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第五章 獣人国編

第137話 大神村(オオカミ)守備隊長

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ゲランとジュベルの戦争の火蓋は切られた。
ゲラン軍3万とライベル守備隊がぶつかるまで後二日。

商工会館で避難準備を始めたところ、商工会館の外で待っている避難民が騒ぎ始めた。
建物の外で待っていたドルムさんが入ってきた。

「ソウ。面倒な奴らが来やがった。」

面倒なやつら?だいたい想像はつく。

「ヌーレイ達?」

「そうだ。」

多くの人を国外に出せば、その国は衰える。
だから殆どの国は、国の許可無く国外へ出ることを禁じている。

しかし今は非常時だ。
一時の避難をするのにいちいち伺いを立てている暇は無い。

「ホント面倒だな。」

「だな。」

俺は一緒に行くというロダンさんをその場に残して商工会館の外へ出た。
ロダンさんを俺とヌーレイの争いに巻き込むのは可愛そうだからだ。

外に出ると数十名の騎兵隊の先頭にサルディア将軍とヌーレイ代官が居た。

「またお前か。」

サルディアがつぶやく。

(それは俺の台詞だ。)

ヌーレイが騎乗のまま進んできた。

「ソウ。またしても大罪を犯したな。」

「何の事だ?」

「国民の誘拐だ。多くの国民をどこへ連れ去るつもりだ?」

「連れ去るんじゃない。避難させるだけだ。戦争が終われば、また帰ってくる。」

「詭弁を申すな。国の許可無く住処を離れるのは大罪だ。国抜けをそそのかす悪人が何をほざかす。」

ヌーレイには何を言っても無駄のようだ。
ジュベルの法に照らせばヌーレイの方が正しいのかも知れない。
言い争いは時間の浪費だ。

「それで、どうするんだ?俺は今からゲートを開く。行き先は龍神様のお膝元だ。そのゲートをくぐるかくぐらないかは住民次第。」

「もちろん。許可無しに移動はできない。住民もそのことは承知しているはずだ。国抜けは死罪だ。」

「ほう。じゃあ明日にも戦場になるこの場所から避難しようとする子供や老人を死罪にするのか?さすがレギラの代官だ。思慮のかけらも無いな。」

俺は獅子王の弟、レギラと首都オラベルで揉めたことがある。
ヌーレイが虚偽の報告をしたために、俺がこのライベルの流行病で詐欺を働いたと勘違いしたからだ。

「お前、レギラ様を知っているのか?」

ヌーレイは少し焦っているようだ。

「知っているというかなんというか。オラベルで殴り合ったことはあるぞ。」

サルディアの顔色が蒼白になった。

「なんだと?レギラ様と殴り合ったと?それでお前はなんで生きている?」

俺はサルディアに向き直った。

「なんでって。俺がレギラより強いからに決まっているだろ。」

ヌーレイも事情を察したようだ。

「レギラ様に会って何を話した。」

「ありのままのことさ。もっともレギラは聞く耳を持たなかったけどな。」

俺のその言葉を聞いてヌーレイとサルディアは少し安堵したようだ。

「レギラ様の事はともかく。住民を連れ去る事は許さん。」

ヌーレイはサルディに目で合図をした。

サルディアは成り行きを見守っている住民に向かって言った。

「聞いてのとおり、国抜けは死罪だ。敵から逃亡するな。剣を持って戦え。」

それを聞いたライチが、2~3歳くらいに見える猫人の手を引いてサルディアの前に進み出た。

「わかりました。将軍様。僕もこの子も戦うので、この子が持てる剣を貸してください。」

2~3歳の子が兵士と戦えるはずも無い。
ライチは皮肉をこめて言ったのだ。

「ふ、ふざけるな。こんなチビに貸す剣などあるか。戦えるわけ無いだろう。」

語るに落ちたとはこのことだ。

「それじゃ、どうすればいいのでしょう?逃げちゃだめ。戦うのも駄目。僕達子供はどこに居ればいいのですか?」

ライチは賢い。
俺が後ろ盾になっていることもあるが、大の大人、しかも将軍を相手に理論で相手を追い詰めている。

「それはだな。・・・・えーい、うるさい。子供が大人の話に口を挟むな。」

サルディアがライチを怒鳴りつけた。
それも大衆の面前で。

「ごめんなさい。ただ僕は怖かっただけです。大人の戦争に巻き込まれて死ぬのが。ただ生きていたいだけです。邪魔してごめんなさい。」

ライチは、あっさりと引き下がった。
俺はライチを手招きして頭をなでつつ、俺の後ろに回らせた。
そしてサルディアを無視するように大衆に向かった。

「さて、本題に戻ろう。俺はゲートを開く、誰が邪魔しても開く。行き先は戦争の無い安全な場所だ。住む家も食料も俺が用意する。子供達を自分で守るも良し、俺に任せるも良し。後は皆が道を選ぶと良い。」

