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第四章 首都ゲラニ編

第60話 悪徳不動産 うちにアヤつけるのか

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カヘイさんと会った翌日、俺は宿舎の食堂で朝食をとっていた。

「ピンターちゃん。よく食べるね。見ていて気持ちいいわ。」

宿舎の食堂で働くまかないのおばさんが、ピンターに声をかけた。
この宿舎は来客の宿泊施設と、幹部用の社員食堂を兼ねていて、数名の女性が施設を切り回している。

ピンターに声をかけたおばさんは、俺達がここへ来た初日から、親切で、ピンターもルチアもすぐに、そのおばさんになついた。

「おばちゃんの、ゴハン美味しいから、いくらでも食べられる。♪」

「オバチャン、オイシイ♪」

おばちゃんが、微笑む。

「ありがとうね。ピンターちゃんも、ルチアちゃんも、いっぱい食べて、大きくなるんだよ。」

「うん」

「ハイ」

微笑ましいとはこういう光景のことだろう。
おれもつられて笑顔になる。
テルマさんも横で笑っている。

(そういえば、ピンター少し背が伸びたかな?)

ピンターとは、毎日一緒にいるから、気が付きにくかったが、ピンターの背はブテラを出発した頃にくらべて、かなり伸びていた。
身長だけではなく、体格も良くなって筋肉が付いてきている。

(ピンターも、そろそろ8歳だから、伸び盛りなんだろうな。)

とその時は思っていた。

「おはよう。」

「おはようでがんす。」

ドルムさんと、ドランゴさんが遅れてやってきた。

「おはようございます。」

ドルムさん達は、給仕のおばちゃんにお茶を入れてもらって、朝食を注文した。

「ドルムさん、ドランゴさん。テルマさんも聞いてください。」

「おう。」

「はいな」

「はい。」

3人がこちらを向く

「ここは居心地が良いですが、いつまでも世話になるわけにはいきません。
俺が代金を払おうとしても受け取ってくれませんしね。そこで、どこかに拠点を構えようと思います。」

「おう、いいぜ」

「師匠の言う通りでがす。」

「お任せします。」

俺は、ブルナを探し出した後、ドルムさんの国へ向かう予定だ。
どんな旅になるかわからないが、その旅はドルムさんと俺だけで行こうと思っている。

俺が留守の間、他人の家ではテルマさんや、ブルナの居心地が悪いだろう。

それに俺も、獣化を解いてゆっくりしたい時がある。
だから、拠点を構えようと思うのだ。
資金はアウラ様の神殿にたっぷりあるしね。

「そこで、ドルムさんとドランゴさん、二人で、新居を探してもらえませんか?」

「いいぜ、で、条件は?」

「ブルナを迎え入れることも考えて、できるだけ広い方が良いです。屋敷内にキューブを建てられるような構造が望ましいです。」

キューブはアウラ様の神殿に通じている。
いざと言う時にテルマさんや子供達を神殿に避難させたい。
それにツインズの子守も忘れてはならない。

「わかった。」

「わかりやんした。ブンザに相談してみるでやんす。」

「俺も街中を探してみます。」

家探しはドルムさん達に頼めば、大丈夫だろうが、俺にはもう一つの考えがあった。

朝食後、暇をみはからい食堂のおばちゃんをつかまえて、街の様子を聞いた。
その後、部屋でひとやすみしてから、ピンターとルチアを連れて、街の探索に出かけた。

「兄ちゃん、人いっぱい。」

「ニイニ コワい。」

宿舎から商店街方向へ歩いていくにつれ、人混みが激しくなってきた。
ピンターとルチアは田舎暮らしで、人混みに慣れていない。

さすが人口30万の大都市だ。
どこまでも続く商店街、荷物を満載した馬車が行きかう。

八百屋、魚屋、肉屋、雑貨店、等の店先で客を呼び込む店員。
場所によっては、身動きが取れない程の人が居る。
元の世界の渋谷スクランブル交差点を思い出した。

ピンターとルチアは俺の手を強く握って離そうとしない。
歩いていて、気になったのは、辻々にいる物乞いだ。
俺達の世界にも物乞いが居たが、今見た物乞いは、ほとんどが子供だった。

誰かの奴隷かもしれない。
ルチアが俺の袖を引っ張った。
ルチアの視線の先を見ると、子供の物乞いが居た。

薄汚い布を体にまとい、やせ細った体で立ち尽くし、通行人に椀を差し出して物乞いをしている。

その物乞いをよく見ると、7~8歳の男の子、ルチアのような耳で、お尻には尾が生えている。
顔は犬に似ている。
獣人だろう。

人犬といったほうが解りやすいかもしれない。
俺は、その子の差し出す椀に金貨を一枚入れてあげた。
その子は驚いていたが、しゃべれないのか、何度も頭をさげるだけだった。

