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第一章 遭難編

第4話 脱出 激流にのまれて

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俺達は、不時着場所の近くで7日間、救助を待った。
しかし、救助隊は来なかった。

水も食料もあるにはあったが、微々たるもので一人につき一日水300ml
バナナかマンゴー1~2個くらいのものだった。

食料もさることながら、精神的な負担が大きかった。
大ウミヘビの脅威はもちろんのこと、生徒の中には1メートルを超えるカマキリを見たという者もあらわれた。

実際にいたのか虚言きょげんなのかはわからないが、人を飲み込むウミヘビがいたのは事実で一概いちがいにウソとも言えなかった。

化け物の恐怖に加え、夜間は藪蚊やぶかの大群に襲われ寝不足により体力を大きく削られた。

このまま救助を待ち続けるのか、それとも移動するかのか、はたまた先発隊を出して救助を求めるのか。
皆で悩んだ結果、

「離れ離れになりたくない。少人数になりたくない。」

という意見が大半を占め、ここが何処だかわからないが、体力のあるうちに全員で移動し人里を探そうということになった。

見張り番をしている時にレンが近寄ってきた。

「ソウ、俺達、生きて帰れるかな。」

レンを見ると、少しやつれていた。
いつも、あれほど元気で気合いの塊のようなレンが、少し小さく見えた。

「何言ってんだ、レンらしくねーぞ、いつもの『気合いだ』は、どうしたよ。」

レンは少しうつむき加減で

「実はな、俺好きな子がいて生きて帰れたら・・」

ストップ、ストップ!!俺はあわててレンの口をふさいだ。

「レン!それ巨大なフラグだぞ、やめれ(笑)」

「そうか~?」

「そうだよスタンダードもスタンダード、きわめて典型的なフラグだよ」

「レン、今もこうして生きてるし、これから先も間違いなしにお前は生きる。お前はプラナリアより生命力強いよ。」

「俺は原生虫かよ。オイ!」

遭難から8日目

俺たちは隊列を組んで海岸を出発した。
先頭は木村先生とアキト、それにCAの鈴木さん。

CAのお姉さんは、一人が鈴木由香さん30歳くらい。

もう一人が、前田春さん22歳くらい。
鈴木さんは、活発的でしっかりした性格、前田さんは控えめで、おっとりした性格。

二人とゆっくり会話したことはなかったが、それでも、この11日間で何度か言葉を交わした。

二人とも今回の遭難について航空会社の人間として相当責任を感じているようで、食料の配給を受けるのも、いつも最後だ。

 (そんなに責任を感じなくてもいいのに。)

と思うが、俺からかける言葉は見つからない。

殿しんがりは俺、レン、イツキ、ヒナ、ウタ、それにCAの前田さん。

前田さんは、少しふらついている。
見かねた俺が

「前田さん、大丈夫ですか?荷物をレンが持ちましょうか?」

と声をかける。

「俺かよ!?いいぜ、持つぞ、気合い気合い!」

いいのかよ(笑)

「レン君、カッコイイ」

ウタがおどける。

「いえ、大丈夫です。これ以上迷惑かけられません。」

前田さんが、何度も頭を下げる。

「これ以上迷惑って俺達、前田さんからは、なんの迷惑も被ってないですよ。それどころか、前田さんは身を粉にして働き、俺達に尽くしているじゃないですか。」

俺は本音を言った。

「そうですよ、前田さんには何の責任もないです。」

ヒナがふらつく前田さんの背中を支えた。

「そう言って頂くのは、本当にありがたいですが、現に何人もの方がお亡くなりになっていますし。」

と言いながら涙をこぼした。
亡くなった生徒や乗務員のことを思い出したのだろう。

隊列の進行速度は、普通に歩く速度の半分位。
無理もない。道なき道を草をかき分けながら歩いているのだから。

日の出とともに出発して正午前に滝に到着した。

滝の高さは、およそ20メートル幅は、100メートルくらい。
ナイアガラの滝を思い出す。

滝の途中に大きな岩のでっぱりがあって、その岩に落下する水が当たり、大きな水しぶきを上げている。

滝の右側は崖が大きく崩れていて、崖の上まで登れそうなくらいの傾斜がある。
俺達は、その傾斜を利用して崖の上まで登った。

崖の上に出て初めて判ったが、川の上流には大きな山並みが連なり、俺達の行く手を阻んでいるような景色だ。

 (本当に人里は見つかるのだろうか。)

山並みの反対側は海、俺達の乗っていた飛行機が左手に見える。
更にその向こうには、いくつかの島が点在しているが、煙や人工物は見えない。

崖を登り切り一時間ほど歩いたところで、少し開けた場所に出た。
先頭の木村先生が隊列の確認をしながら、こちらへやってきた。

「前田さん。」

「はい。」

「まだ日は高いですが、体力が持たない者もいますので、ここで宿泊することにします。よろしいですか。」

「はい。お任せします。」

俺達は、滝の上流へ約一時間歩いた場所で、野宿することにした。

木村先生が自分のジッポーライターで薪に火をつけた。

普段迷惑な喫煙者だが、この時ばかりはジッポー様様だ。
このライターがなければ、今頃だれかが一生懸命、木を擦っていただろう。

夜になって寝ようとするが、例によって藪蚊がわずらわしくて眠れない。
何度か寝がえりを打っていたところ、見張り役のツネオが音を立てないよう気遣いながらキャンプを離れるのが見えた。

(見張りのくせに何やってんだ?)

