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27.緊急事態です!

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それから戻ってきたロベルトは、一瞬フリーズしてから「当分街から出るな」と言った。なんで一瞬止まったんだ?

「は?なんで?」

「ミーア、説明してないのか?」

「いやしたけど」

説明は受けたけどなんで街から出ちゃいけないことになるんだ?

「精神魔法使った奴がいるんだぞ?」

「それは教えてもらったけど依頼受けないと金ないし」

「街でできる仕事もあるだろ」

「だけどハクのご飯も狩りに行きたいし」

ハクにはなるべく加工肉ではなく前と同じように食べさせてあげたい。骨まで関係なくバリバリと食べる姿はちょっと怖いけど。

「それなら俺が狩ってきてやる」

「は!?いや、そこまで頼るわけには....」

それに、ハクには運動だってさせてやりたい。さすがに街の中で走らせるわけにもいかないので、街から出ないと運動をさせてあげられないのだ。

「なら街から出るときは私が付き添うよ」

「えっ!?」

ミーアさんは「それならいいでしょ?」となぜかロベルトに確認している。ロベルトは眉間に皺を寄せたが、ため息をついてから渋々といった感じで頷いた。
いや、俺無視して話進めないでくれますか?

「ちょっと待ってください!それはミーアさんに悪いですよ!」

「私はいいよ?サクヤといると楽しいし」

そう言ってくれるのは嬉しいけども。
どうやらミーアさんはS級の冒険者らしい。女性の身でありながら最高ランクまで上りつめたことに畏敬の念を持つのと同時に、やはり付き添ってもらうなんてこと頼めない。

だが、ロベルトは容赦なく言い放った。

「どちらか選べ」

「は!?いや、どっちかなんてそんなの選べるわけ——」

「なら街からは出るな」

「っ、」

そんなの横暴だろ、とは思うが俺を心配してくれているのはわかるのであまり強くは言えない。だからってもっと言い方があると思いますけどね!
それでも街から出られないのは困る。なので非常に申し訳ないが、ミーアさんに付き添ってもらうことにした。


「それとこれも持っとけ」

そう言って渡されたのは解呪薬だ。

「え!?こんなの買えないよ!」

ゲームではあまり意識していなかったが、ここでの解呪薬はかなり値段が高い。精神魔法を使える人がほとんどいないし、そもそも人に使うことは禁止されているので薬の数が少ないのだ。ポーションの4倍もする解呪薬など買えるわけがない。

「やるから持っとけ」

「は!?貰えるわけ——」

「受け取らないなら街から出るな」

「なっ....!」

どんだけ過保護なんだ。無理矢理待たされ、まさかの発言に口をあんぐり開けると、ロベルトの後ろから「相変わらず過保護だな」と誰かの声が響いた。
後ろから顔を出したのは騎士団長だ。
ロベルトは肩をびくりと震わせ、少し気まずそうな顔で振り向く。あんな顔初めて見たな。

「なんでここに」

「サクヤに伝えたい事があってね。....ふふっ、お前を追って来たかと思ったか?」

「チッ....。うるさい。それなら早く済ませろ」

..........えーと.....。なんだ?この雰囲気は。剣呑な空気ではないが、前会った時とは少し違うようにも思える。
だが団長さんの真っ青な瞳がこっちに向いたので、それ以上考えることはできなくなった。

俺に伝えたい事ってなんだろ.....。
少し緊張して言葉を待っていると、団長さんは優しく微笑んだ。

「サクヤのお陰でスムーズに話が進んだ。ありがとう」

「え......」

「それと、ヴァルクのことだが、街に住めるよう私も出来る限りのことをするよ」

「ほ、本当ですか!?」

お礼を言われるなど、ましてや団長さんが協力してくれるなど思ってもいない事の連続で驚きを隠せない。

「ああ。ただ精神魔法を使った奴を捕まえた後になってしまうが....」

「十分です!ありがとうございます!ヴァルクを信じてくれたんですね!」

団長さんが協力してくれるなんて!よかった!
あまりの嬉しさに涙が滲む。そんな俺を見てロベルトが目を細めた。

「嘘を見抜くのはわりと得意でね」

にこやかに言う団長さんの言葉に俺は首を傾げた。
嘘を見抜くのが得意なのに、俺が嘘ついてないことはわからなかったのか?俺の言い方って嘘っぽいってこと!?

