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第二章 奴隷編

第31話 悪魔の救援 安心して気絶しな。

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ブンザさんのテントで小一時間、商談をした後、テントを後にして帰路に就いた。

ブンザさんからは、酒席を用意するので、ゆっくりしていって欲しいと懇願されたが、俺には獣化のタイムリミットがせまっていたので丁寧にお断りした。

結局、ダイヤ3個を金貨5000枚で売ることが出来た。

代金の金貨5000枚分のうち、4000枚分は、金貨の上位貨幣、『白金貨』40枚で、残りは金貨1000枚で支払ってもらった。

金貨1000枚でも重くて、持ち運びを心配されたが、マジックバッグ持ちの俺としては、然程気にならなかった。

俺がマジックバッグをブンザさんの前で取り出したのは、ブンザさんこそ俺のより一回りも二回りも大きなマジックバッグを取り出して、そこから代金を取り出したからだ。

「ドランゴさん、ありがとうね。おかげで資金が出来たよ。帰ったら十分な取り分を渡しますから。」

ドランゴさんは少し不機嫌になった。

「師匠、それはないでがすよ。ワッシが金目当てで動いてると思ってないでやんしょうね。ワッシはねぇ、ワッシは師匠の弟子として師匠の役にたちたいと思ってるんでがんすよ。そこを誤解しないでくだしあ。」

「ああ、ごめん、ごめん。ドランゴさんのお世話に、少しでも応えようと思っただけで、変に気をまわしたね。お詫びに新居へ移ったら、真っ先に魔剣造りを手伝うから勘弁してね。」

ドランゴさんは途端に笑顔になった。

「それが一番のご褒美でやんすよ。」

帰宅する寸前、肉串の焼ける、香ばしい匂いが漂ってきた。

いつもの肉串の屋台だ。

「ドランゴさん、肉串、お土産に買って帰ろう。」

俺は屋台の親父に声をかけた。

「焼けているの全部下さい。」

「毎度あり、・・・すんません。焼けるのにもう少し時間がかかります。」

「少しなら待ちます。」

ドランゴさんが俺の袖を引いた。

「師匠、あまり時間がないんでがしょう?ワッシが買って帰りますから、師匠は先に帰ってくだしあ。」

獣化が強制解除されるまで、あと10分程度だろうか。鍛冶屋は目と鼻の先だが、用心のため、肉串はドランゴさんに任せて、一人で帰宅することにした。

一人で歩いて帰る途中、大通りの前方20メートル位に、20人位の武装集団が見えた。

商談がうまく運んだことと、鍛冶屋まであと1ブロックになっていたことで油断した。

曲がり角から突然現れた武装集団に気が付くのが何秒か遅れたのだ。

対面する武装集団と俺の間に脇道は無い。
引き返したり、走り出したりすれば、余計に怪しまれる。

獣化は、あと5~6分は維持できるはずだ。

俺は、顔を上げて、堂々と進んだ。

武装集団とすれ違う瞬間。

「あ!」

という声がした直後、集団の中からファイヤーボールが飛んできた。

からくも避けたが、その攻撃起点に目をやると、驚いたことにヒナの姿があった。

更に誰が言ったかわからないが、ヒナのいる方向から

「いたぞ、あいつだ、殺人狂のソウだ。」

という声が聞こえてきた。

その声を合図に、集団が一斉に俺を攻撃してきた。
無数のファイヤーボール、ウインドカッターが飛んでくる。

何発かモロにくらった。

更には手に刀や槍を持った集団が襲い掛かる。
獣化して堅固のスキルを使う俺に刃物は役立たないが、それでも多勢に無勢、守備一方で路地に追いつめられた。

範囲攻撃の大きな魔法で集団を殲滅することも考えたが、集団の中にはヒナが居る。

ヒナを傷つけたくなかった。

加減を間違えれば、ヒナまでも殺してしまう。

ヒナに死のリスクがあるなら、自分の安全は後回しでもよかった。

(何でヒナは、この集団に居るのだろう。ヒナが居なければ思い切り戦えるのに・・)

魔剣を取り出して戦えば切り抜けることが出来るかもしれないが、魔剣を使えば必ず死人が出る。

ヒナの目の前で殺人を犯すことは、ためらわれた。

そうこう迷っているうちに魔力が尽きた。

獣化が強制解除されて、素の俺、16歳の高校生に戻った。

「今だ、止めを刺せ!!」

誰かが叫んだ。

「俺がやる。」

集団から一人の男が出てきた。
アキトだ・・・

集団にけん制されて、路地で逃げ場を無くした。
魔力は尽きて身体能力だけで、この場を切り抜けなくてはならない。

(魔剣を使えば死人が出る。)