俺は商工会館前の広場にポータブルゲートを設置した。
行き先はもちろん大神村だ。

集まった大衆もヌーレイが引き連れてきた兵士もどうして良いのかわからず戸惑っている。
そこへレンヤがライチと自分の子供達を連れて進み出た。

「俺は、大人だ。だからこの街を守るために残る。んだが、この子達は剣を持てない。ソウ様のお世話になるだによ。それで罰せられるなら、仕方ない。オラが罪につく。子供達だけはなんとしても助けたいだら。止めるなら今、ここでオラを斬り殺すとよいだに。」

そういってライチ達をゲートに送り込んだ。
兵士達は動かない。

次にシゲルが進み出た。

「わても、子供だけは助かってほしいでぶ。一度ソウ様に助けられた命。もう一度ソウ様におすがりするでぶよ。」

シゲルの妻が子供達の手を引いてゲートをくぐった。

「何をしておる。犯罪者共を捕らえよ。ゲートをくぐらすな。」

サルディアが兵士に命じる。
兵士があわてて動き出すがレンヤもシゲルもゲートの前から動かない。
それどころか、レンヤとシゲルを助けるように他の男達もゲートの前に立ち塞がった。

「俺達は逃げないだら。戦う。でも子供達が安全じゃなければ戦えないだによ。兵隊さん達わかってくんろ。」

レンヤの声に周囲の男達も共鳴する。

「「「そうだ。そうだ。」」」

レンヤ達に対峙する兵士の中には俺が治療した者も多く居る。
上司の命令と俺への恩義で板挟みになっているのだろう。

レンヤ達がゲートを守る隙間から老人や子供を連れた女性が次々にゲートをくぐる。

「何をしておるか!!!!反逆者共を捕まえろ。捕まえるのが無理なら殺せ。」

サルディアが逆上して叫ぶ。
サルディの「殺せ」という声に大衆が大きく反応した。

「今、なんつった?」

一人の男がアルディアに詰め寄る。
複数の大人がそれに同調する。

「今、子供達を殺すと言ったぞ。」

どこからともなく声が上がる。

「俺達の子を守るどころか、殺すのか?」

「兵隊が子供を殺すってよ。」

「敵は、外じゃ無くて内にいるのか」

「なんだって兵隊が子を殺すって。」

サルディアの言葉一つに多くの者が反応した。
大騒ぎになりつつある。

「みんな、静かに!!」

ガラクが大声で大衆に呼びかけた。

「守備隊の兵士は皆、この街の出だ。この街に家庭があり、子も居る。だから子を殺すようなことはしない。指揮官の馬鹿な命令には従わないはずだ。」

ガラクが兵士に視線をやると兵士全員が頷いた。

「だから安心して子供を送りだせ。行き先はソウが作った村だ。俺が安全を保証する。俺はその村の守備隊長をするつもりだ。」

ガラクが俺の手伝いをしたいといったのはこのことだったようだ。
ガラクはサルディアに向かって言った。

「ライベルの兵士はライベルの子供を殺したりはしない。そうだよな。サルディア。」

サルディアは唇をかみながら黙っている。
それを見かねたヌーレイがサルディアに声をかける。

「城に帰るぞ。戦闘の準備だ。サルディア。」

「はっ」

サルディアの表情が緩んだ。

「帰還する。戦闘準備だ。」

兵士達もほっとして引き上げた。

俺はガラクに礼を言った。

「ありがとうガラク。」

「礼なんていらないさ。俺は俺がやるべきことをしたまでだ。」

様子をうかがっていたロダンさんが近づいてきた。

「一時はどうなることかと。ご苦労様でした。ガラク様。」

ガラクは手を振るだけで返事をしない。

「ところで、ソウ様。少しばかりお願いがございます。」

「何ですか?」

「商工会の職員の家族も避難する予定ですが、その・・・行き先が。」

「どんな所か不安ですか?」

「ええ。少しばかり気になります。そこで皆の代表で私が行き先を見ることは可能でしょうか?その大神村とやらを。」

「ええ、大丈夫ですよ。今日一日はこのゲートを開いたままにしておくので、誰でも出入り自由にしておきます。ロダンさんだけでなく。避難させる家族をお持ちの方は、どなたでも行き来してください。」

「そうですか。ありがとうございます。では早速」

避難民の家族の心配は十分理解できる。
俺はライベル側をガラクとドルムさん達に任せてロダンさん達一行を俺の村、大神村まで案内することにした。

俺とロダンさんの話を聞いていたレンヤとシゲルも付いて来た。

「さぁ行きましょ。怖くないです。」

ロダンさん、一行は、恐る恐るゲートをくぐった。
俺も続いてゲートに入ったが、ゲートを出て驚いた。

ゲートをくぐった先の大神村は、もはや村とは言えなかった。
近代的な都市がそこにあった。
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