気になって後をつけたところ、ツネオは川の方へ消えていった。

(どこ行ったんだ?)

ツネオを探したところ、ツネオは川岸の崖の上にいた。

後ろから近寄って声をかけようとする前に、ツネオの方向から甘い香りがした。
何日も、ろくな食べ物にありついておらず、嗅覚が鋭くなっていた俺は、その匂いが何であるかすぐ気が付いた。

「チョコレート。」

声に出してしまった。
ツネオは、すぐに気が付いてこちらを見た。

「あ、」

一声発してツネオは走り出した。

「待てよ。」

何も逃げなくていいのに。

ツネオは少し走ったが、月明りだけの夜道なので、すぐに転んだ。
俺が近づくと

「いや、これは、・・ソウも食べる?」

と言ってポケットからチョコレートを取り出した。

(何枚隠し持ってんだ?)

「何枚もあるなら、弱ってるヤツに、分けてやれよ」

と言った時、ツネオの後ろの草むらが揺れた。

草むらから、目だけが異様に光る生物が出てきた。

大きな目を持つ頭が、右に傾いた。
そして、西洋の悪魔が持つようなカマが二つ持ちあがった。

大カマキリだ。

カマキリはスネオの左側、川の崖方向からツネオをねらっている。
どうしようか一瞬、悩んだが、スネオといえども同級生だ。

見殺しにはできない。

「スネオよけろ!!」

そう叫びながら、俺はカマキリに体当たりした。
カマキリは、体高1メートルくらいだ。
なんとかなるだろう。

俺はカマキリに体当たりして、カマキリの態勢を崩した。

勢いあまって、俺とカマキリは崖から転げ落ちて川面に転落した。
崖を転げ落ちる際に、右腕を強打した。

川面に落ちたが、右腕は全く使えず、左腕だけで川面を漕いだ。
水量は多く、今にも流されそうだった。

左手だけで川面からとび出た岩に、かきついた。

しかし、左手だけでは長くもちそうになく、いずれ水流の強さに負けて流されてしまうだろう。

「ツネオー、おーいツネオー」

ツネオを呼ぶが返事がない。

(早く皆に知らせて助けてくれ。)

何度もツネオを呼んだが、水の音にかき消されたのか、どこからも、だれからも返事がない。

左腕の力もつきて、とうとう岩から手が離れた。
岸にたどり着こうと、もがくが、左手だけでは何ともできない。

そのうち

『ゴォォォォー』

という音が聞こえてきた。

(ヤバイ滝だ。)

滝に落ちる直前、意外と冷静で

(頭から落ちると死ぬな・・・)

と考え、なんとか足を川下にむけることができた。

滝に落ち始めた直後、両足から脳天までを串刺しにされたような、激しい衝撃に襲われた。
どうやら落下途中、滝の中ほどにあっ岩棚いわだなに、両足をぶつけたようだ。

両足が砕けた。

滝壺に落ちて、水流にもまれながら沈下していく。
滝壺は落下する水の勢いで、洗濯機状態。

俺は洗濯機で洗われている靴下のようなものだ。

水面を探し求めてもがくが、砕けた両足と右腕、動かせるのは左手一本、体内の酸素量は乏しく意識が遠のいていく。

(死んだらどうなるのかな・・・)

死を意識し始めた。
その時視野に、光が入った。
俺は最後の力を振り絞ってその光の方向へ必死で向かった。

「ゴボァ・・」
「ヒュー」

肺が酸素で満たされる。
顔面を上に向けて左手一本で姿勢を保ち、空気を堪能する。
見上げた空には、赤く輝かく満月が存在した。

(月が出てなかったら、死んでたな・・・)

月に感謝しながら周囲を見渡すが月明りでも両岸は見えず、どちらに進んでいいのかわからなかった。
浮かんでいることだけで精一杯だった。

そのうち口に触れる水が塩辛くなってきた。

海まで流されてしまったようだが、塩分濃度が高くなったせいか、顔面を水上に出しておくのが楽になった。
その時頭に、何かがぶつかった。

流木だ。

慌てて左手を伸ばし、流木を引き寄せ左手で抱えるようにして、上半身を流木に預けた。

そのうち痛みと疲労から意識を手放してしまった。

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