ボスルートがあるなんて聞いてない!

文字の大きさ
10 / 38

9.反則技なんて使ってない!

しおりを挟む
 あれから腰が抜けてしまった俺はヴァルクに支えられ、若干間抜けな格好のまま立てるようになるまで待ってもらった。
 立てるようになると、お互いに「じゃあ、また」と言葉を交わしてヴァルクはダンジョンに、俺は薬草採取へと戻った。次会う約束はしていない。だけど、約束をしていなくてもまたここで会えるという妙な確信があるのだ。だぶん、お互いに。
 だからそのまま別れた。


 そして翌日。昨日はブルーとあおと手分けして薬草を探したが、予想よりも手惑って遅くなってしまったので、今からロベルトに話をしに行く。
 ギルドに入るといつものように多くの視線が刺さるが、もう慣れてしまった。


「ローニャさん、おはようございます。ロベルトいます?できれば部屋も貸して欲しいんですけど」

「サクヤさん!おはようございます。ギルド長ならもう少ししたら来ると思うので2階で待たれますか?」

「そうさせてもらっていいですか?」

「はい!ご案内しますね」


 案内してくれた所は以前セロとロベルトと話した部屋だ。ローニャさんにお礼を言い、椅子に座って待つ間、暇だな、とぼんやりしていたがほどなくしてロベルトが入って来た。

「おう、お前から来るのは珍しいな。なんかあったか?」

「うん。ちょっと相談があって」

「相談?」

「そう。昨日ヴァルクに会ったんだけど」

「ヴァルク?誰だ?」

 あ、そうか。名前はまだ知らなかったよな。

「黒の悪魔って呼ばれてる———」

「おまっ!ダンジョンに行ったのか!?」

「わっ!」

 黒の悪魔と口にした途端、ものすごい形相で肩を掴まれ、あまりの勢いに椅子ごと倒れそうになった。幸い倒れはしなかったが、ロベルトは悪びれもせず「どうなんだ!?」と詰め寄ってくる。
 謝るとかないわけ!?まったくもう。

「行ってないよ。ヴァルクとは西の森で会ったの!」

「本当か?」

「本当だって」

 ようやく納得したのか、ため息をついて肩から手を離した。
 ため息つきたいのはこっちだっつーの!
 ロベルトが座ったところを見たことがなく、この時も腕を組んで壁に背中を預けた状態で続きを促す。

「で?何を話した?」


 木に登れなかったことや、落ちそうになったこと以外はだいたい話した。これまでヴァルクは自分から攻撃したことはなく、全て正当防衛であること、魔物が増えすぎるとスタンピードが起こるということを知らなかったこと、そして魔物を討伐したくれることになったのでスタンピードの心配はないことも。
 たからヴァルクは悪人じゃない、どうにかして街に入れるようにできないかとのお願いに、険しい顔で黙って聞いていたロベルトが口を開いた。


「無理だな」

 難しいかな、とは思ってたけど即答しなくても。

「....なんで」

「まず第一に信用できん。嘘をついてる可能性もあるしな」

「なっ...!ついてないよ!嘘なんて!」

「根拠は?」

「っ.......」

 根拠なんてないよっ、ないけど...嘘ついてるようには見えなかったしっ.....。

「ったく....、次会ったとしても油断するなと言ってあったろ」

「.....でもほんとに良い人なんだもん」

 納得いかない!なんで会ったこともないのにそんな敵視するのさ!
 ぶう、とむくれるとロベルトが唸った。

「ぐっ......、それは反則だろ......」

「は?」

 反則技なんて使ってませんけど?どうした急に。
 ロベルトは髪の毛をくしゃくしゃっとかき乱しながら悪態をついている。
 なんか俺わかんないうちにやっちゃったのか?

「.......とりあえず、そいつに会わせろ。話はそれからだ」

「え!」

「不満か?」

「いや!全然!」

 なんで急に意見を変えたかはわかんないけど、機嫌を損ねて撤回されたらことだ。会えるかどうかはわからないが、早速今日の午後からまたあの場所へ行くことになった。




 ◇◇◇




「本当にこんなところに来んのかぁ?」

 森の中を進みながらロベルトが気だるげに言う。

「だーかーら、来ないかもしれないって言ってるだろ?」

「いや、そうじゃなくてよ....まぁいい」

「?あ、でもロベルトいるから出てこないかも」

「あ゛?どういう意味だ?」

 前を歩いていたロベルトが低い声を出して振り向いた眉間には、なぜか皺が刻まれている。
 え、なんで怒ってんの?