その後もあちこちに物乞いを見かけたが、全てに金貨を与えた。
金持ちの優越感に浸りたかったわけではない。

「みるにみかねて」と表現するのが、一番近い感情だ。

毎日、物乞いを助けてあげるわけにはいけないが、見かけたらできるだけ施そうと思う。

商店街にはパン屋もあった。
パン屋の中を覗いてみたが、思ったとおり、フランスパンのような固いパンしか陳列していない。

更に商店街を歩いていると商店街の外れにポツポツと空き店舗が現れた。
立地条件が悪いのか、『閉店』とかかれた店舗がいくつかあった。

閉店の張り紙の横には、

「この物件の問い合わせ先、ドレンチ不動産」

と書かれている。

俺の目当ては、これだ。

俺は、俺の留守の間、テルマさんや、将来迎え入れるであろうブルナの為に、パン屋を開業させてあげようと思っていた。

テルマさんも、ブルナも、俺が留守の間、何もせず、ただ俺の帰りを待つのは辛いだろう。
そこで、生きがいと言うか、本当の生活をさせてあげるために、パン屋を経営させたいのだ。

利益が目的ではないので、失敗してもかまわない。
人は労働にも喜びをみいだせる。
特にテルマさんは、

「自分が焼いた美味しいパンを沢山の人に食べてもらいたい。」

ということが夢だと言っている。
苦労したテルマさんの夢をかなえてあげたかったのだ。

通りがかった人に空き店舗の管理者

『ドレンチ不動産』

の場所を尋ねた。

「ああ、それなら、この先にマイヤ食堂があるから、そこを右に曲がったとこにあるぜ。」

「ありがとうございました。」

空き店舗から5分程歩くと、通行人に教えてもらった

『マイヤ食堂』

の看板が目に入った。

マイヤ食堂から、なにか懐かしい匂いが漂ってくる。

(何の匂いだっけ? 美味そうな匂いだ。)

ルチアの鼻がヒクヒク動いている。

まだ昼前だったので食堂へは入らなかったが、腹が減ればその匂いが何の匂いか確かめに食堂へ入るつもりになっていた。
食堂を右に曲がると

『優良物件多数あります。ドレンチ不動産』

の看板が見えた。

(優良物件を誇示する不動産にろくな業者は無いとおもうのだが・・・)

不動産屋の中へ入ると、受付に女性社員がいた。
かなり太った中年のオバサンだ。
女性社員は、こちを見ると椅子に座ったまま。

「いらっしゃいませ。ようこそドレンチ不動産へ。」

(セリフ棒読み・・・)

「すみません。商店街の空き店舗を探しているのですが。」

「はいはい。今係を呼ぶので、そこで待って。」

面倒くさそうに事務所の奥へ消えた。

オバサンの声が聞こえる。

「それがさぁ、あのバカ女、酔っぱらて溝に落ちてやんの、ゲハハ。」

別の男の声

「そんじゃ、ずぶぬれで帰ったのか?あのバカ。ブハハ」


客をほったらかして、雑談をしているようだ。
人狼化して聴力が高くはなっているが、客を待たせて、店員が雑談しているのは間違いない。

(ここで商談するのやめようかな・・・)

と思った時に奥から男が出てきた。
30歳位で派手な服を着た男だ。
頬に古傷がある。
まるで漫画に出てくるチンピラのような雰囲気だ。

「はい。おまたせ。で、なんでしたっけ?」

(要件は伝えただろうが!報告、連絡、相談 ホウレンソウを知らないのか、この馬鹿)

腹は立ったが、俺は今、キノクニの正社員だ、この街に来た早々もめ事は起こしたくなかった。

「商店街の空き店舗を探している。良い物件はあるか。」

俺も少しぶっきらぼうになってきた。

「良い物件はあるかって。お客さん、看板見たの?うちは優良物件しか扱ってないよ。で、何の店すんの?」

これが客に接する態度なのか?

「パン屋を営もうと思っている。」

「はいはい、パン屋ね。もうからない仕事だね。お客さんパン屋なんかより、風俗やらない?儲かるぜ。」

「いや、パン屋に合う物件を探している。それ以外はいらない。」

「そうかい。じゃ仕方ねえな。今うちにあるパン屋をやれそうな物件はこれだけだ。」

男は店舗の見取り図を何枚か俺に見せた。
そのうちの一枚が、そこそこ広い敷地で、立地条件も良かった。

「いくらだ?」

「家賃は初回、手数料込みで金貨15枚、その後月々10枚、それに保険料が月3枚だ。」

手数料は判らないでもないが、保険料と言うのは何だろう?

