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第二章 奴隷編
第17話 脱獄 魔法対魔法
しおりを挟むソウ達が、奴隷として働き始めて3か月が経過していた。
「あんちゃん、もうそろそろじゃないのか?」
長屋の片隅で、レベルアップに勤しんでいるとドルムさんがニコニコしながら近づいてきた。
「何です?」
ドルムさんは脱走計画の事を言っているのだろうが、俺は惚けた。
「あんちゃん、俺とお前の仲じゃないか、教えろよ。準備出来てきたのだろ?ナイフとか作っているの、知っているぜ。」
俺は、浜から砂鉄を集めて、それを変形スキルでナイフや短剣に作り替えていた。
こっそりとやっているつもりだったが、ドルムさんには見られていたようだ。
同じ奴隷だからと思って、少し用心が足りなかったかもしれない。
全てを秘密にして疎外感を感じれば、いつか裏切られるかもしれない。
そう思って、秘密の一部をドルムさんに話すことにした。
「脱走のことですか?それなら、ここにいる誰もが思っていることでしょ。でも、それが現実になるとは思えませんよ。ナイフを作っているのは事実です。もしもの時に備えてね。」
何がもしもの時かわからないが、とりあえず、そう言って胡麻化した。
「そう、用心するなって。俺だって、あんちゃんと同じ奴隷だぜ、告げ口なんかしないよ。それに俺も脱走したいんだ。」
ドルムさんはそう言うが、ドレイモンの効果を考えれば、そう簡単に信用できない。
ドレイモンで
「裏切者を密告しろ。」
と命令されれば、簡単に裏切ってしまうだろう。
「あんちゃんの考えていることは判るよ、ドレイモンだろ。しかし、ここには何百人も奴隷がいるんだぜ、無精者のジグルが、いちいち反逆者探しなんてしねえよ。」
言われてみれば、それもそうだ。
あの怠け者で、無精者のジグルが、何百人もの奴隷、一人一人に「密告しろ。」等と命令するはずもないし、今までも、そんな事はなかった。
そもそもドレイモンの命令は魔法の一種なので命令を行使するのには、エネルギーが必要だ。
(そんな面倒な事を、ジグルがするはずもないな・・・)
「ドルムさん、どうして逃げたくなったんですか?」
ドルムは10年の奴隷年季を我慢すると言っていたはずだ。
「そうだな、あんちゃんになら話してもいいかな・・実は、故郷で戦争が起きてな。今はまだ小さな戦だが、いずれ大戦になる。
そうすれば俺の家族もヤバイことになるから、今のうちに帰って家族を非難させたいんだ。」
ドルムさんは俺と会ってから、この長屋と海岸の職場を離れた事が無い。
どうやってニュースを手に入れたのだろう。
俺は、どうするべきか考えて少しの間、沈黙した。
「あんちゃんの秘密を聞くのだから、俺も秘密を話そう。俺も『遠話』とか、幾つかの加護を持っている。」
へー、ドルムさんって、スキル持ってるんだ。
「あんちゃん、ナイフを二本、貸してみな。」
俺は、少し戸惑った。
「いいから、貸してみなよ。危ないことなんてしないから。」
俺はしぶしぶナイフ2本をマジックバックから取り出して、ドルムさんに渡した。
「一本は壊れるけど、あんちゃんなら、直ぐに治せるだろ?」
俺は、頷いた。
ドルムさんは何をするのだろう?
「黙って、見ていな。」
ドルムさんは、両手にそれぞれナイフを持ち、少し沈黙した後に右手のナイフで左手のナイフに切りつけた。
「キン!!」
鋭い金属音がして左手のナイフが刃体の中央から切断された。
「剣の加護だ。」
ドルムさんは、剣技のスキルを持っているようだ。
「へー、すごいですね。そんな事が出来るなんて。」
驚いた顔をドルムさんに向けた。
「他にも、いくつか加護を持っているが、今はまだ秘密だ。もし、あんちゃんが仲間になるなら教えるけどな。あんちゃんも隠している加護があるだろ?」
どうやら、ドルムさんは相当の強者のようだ。
今後の計画としては、まず、ドレイモンの効果を打ち破るだけの状態回復スキルのレベルアップをすることと、脱走後の逃走計画が必要だった。
脱走した後、追跡者との戦闘や、遠くへ逃げるための金銭や物資の確保、一時的に身を潜めるための場所の確保をしなければならない。
ドレイモン解除は自力で出来るとして、金銭の工面や逃走経路の確保には現地の情報に詳しい仲間がいれば、計画が容易になる。
実は、状態回復スキルは相当レベルアップしていて、もうそろそろドレイモンに逆らえるはずだった。
俺は、状態回復スキルを向上させるため俺は毎日自分にパラライズをかけ、麻痺状態を状態回復で治癒するといことを繰り返していた。
そのおかげで今、状態回復はLV20まで上昇し、訓練の副産物として魔法抵抗も向上した。
これは勘だが、ドレイモンという状態異常を回復するには、状態回復の他、魔法抵抗も大きく関係しているような気がする。
自分の奴隷化を解除でいれば、当然ピンターの奴隷解除も行うつもりだが、俺の勘が当たっていれば、魔法抵抗スキルの無いピンターは、状態回復スキルだけでは奴隷化を解除できないかもしれない。
その場合は、ダニクを殺すつもりでいた。
人殺しが出来るかって?
