ここへも二度と来るな」
「はっ、はい!申し訳ございませんでしたっ」

えー.....。
なにこの出会いイベント。
怖すぎるんだけど。

出会いイベントってもっとトキメクようなやつじゃないの?
逆の意味でドキドキするんですけど。

「おい、降りてこい」
あ、よかった。元のイケボに戻ってる。
あんな声自分に向けられたら怖くて泣く自信あるわ。

風魔法を使ってふわりと着地した。

「なぜ人が来ることがわかった?」
「自然の風に魔力を込めるんです。そうすると動きを感知できるので」

「そんな使い方があるのか....」
「魔法のことしか考えておりませんでしたので。先日の魔法は説明が難しいのですが....」

手のひらに小さな竜巻を発生させた。
「この竜巻を小さく圧縮するんです。そうすると威力が増します」

竜巻を銃の弾くらいまで小さくする。
「回転させながら撃つとスピードが出るのでより威力が増しますよ。あとは先端を尖らせたりとか」

ゆっくり回転させ、先を尖らせたりと実際に見ればわかりやすいだろう。

「....随分発動が速いな」
「それは慣れですね」
そう言うと黙り込んでしまった。

「.....適性が他の属性ならと思ったことはあるか?」
「いえ、ありませんが....」
前世では使えなかったものを使えるだけ嬉しいと思っているので考えたこともない。

「俺はずっとそう思って生きてきた」
「え....、ですが3つも適性があるではないですか」

「そうだ。3つあるのにそれがほとんどサポート系なんて使えないだろ」
たしかに聖属性は治癒とかのサポート系だけど....。

「そうでしょうか?たしかに火や雷と比べれば威力はないかもしれませんがその分自由度が高いです。状態異常を治せるのも強みでしかないですし、光なんかは攻守ともに優秀じゃないですか!結界張れば大抵の攻撃防げますし、なんなら足場にもなりますよね!?どんな事できるか考えるだけで楽し———っと、申し訳ありません。話が逸れました。要するに、使えないなんてことはありません!」

しまった。魔法のことになるとつい喋りすぎてしまう。
気分を害したりしていないだろうか。

「ふっ」

!?
笑った!?
一瞬だったけど!笑顔の破壊力やば!

「そうだな....」
「そ、そうです!それに防御は最大の攻撃だっていう言葉もありますし!」
あれ、これは前世の世界の言葉だっけ?

ベルトレッド様は言葉の意味が分からなかったようで怪訝そうな顔をしている。

「攻撃するだけが攻撃じゃないということです。倒れない相手も厄介だと思いませんか?」
「.....そうだな。そんな考え方もあるのだな....」

そんなに悩んでいたのだろうか。
目を閉じて深いため息をついている。
そんな姿も様になるんだからイケメンはすごいな。

「フィルローゼと言ったか」
「っ、はい」

名前を呼ばれただけなのにどくん、と心臓が高鳴った。

「礼を言う」
「い、いえ。お役に立てたようでしたら嬉しいです」

なんだか直視できなくて視線をそらすと足元に影が落ちた。
顔を上げるとベルトレッド様の顔が間近にある。

「!!?」
後ずさるがまたも木に阻まれる。

「あ、あのっ、いかがなさいましたかっ?」
「それ、やめろ」

「そ、それ?」
「敬語」

え?なんて?敬語をやめろ?
いや、無理でしょ!

「そ、それは....」
「俺がいいと言っている」

近いってばー!
顔が近いってことは声も近いんだからね!?

「私は普段からこの話し方でして....」
「以前他の者と親しげに話しているのを聞いたが?」

うぐっ、聞かれてたのかっ....。
「.....分かりました。ですが、他の方が居る場所ではこれまで通り敬語でお話しさせて頂きます」
それは譲れません...!

ベルトレッド様は納得がいっていない様子でムッとしている。
なんかかわいいんですけど。

「ならベルと呼べ」
「へっ!?」

「敬称もいらん」
「そ、それは流石にできません....!」
「敬語になってる」
「....!」

「フィルローゼ」
「んっ....」

突然耳元で囁かれ変な声が出てしまった。
恥ずかしい....!
耳元でその声はやめてください....!

顔がかあっと熱くなる。

「......ベ、...ル」
なんとか名前を呼ぶとベルは唇の端を少し吊り上げた。
その顔がさらに近づく。

「んん!?」
見惚れていたら柔らかいもので唇を塞がれた。

えっ!?なに!?キスされてる!?なんで!?
パニックになっていると顎を下げられぬるりと肉厚の舌が入り込んでくる。

「んぁっ、や....んっ、....んぅ....」
肩を押すがびくともしない。
口内を動き回る舌を押し返そうとしてもその舌に絡みついてくる。

ようやく解放された時には腰が抜けてしまいベルが支えてくれた。

「な、なんで....」
「....したくなったから?」

なっ....!なにそれ!意味わかんないっ!

「その顔そそるな」
目の端にちゅっと口付けられ溜まっていた涙が溢れる。

「~~~~!!」

無理っ、これ以上はやめてー!
心臓が爆発するっ。
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