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番外編:初めてだらけ!
しおりを挟む「んっ、ぁ..、ヴァル、んんっ...」
いつもの宿屋、その壁際にいつの間にか追い詰められ身動きがとれなくなっていた。右手は指を絡めるようにして壁に押し付けられ、左頬に添えられた手のせいで顔も動かせずに最初は触れるだけだったキスも、次第に絡まり合う舌で言葉もろくに紡げない。
「んぅ、は..んっ、まっ...、っ...」
「っ、足りない....っ」
「んんっ!っふ、んっ...、ぁ...だ、めっ...」
このままじゃ流される。
そう思って必死に理性をかき集め、空いている方の手でヴァルクとの間に壁を作った。
それでも止まってくれず、熱っぽい瞳で手のひらにキスを繰り返す。
~~っこんなのどこで覚えてくるのっ!なんかキスも上手くなってるしっ...!
「まっ、ダメだって...!ヴァルクっ」
「なぜだ?二人きりならいいのだろう?」
「そっ、だけど...!今は、騎士さんが待ってるだろっ...!」
俺の言葉でしょんぼりとしてしまったヴァルクを見て、「少しなら」と迫り上がってきた言葉をなんとか飲み込んだ。
確かにこの部屋には俺とヴァルクしかいない。けれど、雉羽騎士団の団員二名が扉の向こうで待機しているのだ。
入団したとはいえヴァルクはまだ一人での行動を許されてない。なので初めてのお休みである今日も監視という名目で同行する。ヴァルクより強い人はそうそういないから本当に形だけって感じだけど。
「...それなら、あと一度だけ」
「だ、ダメっ、もう終わり!....俺だって我慢してるんだから.....」
くい、と顎を掬われ、慌ててストップをかける。
騎士学校を卒業して一度会って以来、なんだかんだヴァルクが忙しくて今日は久しぶりに会えたのだ。
俺だって本音を言えば触ってほしいし触りたい。けど、この状況じゃ無理!
声が聞こえるかもしれないし、聞こえなかったとしても絶対に不審がられる。
そんなの耐えられません!
「ヴァルク...?んむっ!?んっ、ふ...んんっ」
恥ずかしくて俯けた顔を無理矢理上げられ、近いと思った時には唇が重なっていた。
基本、ヴァルクはちゃんと説明すればわかってくれる。今も納得してくれたとばかり思っていたのに無理矢理口をこじ開け、より深いものへと変わっていく。強引に絡めとられる舌が溶けそうなほど熱い。
結局、その熱には抗えずお互い気の済むまで唇を重ねた。
遅くなった手前、騎士さんたちと顔を合わせるのはめっちゃ気まずかったけどなぜか驚いた様子で「早かったな」と言われた。支度にどれだけ時間をかけると思われていたんだろう。まあ遅いと思われるよりはずっといいか。
そんなこんなで出発が遅くなったけど、今日は初デートだ。ブルーとハクには申し訳ないけどお留守番をしてもらっている。
「ヴァルクはどっか行きたいところある?」
「サクヤが行きたいところへ行きたい」
「おぉ...」
きっと"ない"と言うだろうと思っていたので、なんの恥ずかしげもないストレートな物言いにこっちが恥ずかしくなってくる。
幸い騎士さんたちは離れて着いて来ているので聞かれる心配はないが、心臓に悪いからできれば控えてほしい。ここもう外だしね!