「昨日は俺1人だったから奥まで行くと危険だって言いに出て来てくれたけど、今日はロベルトがいるからそういう心配はないだろ?」

 昨日は俺が奥に行くまで気配を消してたし、なんかないと出て来てくれないんじゃないかな。と思って言ったんだけど.....ちょっと、今度はなんでため息ついてんの。

「お前さぁ.....、どういうつもりで言ってんだ?それ」

「うん?どういうつもりって?」

 首を傾げると急に真面目な顔をして近づいてくる。ガラッと変わった雰囲気に気圧されて後ずさると、腕と腰を掴まれ、逆に引き寄せられた。

「ちょっ、なにっ」

 近い近い!人にパーソナルスペース広げろって言っといて自分はどうなんだよ!
 下半身はほとんどくっついており、離れようと身を捩るがびくともしない。

「俺を信用しすぎじゃないかと言っている」

 そう言いながら腕を掴んでいた手を離し、顎を掴まれ、強制的に上を向かされる。金色の瞳が静かに俺を見下ろし、ゆっくりと近づいてきた。


「....でも、俺が本当に嫌がることはしないだろ?」


 俺の一言でロベルトがぴたりと止まる。
 訓練後の罰則でも、キスをされそうになって殴り飛ばした後は一度もしてこなくなったし、そもそも俺に殴られるほど弱くはないはずだ。抵抗できるように道は残してくれている。尻を触られるのも嫌だったけどね?でも罰則ならまあ納得できるかな、って思ってたし、殴られるより断然マシだ。

「チッ........。生意気」

 大きな舌打ちとともに両頬をぐに、と引っ張られた。

「ちょ、いたい!なにすんだよっ」

「無自覚に人を誘惑する口にはお仕置きが必要だろ」

 誘惑!?してませんけど!?そんなこと!

「いっ....、そんなこと、してなっ....」

「だろうな。言ったろ、無自覚だって」

 えー.....、無自覚で誘惑って...俺がそんな天然人たらしだったらとっくに童貞卒業できてるわっ。嫌味かっ。
 うん?待てよ?顔がかっこよければ言動もかっこよく見えちゃうとか?そうだとしたらイケメンマジお得———いや、この状況はお得じゃないか。
 それでも痛かったのは最初の方だけで、今は「めちゃくちゃ柔けえな」と言いながらふにふにと優しく摘まれている。絶対遊んでるだろ。

「いい加減離せって」

 ロベルトの腕を掴みながら言った直後、空気にピリッとした緊張感が漂った。
 ......殺気ほどトゲトゲしたものではないが、敵意は感じる。それなのにあまり怖く感じないのはなんでだろう?
 ロベルトの方が早く反応し、俺を背に庇うように森の奥を見据える。

 そんなに警戒しなくても、多分ヴァルクじゃない?
 なんとなくそんな気がしてロベルトの肩越しに森の奥を見ると、姿を現したのはやはりヴァルクだ。

「ヴァルク!」

 会えた!と嬉しくなって前へ出ようとするが、ロベルトに手で制されてしまう。

「ロベルト?」

「俺の前に出るなよ」

 そう低く呟いた声が心なしか硬い。あからさまな殺気ではないからか、まだ剣の柄には触れていないが、すぐにでも抜ける体勢だ。

 そんなに警戒しなくて大丈夫、そう言おうと口を開くと、俺よりも先にヴァルクが声を発した。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

【完結】星に焦がれて

白(しろ)
BL
気付いたら八年間囲われてた話、する? わんこ執着攻め×鈍感受け 「お、前、いつから…?」 「最初からだよ。初めて見た時から俺はお前のことが好きだった」  僕、アルデバラン・スタクにはどうしても敵わない男がいた。  家柄も、センスも、才能も、全てを持って生まれてきた天才、シリウス・ルーヴだ。  僕たちは十歳の頃王立の魔法学園で出会った。  シリウスは天才だ。だけど性格は無鉄砲で無計画で大雑把でとにかく甘えた、それに加えて我儘と来た。それに比べて僕は冷静で落ち着いていて、体よりも先に頭が働くタイプだったから気が付けば周りの大人たちの策略にはめられてシリウスの世話係を任されることになっていた。  二人組を作る時も、食事の時も、部屋だって同じのまま十八で学園を卒業する年まで僕たちは常に一緒に居て──そしてそれは就職先でも同じだった。  配属された辺境の地でも僕はシリウスの世話を任され、日々を慌ただしく過ごしていたそんなある日、国境の森に魔物が発生した。それを掃討すべく現場に向かうと何やら魔物の様子がおかしいことに気が付く。  その原因を突き止めたシリウスが掃討に当たったのだが、魔物の攻撃を受けてしまい重傷を負ってしまう。  初めて見るシリウスの姿に僕は動揺し、どうしようもなく不安だった。目を覚ますまでの間何をしていていも気になっていた男が三日振りに目を覚ました時、異変が起きた。 「…シリウス?」 「アルはさ、優しいから」  背中はベッドに押し付けられて、目の前には見たことが無い顔をしたシリウスがいた。  いつだって一等星のように煌めいていた瞳が、仄暗い熱で潤んでいた。とても友人に向ける目では、声では無かった。 「──俺のこと拒めないでしょ?」  おりてきた熱を拒む術を、僕は持っていなかった。  その日を境に、僕たちの関係は変わった。でも、僕にはどうしてシリウスがそんなことをしたのかがわからなかった。    これは気付かないうちに八年間囲われて、向けられている愛の大きさに気付かないまますったもんだする二人のお話。