ショックを受けていると、団長さんが喉の奥でくくっと笑った。
いや、なに笑ってんすか。

「いやあ、すまない。実はサクヤが嘘をついていないことはだいたいわかっていたんだ」

「へっ!?ならなんで......」

「あの時は部下や冒険者たちが納得できる明確な理由が欲しくてね。会った事のない者を信じろというのも難しいだろう?」

な、なるほど....?でもそれだったら一緒に考えてくれればよかったのに.....ってこれは甘えた考えだな。ヴァルクを助けたいって思ったのは俺なんだから。あと俺の言い方も嘘っぽいわけじゃなくて安心した。


「しかし、髪型ひとつで随分変わるな」

団長さんが俺をまじまじと見て言う。そんな違うんだ。ちょっと見たいな。

「ミーアさんにやってもらったんです」

「ほう。器用だな。よく似合っている」

褒められたのはミーアさんのはずなのになんだか気恥ずかしい。きっとイケメンが俺を見ながら真顔で言っているせいだ。
そういうのはミーアさんに向けて言ってくださいよ....。

恥ずかしくなって視線を外せば「ふむ、なるほど...」と、なにやら納得している。意味がわからなくて首を傾げると、さらに納得したように頷く。
えっと.....なんなんですかね.....?


「騎士団長がいつまでもこんなところで油売ってていいのか?」

ロベルトの一言で意味を聞くことはできなかった。そこまで気になるわけじゃないから別にいいんだけど。

「ああ、もう戻る。これ、お前も持ってろ」

そう言って差し出したのは、俺がもらった無理矢理渡された物と同じ解呪薬だ。

「俺はいいって言ってるだろ。それよりも他の奴に——」

「頼むから、持っていてくれ」

ロベルトの言葉を遮り、解呪薬の瓶を手に押し付ける。真摯だが有無を言わせない物言いに、なぜだかこちらがドキリとしてしまった。

「っ、わかったよ....」

さすがのロベルトも断りきれずに受け取ると、団長さんは満足げに微笑んで去って行った。
......なんか色気のある人だなー。



そうして、街から出るときはミーアさんに付き添ってもらう事になってから1週間程経った。その間、精神魔法を使われた者はおらず、平和な日常が続いている。毎日見回りを強化しているらしいが、それらしい人物も見つかっていない。

ただ、俺はあの日以来ヴァルクに会えないでいた。
精神魔法を使った者がヴァルクを狙っている可能性があるから、という理由で会う事を禁止されているからだ。

会いたいなぁー.......。

宿屋の窓から空を眺めると、ヴァルクと一緒に見た時と同じようにたくさんの星が散らばっていた。
まだ酒場が開いているので一階からは楽しそうな笑い声が聞こえてくる。

そんないつもと変わらない日常が終わろうとしていた時、鐘のようなけたたましい音が街に響き渡った。


カンカンカンカンカンカン!!


初めて聞くその音に、俺はもちろん既に寝ていたハクも飛び起きるほどびっくりした。

『なに!?ますたー!この音なに!?』

「わ、わかんない。ちょっとハンスさんに聞いてくるからここで待ってて!」

未だ鳴り響く音に不安な気持ちが迫り上がる。急いで階段を降りると一階も騒然とした雰囲気だった。慌てて宿屋を飛び出して行く者もいる。

「ハンスさん!この音なにかわかる!?」

「警鐘だ。おそらく魔獣かなにか出たんだろう。入って来る事はないと思うが...ここは西門に近い。一応広場に避難した方がいい」

「わ、わかった」

ブルーとハクを呼びに再び二階へ戻る。
ゲームにはこんなシーンはなかった。
.....まさか、俺がストーリーぶち壊したから一気に皺寄せがきてる...とかじゃないよな.....?

未だ鳴り響く鐘の音が俺を非難しているようにも聞こえてくる。ヴァルクの事も心配だ。俺に心配されるほど弱くはないのはわかっているのだが、だからといって心配せずにいられるほど神経は図太くない。

とにかく情報が欲しい。ギルドに行けば何が起こってるかわかるだろうか。焦る気持ちを抑えて部屋の扉を開けた。

「ブルー!ハク!避難するよ.....ってハク!なに寝てんの!」

この状況で二度寝をするなんて。どんだけ眠かったんだ。
まだ鐘の音が響く中、ベッドの上で心地良さそうに寝息をたてている。

「ハク!ハク起きて!」

だが、かなり眠りが深いのか揺すっても全然起きない。
嘘でしょ!?.....仕方ない。抱っこで連れてくか。
あれから少し大きくなったので、結構重い。

「ブルー、行くぞ」

足元にいるブルーに話しかけても返事がない。

「ブルー?」

そういえば部屋に入って来た時もなにも反応しなかった。
おかしい。ふたりとも寝ているだけのようだが、なにかがおかしい。

そう思った直後、耳元で「おやすみ」と、聞き覚えのない声がして目の前が真っ暗になった。
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