しかし、今は生きるか死ぬかの瀬戸際だ。
懐のマジックバックから魔剣を取り出した。

「そら、みろ、とうとう本性を現したな。みんな気を付けろ、あの剣はやばいぞ、ダニクさんを切り裂き、ヘレナさんに大けがを負わせた凶器だ。へたに近づけばダニクさんのように無残に殺されるぞ。」

アキトが、でまかせを言うが、反論する余力も隙も無い。

その時ヒナがアキトの隣に出てきた。

『ソウちゃん。降伏して。お願い。』

(ヒナ・・・・)

ヒナの言葉に一瞬ひるんだ、その隙にアキトが極大のファイヤーボールを放った。

魔剣で受け止めるが、かなりのダメージを被った。

俺がたじろいだ隙に四方八方から武器や魔法による攻撃が始まった。

魔剣で兵士の槍や刀を防ごうとするが、攻撃の全てを防ぎきることは出来ない。

長槍が俺の右太ももを貫いた。
ロングソードが俺の右手を切り裂いた。
左足のかかと部分を剣で削られた。
ウインドカッターで腹部を負傷した。

俺は、ぼろ布のようになりながら、なぜかヒナのことを考えていた。

確かにヒナはこう言った

『ソウちゃん。降伏して。』

ヒナは俺の敵なのか?今のは、間違いなく『降伏勧告』だ。

俺の心の中から何かが湧き出てきた。
そしてそれは、どんどんと大きく強くなる。
こんなにも大きく強くなるのか?この感情

 『悲しい・・・』

昔飼っていた犬が死んだ時、とても悲しかった。
一週間ほど、ご飯を食べることが出来なかった。

この世の中に『悲しみ』という心の作用があることをこの時、初めて知った。

田舎のおばあちゃんが90歳で亡くなった時も大きな悲しみに襲われた。

飼い犬が死んだ時以上に悲しかったが、その時は

『死は、自然の摂理で、誰もが迎えることだ。』

と理解できる年頃だったので、悲しみは昇華することが出来た。

しかし今は違う。

あのヒナが、おそらく討伐隊であろう武装集団の中に居て、しかもアキトと一緒に・・・
それだけならまだしも、今は俺に投降を呼びかけている。

もし俺が投降すれば、間違いなく即、死刑だ。

万が一裁判になったとしてもヘレナの証言がある。
ヘレナの証言は、まるきりのウソなのだが、それをウソだと証明する方法が俺には無い。

つまり、ヒナは俺が死刑になってもかまわないと思っているということだ。

俺はヒナのことをある意味、両親より信頼していた。
それだけでなく、ヒナの事が好きだった。
ヒナの事を想えば眠れないことも幾度かあった。

今、この死の瀬戸際で改めて自分の心を確認することが出来た。

『俺は、ヒナを愛していた。』

俺は手にした魔剣を下げた。
立っている気力も体力も無くなった。
そしてその場にしゃがみこんだ。

もう、どうなろうとよかった。
どうでもよかった。

生まれ育った日本のことも、同級生の事も、
ヒナのことも・・・

何も考えられなかった。

(死んでもいいや。・・・)

自分の死さえも、どうでもよくなっていた。

それほどまでにヒナの言動が俺の心に突き刺さっていた。

武装集団が、一斉に襲い掛かって来た。

おそらく報奨金が目当てだろう。

我先に手柄を立てようと、密集して俺に切りかかり、ある者は足蹴にし、ある者は槍で突いてきた。

進化した俺の身体が辛うじて致命傷を避けているようだ。

散々攻撃された俺が横たわると、我先に

「やったぞ、俺だ、俺が倒したんだ。」

「何を言っている、俺の蹴りが効いたんだ。俺の手柄だ。」

「お前らどけよ、おれの槍が刺さっているのが見えないのか?」

口々に叫んでいる。

「ソウちゃん!!!」

少し離れた所からヒナの声が聞こえるような気がした。

(もう諦めよう、静かに死んでいこう・・ドルムさん、ピンター、ルチア、ごめんな・・・)


・・・・

・・・・

・・・・?

一向に死が訪れない。

(どうなった?)

目を開けると、そこには先程の兵士達全員が倒れていた。

ヒナもアキトも倒れていた。


『よう、ソウ。大丈夫か?・・・あんまり大丈夫じゃねぇな。連れて帰ってやっから、安心して気絶しな。』

そこには悪魔が居た。
文字通り、悪魔の姿をした誰かだ。

身長2メートルはあるだろう。
前頭部には突起状の物体が生えていて、背中には蝙蝠のような羽が大きく広がっている。

口は大きく、犬歯が二本、口の外へ出ている。
お尻にはウネウネと動く尻尾があり、その尻尾の先は三角形をしている。

その姿形を見ただけで普通の人間は気絶しそうな恐ろしい雰囲気だ。

しかし、その悪魔の発する声には聞き覚えがあった。

(ドルムさん・・・)

俺は悪魔に抱かれ、安心して意識を手放した。
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