いつの間にか後輩に外堀を埋められていました

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プロポーズ

嘘だと言って

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仕事中、どうも郁人のことが気になってしまい集中できない。
無意識にため息をついていたようで、丁度後ろを通った女性社員に声をかけられた。

「花咲さんどうかしました?ため息なんてついて」

「あー....、なんでもないよ」

「あっ、もしかして....」

なにか気づいたように声を潜めて顔を近づける。

「式場探し難航してますか?」

「は.....?」

思いがけない言葉に何を言っているのか理解できなかった。その間も話は続く。

「まだ内緒でしたよねっ、すみませんっ。でも相談ならいつでも乗るのであまり根詰めすぎないようにしてくださいね。失礼します」

何一つ理解できないまま一方的に話を切られ、ぽつんと取り残された気分になる。

え........?式場........?今のって誰の話......?
葬式の話...じゃないよな....?謎だけ置いていかないでほしい。ま、いっか。どうせ考えても分からないし。
それよりも郁人だ。

ここ数日避けられているような気がする。
いつもは食事に誘ったら断られるなんてことなかったのに、この1週間でもう2回も断られている。しかも郁人からは誘ってこない。
通勤の時はいつも通り他愛のない話をしたりするのになんで。そりゃあ郁人だって用事があったりするんだろうけど.....。


結局その日は全然集中できなくて仕事が終わらず、少し残業をしてから会社を出た。



真っ直ぐ家に帰る気になれず、何か食べて帰ろうと周りに目を向けたときだった。


———え....。


建物に入ってしまい、ちらりとしか見えなかったが、あれは郁人だ。
入っていった建物はちょっと高級なホテル。
郁人がここに居ること自体は別にいい。ホテルに用がある日だってあるだろう。


.....だが、郁人の隣には見たことのない女の人が。


つまり、2人で泊まるってこと.....?
まだラブホじゃないだけ良かったと思うべきか。

それでも思ったよりショックを受けていて、呆然とホテルの前で立ち尽くすことしかできなかった。


好きって言われたのは、プロポーズされたのは、冗談だったんだろうか。
それとも、もう俺のことは好きではなくなったんだろうか。

泊まるのか、それともご飯を食べるだけなのか、それとも両方か、中に入って確かめる勇気はなかった。

胸がズキズキと痛み、呼吸の仕方を忘れてしまったかのように息も上手くできない。

丁度その時、携帯が振動してのろのろと確認すれば地元の友人からだった。
飲みに来ないか、といった感じの内容で今から行く、と返信し駅へ向かう。

地元はここから電車で40分くらいかかる。明日は土曜日だし、遅くなったらそのまま実家に泊まればいいだろう。

とにかく今は1人で居たくない。考えたくない。







「おう伊織!遅いぞ!早くこっち来て飲め!」

「伊織お疲れ~」


変わらない友人たちにほっと息を吐いた。
彼らは小さい頃からの友人で所謂幼馴染。社会人になった今でもたまにこうやって飲んでいる。

「....ははっ、連絡が急すぎなんだよ。これでも早く来た方だろ」

「だーって急に飲みたくなったんだからしょうがないだろー?」

連絡をくれた瑠磨りゅうまが、自分の空になったジョッキを店員さんに渡しながら俺のビールも頼んでくれる。

「あー、実は報告したいことあって....」

お礼を言いながら席に座ると今度は直樹なおきが深刻な面持ちでそう言った。

「そういやお前から誘ってきたもんな」

とりあえず乾杯してから改めて直樹がおずおずと口を開いた。

「......俺、結婚考えてる人がいて.....」

「え!まじか!」

「めでたいことじゃん。なんでそんな言いづらそうに」

瑠磨と俺がそれぞれ反応を示すが直樹の顔はあまり嬉しそうではない。

「.......相手、男なんだ」

「え!....でも前は女と付き合ってなかったか?」

「うん。元々はノーマルだよ。....なんていうか、そいつだけっていうか.....。好きになったのがたまたま男だったってだけで.....」

「おーおー、のろけんなや」

「いいんじゃないのか?今や誰とでも結婚できる時代になったんだし」

「そうなんだけどさー.....」

「なんか心配事でもあるのか?」

「うーん....親はどう思うかなって.....。まだ抵抗ある人もいるだろうし....、それに、孫も見せてやれないしさ」

「あー、孫なー...」

「直樹んとこ兄弟いないもんな」

「そうなんだよ。だからすごく言いづらくて....。向こうは早く挨拶したいって言ってくれてるんだけど」

「...確かに言いにくいかもだけどさ、なんだかんだ親って子供の幸せ願ってるじゃん?直樹が本気なら最初は反対されたとしてもちゃんと分かってくれるだろ」


そう言うと2人とも黙ってしまった。
あれ、俺なんか変なこと言った?

「.....お前ってよくそういうことさらっと言えるよなー」

「.....余計なこと言ったか...?」

「いや、伊織の言う通りだよ。こんなとこでぐだぐだ言ってないで向き合うしかないよな」

「おう!胸ならいつでも貸してやるぜ!」

「慰める前提で話すのやめてくれる?」


いつも場を和ませてくれる瑠磨のお陰で直樹も笑顔になり、再び乾杯をした。



「......ところでさぁ......」

瑠磨が声を潜めて顔を近づけろ、と指でちょいちょいするので俺と直樹は顔を寄せた。
 

「男とヤるのって気持ちいの?」


「!?」

「なっ!?」

予想だにしていなかった発言に俺も直樹も言葉を失う。酒を口に含んでいたら吹き出していただろう。

「.....お前、デリカシーどこに置き忘れてきたんだよ。探してこい」

「だーって気になるじゃんかぁ!幼馴染が2人とも男に走ってんだから」

.....え?今なんて?

「走るって....、が理由ってわけじゃないからな?」

「ちょ、ちょっと待て」

なに2人とも普通に会話してんの?今明らかにおかしいこと言ってたよな?

「2人ともってなに。俺は違うぞ?」

「え?だってお前はあれだろ、えーっと....」

「柊」

「!?」

「そう!柊だ!」

直樹が発した名前に大袈裟なくらい身体がびくんと跳ねた。

なんで2人がその名前を———。
大学は別だったので郁人のことは知らないはずだ。

「しっかしイケメン捕まえたよなー。お似合いっちゃお似合いだけど」

顔も知ってる?なんで?

「...なんで2人とも郁人のこと知ってんの....?」

「ん?いつだったか2人で飲んでる時に来たんだよ」

「伊織とお付き合いさせて頂いてますってわざわざ挨拶にね」

「は......?」

なにそれ。なんでそんなこと。意味がわからない。

「言っとくけど、付き合ってないから」

「別に隠さなくても」

「隠してない!知るか!あんなやつ!」

なんか段々腹が立ってきた。
だって周りに嘘ついて自分は女の人とよろしくやってんだよ?ありえなくない?

「伊織がそんなに怒るなんて珍しいね。喧嘩でもした?」

「別にっ。向こうが勝手に付き合ってるって吹聴してその間に女の人と遊んでるだけだよっ」

喧嘩っていうよりむしろ嫌がらせを受けてる!

「え、浮気?でもどう見てもあれお前にベタ惚れ——」

「だから!付き合ってないっ!」

「わ、わかった、悪かった。今日は飲もう!飲んで忘れよう!」


そうしてがばがばと飲んだ結果、俺はまた記憶をなくした。
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