ちくちくと突き刺さる視線に殺気がないことを確認してからヴァルクの手を引いた。
「じゃあお昼食べ行こ!」
ヴァルクを連れて行きたいと目星をつけているお店がたくさんあるのだ。
とりあえず俺のおすすめを買いつつ、気になるのがあったらその都度言うようにと約束し早速得た戦利品を片手に市場をのんびり歩いた。
朝よりも活気は劣るが、昼時なので人はそこそこ多い。けれど、モーゼが海を割ったように俺たちの前だけ人が避けていく。
悲鳴が上がらないのは騎士としての職務を全うしているからだろう。市場にはパトロールで何度も来ていると言っていた。
それでも畏怖の籠った視線がなくならないのは少し悲しい。ちらりとヴァルクを見上げれば、手にした戦利品を不思議そうに見つめ一口齧っていた。ちなみに焼き鳥だ。
「美味しい?」
「ああ。歯応えがあって美味い」
形のいい薄めの唇の端が緩やかに弧を描く。
みなさん見てますか!?イケメンが微笑んでますよ!
こういういろんな顔をみんなに見てほしくて連れ出したというのもある。
勤務中だけじゃわからない素顔を是非見てください!
そんな思惑も、買い食いに夢中になって途中からすっかり忘れてしまっていた。
思い出したのは、お腹が満たされてきた頃だ。
最後に甘いものでも食べようか、と歩きだした時、視界が赤く染まった。
「出ていけ!」
突如響いた声は、明らかな敵意を孕み俺とヴァルクに向けられていた。それなりにざわついていた周囲が静まり、視線が一斉に集まる。
俺たちの進路を塞ぐように立つ男はまだ少しあどけなさが残る顔立ちをした青年で、ヴァルクを前にしても一歩も引かなかった。引くくらいならそもそも最初からこんなことはしないだろう。周りもみんなそう思っているのか止める者はいない。
俺は警戒を怠っていたために状況を把握するので精一杯だ。とはいえ殺さんばかりに睨まれているが、殺気が放たれているわけではない。ヴァルクを見ても、焦った様子はないので大丈夫そうだ。
ただ、その間に青年は見事なフォームでこちらに何かを投げつけてきた。
その何かはなかなか速い速度でヴァルクへと向かっていく。
だが、それはヴァルクに当たる前に弾けた。
べしゃりと音を立てて散った色は赤で、先程目の前で弾けたのと同じだなと足元を見ると、ひしゃげたトマトが落ちている。
ヴァルクが張ってくれたであろう結界に当たったのだろう。汁などが派手に飛び散っていたが、お陰で汚れてすらいない。ヴァルク様様だ。
騎士さんたちは介入する気がないようで、近づいてきたものの間に割って入るようなことはしなかった。
このくらい自分たちで解決しろ、という思いもあるのだろうが、そもそも騎士さんたちはヴァルクの監視役だ。ヴァルクが暴走した時に周りへの被害を最小限に抑えるのが仕事で、この状況であれば青年に被害が及ばないように動くだろう。
「お前がいるから——」
「サクヤ、怪我はないか?」
「え、あぁ、うん。大丈夫」
ヴァルクの若干的外れな発言に、ちょっと複雑な気持ちになる。
例え当たっててもトマトで怪我する人なんていないと思うんだけど。ロベルトも過保護だと思ってたけどヴァルクも相当だな...。
無視された青年が肩を振るわせているのがよくわかる。無理もない。俺ですらびっくりした。
「無視するな!」という青年の言葉に、ヴァルクが「すまない」と謝ると一瞬たじろんだようだった。素直に謝ったのが意外だったんだろう。
それでもすぐにハッとしてこちらを睨みつける。
「お前がいるせいで母さんが....!」
お母さん?と二人で顔を見合わせる。ちなみに青年の顔に見覚えはない。ヴァルクも知らないようだ。となると逆恨みのようなものか。
どう収めるべきか悩む。きっと相手は武力も持たない国民だ。
「ひとつ教えてほしいんだけど、ヴァルクが直接、君のお母さんに何かしたの?」
俺の問いに、ヴァルクしか見ていなかった瞳がこちらを向く。瞳の色は綺麗な赤色なのに、暗く、澱んでいるように見えた。
「直接手を下さなくても、悪魔なら存在するだけで影響を与えられるんだろ!」