「保険料というのは何だ?」

「そりゃ、こんな物騒な世の中だ。悪い奴らも沢山いる。そんな悪いやつらが、来た時に、俺達が助けてやろうってことだよ。言っとくが保険料は絶対条件だからね。」

つまり、俺達の世界で言う「用心棒料」「みかじめ料」と言うやつだ。

暴力団が何の努力もせず、「トラブルが在ったら俺達が守ってやる。」といって一般の店舗から月々いくらかの上納金をせびるやつだ。

(やーめた。パン屋はどこかに新築しよう。)

「邪魔した。」

俺はピンター達をつれて、店の外へ出た。

「おい、お客さん、パン屋やらねーのか?俺達が守りをしねーと、ここいらじゃ何の商売もできねぇぜ。わかってんのか?おい。」

チンピラが追いかけてきたが、無視した。
店の外へ出て帰ろうとした時、不動産屋の裏手から怒鳴り声が聞こえた。

「クゥオラ!てめーら、何度言ったら判るんだよ。稼ぎが無いのに、もどってくんな。ただ飯くえるなんて思う根性が気にいらねぇ」

不動産屋の裏手で、別のチンピラが、複数の子供達を前に怒鳴り散らしている。
子供たちには見覚えがあった。
さっきここへ来る前、路上に立っていた物乞いの子供達だ。

10人はいるだろうか

子供の中では、年長らしい、人犬の子供が、懐から金貨を取りだし、チンピラ2に差し出した。

「これ。」

チンピラ2は、金貨をむしり取り

「あるじゃねぇか、さっさと出しやがれ、犬コロ!」

と言いながら、その子を足蹴にした。

その子は地べたに這いつくばった。

その子より小さな子が、駆け寄る。

「兄ちゃん。」

小さな子も人犬だ。
他の子はチンピラ2を恐れて震えている。

「ほーら、ぼやぼやせずに、すぐに飯を食え、喰ったら働け。」

チンピラ2が足元の人犬2人を見た。

「いつまでも寝てるんじゃねぇよ。」

といいながら、再び子供達を足蹴にしようとした。

「パラライズ」

チンピラ2の動きが止まった。
俺は子供たちに近づいてヒールをかけた。
チンピラ2にかけたパラライズは軽いもので口は動く。

「てめー誰だ、何しやがった?俺をどうするつもりだ」

チンピラ2は、喚いた。

不動産屋の裏口が開いて、さっきの受付のオバサンが、顔を覗かせ、あわててひっこんだ。
俺は、体に怒気を纏わせ言った。

「お前、家族はいないのか?家族が足蹴にされたらどう思う?」

「知るかよ、犬コロ蹴って何が悪い。」

ルチアが俺の手を握りながら髪の毛を逆立ててチンピラ2を睨んでいる。

「フー!!」

その時、不動産屋の建物から、最初のチンピラと、チンピラ3,4,5が出てきた。

「おう、おめーここがドレンチ親分の事務所だとわかっているのか?あん?」

やっぱりヤクザの事務所だったわけだ。

「しらねーよ。」

チンピラ3が殴りかかって来た。
俺は軽く避けながら、チンピラ3の出足を俺の右足で払った。

チンピラ3は勢いあまって空中で一回転半して顔から地面に激突した。

鼻血が噴射した。

チンピラ4,5も一度に殴りかかって来たが、難なくよけてデコピンでおでこを弾いた。

チンピラ4,5のおでこに大きなタンコブができた。
チンピラ4,5は、その場にうずくまって、額を抱えている。

「なんだ騒がしい。」

不動産屋裏口から新手が現れた。

新手の男は、どことなくバシク班長に風貌が似ている。
新手の男は、腰に刀をさしている。
新手の男から、魔力が伸びて、俺の体を包んだような気がしたが、俺はすぐにそれを跳ね返した。

何か闇系統の魔法攻撃を仕掛けてきたようだ。
チンピラ1が、その男にかけよる。

「カシラ、こいつがいきなり襲ってきやがって。」

新手の男は、俺を向いた。

「お客人、うちにアヤつけるおつもりですかい?」

「いや、そんなつもりはない。子供を足蹴にするのを見過ごせなかっただけだ。」

「そうですかい。御用がお済ならお引き取り願えますか。」

「いいだろう。ただしそのチンピラに言っといてくれ、子供をいじめるなと」

「ああ、ようござんしょう。言っておきましょう。」

俺は、子供達を助けて連れて帰りたかったが、それにはこのヤクザたち組織を潰す必要があるだろう。
今はキノクニ正社員、それは出来なかった。

俺達の周囲をいつの間にか野次馬が取り囲んでいた。
俺が野次馬をかき分けて帰ろうと表通りに出た時、チンピラ達とカシラと呼ばれた男の声が聞こえた。

「カシラ、いいんですか?あのまま返して。」

「いいさ、お前らじゃ無理だ。あのヤロウ、俺の『鑑定』をはじき返しやがった。」

不動産屋を出たら、再びあの匂いが漂ってきた。

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