出来るさ。
クチル村の人を苦しめ、ブラニさんの腕を飛ばし、村人同士で殺し合いをさせたシーンを忘れなければね。
しかし、今の段階では、ドルムさんの戦闘力がどの程度なのか魔法も使えるのか、その他ドルムさんの情報が少なすぎた。
「ドルムさん、提案があります。」
「ん?何だ?言ってみろ。」
「ドルムさんが一緒に脱走するなら、仲間になるなら、一つだけ条件があります。」
ドルムさんが身を乗り出した。
「実は、僕には鑑定の加護があります。ドルムさんに触れて念じれば、ドルムさんの身体能力や、どんな加護を持っているか、わかります。その鑑定を受けてくれるのが条件です。」
ドルムさんは少し考えているようだった。
「条件は判った。しかし、それなら俺が寝ている時にでも俺に触って鑑定すれば良かったじゃないか。」
「それは、そうかもしれませんが、もし俺がドルムさんの能力をドルムさんに断りなく覗き見したとしたら、ドルムさん、嫌でしょ?それを知ってからでも仲間になりたいですか?」
「んむ、そりゃ嫌だな。アハハ。あんちゃん、オメーやっぱり良いわ。いい男だ。ますます気に入った。遠慮なく鑑定してくれ!!」
ドルムさんは豪快に笑って、俺に向けて右手を差し出した。
俺は、ドルムさんと握手をすると同時に
(マザー、ドルムさんのステータス表示をお願い。)
マザーにお願いした。
マザーのことはまだ話すべきではないと、考えている。
『了解しました。』
氏名 ドルム・デラリス
年齢 138歳
種族 魔族
魔力 1380/1380
RP 715/715
BP 665/665
スキル
剣技 LV 52
遠話 LV 7
攻撃魔法
火属性 LV 18
土属性 LV 17
魔法抵抗 LV 15
物理抵抗 LV 68
威圧 LV 35
俺は、ドルムさんのステータスを上から下までゆっくり読んだ。
「種族 魔族」
(ええーーーー)
ドルムさんて、人間じゃないのね。ビックリ
でも、よく考えたら、俺も人間じゃなかったわ、人狼だったっけ。
「ドルムさん・・・」
「ん?何かおかしいところあったか?」
「可笑しいというか、なんと言うか、ドルムさん人間じゃないんですね。魔族だという鑑定が・・」
「ああ、神族からは、魔族と呼ばれているな。それに俺の仲間には、悪魔より強い奴が居るからな。魔族と言われてもおかしくは無い。でも、中身は人間とかわらんぞ。」
ドルムさんが魔族だということに驚いたが、神族という種族が存在することにも驚いた。
ま、俺も人間ではないから、問題ないか・・・
「ドルムさん、相当、強いですね。これだけ強ければ、奴隷になんてならなくても、逃げだせたでしょうに。」
ドルムさんは、視線を上に向けた。
「逃げたさ。逃げたけど、油断して大酔いになったところをドレイモン。間抜けな話さ。」
確かに結構、間抜けな話だ。
「あんちゃん、今、笑っただろ。」
「笑ってないですよ。」
「いや、心の中で笑った。俺は鑑定のスキル持ちだぞ。」
「ウソ。」
俺が笑うと、ドルムさんも笑った。
二人の笑いにつられたピンターも笑った。
こうしてドルムさんは、俺の仲間になった。
ドルムさんが、仲間になって、一月が過ぎた。
俺は、自分の体に「状態回復」を施したところ、自分の腕にあった奴隷の印、腕輪の様な入れ墨が消えた。
長屋の鉄格子を変形スキルで人が、通れる程度に変形させ、外へ出た。
(やった!!)
心の中で叫んだ。
その様子を見ていたドルムさんも、親指を突き出して喜びを表現していた。
何が嬉しいのかって?
そりゃ嬉しいさ。
ついに、ドレイモンを克服したのだから。
「夜間は、長屋から出るな。」
ジグルの命令だ。
それに反して、俺は長屋の外に出た。
つまり、ドレイモンの魔法に抵抗して命令に逆らうことが出来たのだ。
俺の状態回復スキルはLV21、魔法抵抗スキルはLV25になっていた。
推定だが、ドレイモンの魔法は、LV20くらいだろう。
LV20の魔法を使える者は相当な術者だ。
ましてや、それを超える魔法抵抗を持つ者など、ほとんどいないだろう。
しかし、俺はそれを超えた。
状態回復スキルと魔法抵抗スキルが術者のレベルを超えたからこそ、ドレイモンを無効化したのだと思う。
俺は、長屋の外へ出て、鉄格子を元の形に戻してから長屋を離れた。
ピンターが俺と一緒に外へ出たいと言ったので、試しにピンターに対して「状態回復」を施してみたが、予想通り、入れ墨は消えなかった。
おそらくピンターに魔法抵抗スキルがないため、ドレイモンを解除出来ないのだろう。
ドルムさんにも試してみたが、結果はピンター同様だった。
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