そんなことが本当にできれば、それは神様と呼ばれるんじゃないだろうか。いくら魔法が使えるといっても、できないことも多い。
「仮にそんなことができるとして、顔も知らない君のお母さんを狙うのはなんで?」
「そんなの俺が知るか!」
思考放棄。
「残念ながら俺にそんな力はない」
「嘘つけ!黒は災厄を招くってみんな言ってるぞ...!」
なんの根拠もない話をさも当然であるかのように話されては、さすがにこちらも腹が立つ。大事な人を傷つけられて黙っていられるほど聖人君子でもない。
「みんなが言ってるから何?みんなが言えば全部真実にでもなるわけ?凄いんだね、みんなって。ヴァルクよりよっぽど危険なんじゃない?」
「で、でもっ、文献にだって書いてあるんだろ...!?」
慌てて付け足した言葉は、自分で確認していないことが丸わかりだ。
怖がるならまだわかる。でも、何も知らないのに、知ろうともしないのに忌み嫌うのは納得いかない。
「...知ろうともしないくせに、勝手に自分の不幸を他人の所為にするなよ」
もういい、とでも言うようにヴァルクの手が肩に置かれたが構わず続ける。
「ヴァルクに謝って」
「は...!?なんで俺が!」
「気づいてないの?さっきからずっと酷いこと言ってるって」
「っ、そっちが先だろ!」
「ヴァルクは何もしてない」
「証拠あんのかよ!」
「そっちだってないくせに」
だんだんと子供の喧嘩になっていくのを止めたのは、他ならぬヴァルクだ。
後ろから回された手で口を塞がれ、強制的に喋れなくされた。手加減されているとわかるのに抜け出せない。
そうこうしていると、慌ててやって来た父親とおぼしき男性が、青年の頭を無理矢理下げながら目に涙を浮かべて平謝りするのをヴァルクはあっさりと許してしまった。
納得がいかない。結局青年は謝ってないのだから。
「ヴァルクはもっと怒ってもいいと思う」
二人の姿が見えなくなったところでようやく解放され、もやもやとした気持ちをヴァルクにぶつける。ヴァルクが悪いわけじゃないのに、そう言わずににはいられなかった。
「サクヤが怒ってくれたからいい」
俺の頬をごく自然に撫でながら目を細める。
「え、もしかして俺が怒ったからヴァルク怒れなかった!?」
「違う、そうじゃない。俺は別に、誰に何を言われても怒りは湧いてこない」
「嘘だぁ」
「本当だ。サクヤの事を言われれば別だがな。俺がサクヤ以外で心を乱すことはない」
そのまま軽く頬に唇を寄せ、嬉しそうに微笑むもんだから先程の出来事など一瞬でどうでもよくなった。
その後すぐに外だということを思い出して、もう一度しようと顔を近づけてくるヴァルクを必死で止める。
口以外も駄目なのか、としょんぼりするヴァルクと共に潰れたトマトを片づけ、最後に甘い物を食べてから宿屋へと送ってもらった。
お互いに離れるのが名残惜しく、何度もキスを交わす。
けれどキスをする度に離れ難くなり、あと一回、あと一回、と何度も終わらせようとしたが、結局痺れを切らした騎士さんが扉をノックするまで続いた。
余談ではあるが、後日ロベルトと会った際に、俺とヴァルクがバカップルであるという噂が広まっている、と呆れた顔で教えてくれた。
恥ずかしすぎる。
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とても楽しく読ませていただいています。
誤字報告なので承認不要です。
シュミレーション ではなく
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もかぽ様
ご指摘ありがとうございますー!!
誤字多くて申し訳ないです💦
いつも読んで頂きありがとうございます(*^^*)
新作‼︎
ありがとうございます。
主人公順応性高そう。
セルフツッコミも良いですね!
楽しみです。
もかぽ様
いつもありがとうございます!!
お待たせしてしまって申し訳ありませんでした(^^;
そう言っていただけてとても嬉しいです(*^^*)