平民男子と騎士団長の行く末

きわ
BL
 平民のエリオットは貴族で騎士団長でもあるジェラルドと体だけの関係を持っていた。  ある日ジェラルドの見合い話を聞き、彼のためにも離れたほうがいいと決意する。  好きだという気持ちを隠したまま。  過去の出来事から貴族などの権力者が実は嫌いなエリオットと、エリオットのことが好きすぎて表からでは分からないように手を回す隠れ執着ジェラルドのお話です。  第十一回BL大賞参加作品です。

俺が聖女なわけがない!

krm
BL
平凡な青年ルセルは、聖女選定の儀でまさかの“聖女”に選ばれてしまう。混乱する中、ルセルに手を差し伸べたのは、誰もが見惚れるほどの美しさを持つ王子、アルティス。男なのに聖女、しかも王子と一緒に過ごすことになるなんて――!? 次々に降りかかる試練にルセルはどう立ち向かうのか、王子との絆はどのように発展していくのか……? 聖女ルセルの運命やいかに――!? 愛と宿命の異世界ファンタジーBL!

身代わりになって推しの思い出の中で永遠になりたいんです!

冨士原のもち
BL
桜舞う王立学院の入学式、ヤマトはカイユー王子を見てここが前世でやったゲームの世界だと気付く。ヤマトが一番好きなキャラであるカイユー王子は、ゲーム内では非業の死を遂げる。 「そうだ!カイユーを助けて死んだら、忘れられない恩人として永遠になれるんじゃないか?」 前世の死に際のせいで人間不信と恋愛不信を拗らせていたヤマトは、推しの心の中で永遠になるために身代わりになろうと決意した。しかし、カイユー王子はゲームの時の印象と違っていて…… 演技チャラ男攻め×美人人間不信受け ※最終的にはハッピーエンドです ※何かしら地雷のある方にはお勧めしません ※ムーンライトノベルズにも投稿しています

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

【完結】健康な身体に成り代わったので異世界を満喫します。

白(しろ)
BL
神様曰く、これはお節介らしい。 僕の身体は運が悪くとても脆く出来ていた。心臓の部分が。だからそろそろダメかもな、なんて思っていたある日の夢で僕は健康な身体を手に入れていた。 けれどそれは僕の身体じゃなくて、まるで天使のように綺麗な顔をした人の身体だった。 どうせ夢だ、すぐに覚めると思っていたのに夢は覚めない。それどころか感じる全てがリアルで、もしかしてこれは現実なのかもしれないと有り得ない考えに及んだとき、頭に鈴の音が響いた。 「お節介を焼くことにした。なに心配することはない。ただ、成り代わるだけさ。お前が欲しくて堪らなかった身体に」 神様らしき人の差配で、僕は僕じゃない人物として生きることになった。 これは健康な身体を手に入れた僕が、好きなように生きていくお話。 本編は三人称です。 R−18に該当するページには※を付けます。 毎日20時更新 登場人物 ラファエル・ローデン 金髪青眼の美青年。無邪気であどけなくもあるが無鉄砲で好奇心旺盛。 ある日人が変わったように活発になったことで親しい人たちを戸惑わせた。今では受け入れられている。 首筋で脈を取るのがクセ。 アルフレッド 茶髪に赤目の迫力ある男前苦労人。ラファエルの友人であり相棒。 剣の腕が立ち騎士団への入団を強く望まれていたが縛り付けられるのを嫌う性格な為断った。 神様 ガラが悪い大男。  

転生エルフの天才エンジニア、静かに暮らしたいのに騎士団長に捕まる〜俺の鉄壁理論は彼の溺愛パッチでバグだらけです〜

たら昆布
BL
転生したらエルフだった社畜エンジニアがのんびり森で暮らす話 騎士団長とのじれったい不器用BL

花街だからといって身体は売ってません…って話聞いてます?

銀花月
BL
魔導師マルスは秘密裏に王命を受けて、花街で花を売る(フリ)をしていた。フッと視線を感じ、目線をむけると騎士団の第ニ副団長とバッチリ目が合ってしまう。 王命を知られる訳にもいかず… 王宮内で見た事はあるが接点もない。自分の事は分からないだろうとマルスはシラをきろうとするが、副団長は「お前の花を買ってやろう、マルス=トルマトン」と声をかけてきたーーーえ?俺だってバレてる? ※[小説家になろう]様にも掲載しています。

処理中です...