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第五章 獣人国編

第144話 レン 救出

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ソウはゲラン軍とジュベル軍が激しく戦う中、ヒナ達を必死に探していた。
その時ソラのアラームが鳴る。
レンに渡した救命ボールが起動した音だ。

「ピコピコ!」

「ソラ救命ボールの発信源付近をモニターに出せ。」

『了解』

ソラが映し出した場所は、戦場から少し外れたゲラン軍の後方だった。

『エリカ、ドローン発進、救命ボール付近を捜索して。』

『はい。ソウ様』

地上で待機しているエリカに命じて救命ボールの発する救難信号を負わせた。
数十秒後、ドローンからの映像が届いた。

救命ボールのある場所はゲラン軍の後方だ。
映像にはゲラン軍のテントがいくつか見えるが人影はまばらだ。
ゲラン軍前方の戦闘に注意が払われて後方は手薄になっているのだろう。

「エリカ、ドローン映像を拡大しろ。」

「はい。」

映像が拡大されると、草むらの中に二人の兵士が倒れているのが確認できた。
映像ではだれだかわからない。
しかし救命ボールの救難信号が出されているということはヒナやレンがその場にいる可能性、倒れているのが仲間の誰かだとう可能性が高い。

「ドルムさん。行きます。」

俺はソラに同乗しているドルムさんに言った。

「ああ、危険だが止めても無駄だろうな。罠には十分気をつけろよ。」

救命ボールの信号は、ヘレナがしかけた罠の可能性もある。
それでも虎穴に入らずんばだ。

「エリカ、ガラク、救命ボールの近くゲラン軍の後方500メートル付近で待機。俺達も向かう。」

俺はソラをゲラン軍後方に着地させた。
遅れてウルフに乗ったエリカとガラクが到着した。

「エリカとドルムさんは、ここで待機。危ないと思ったら離脱して。」

「わかった。」
「わかりました。」

「ガラク、一緒に来てくれるか?」

「もちろん。」

ドルムさんも強いが、もし接近戦になったらガラクの方が強いだろう。
それにドルムさんを『悪魔化』させて寿命を消費させるのは申し訳ない。
エリカの護衛もしてもらいたいしね。

俺は獣王化してガラクと共に草陰を縫うようにして救命ボールに近づいた。
救命ボールが近くなった時に探索スキルで周囲を探ったが敵は居なかった。
それでも用心しながら救命ボールに近づいたところ、救命ボールのすぐ側に兵士が二人、うつ伏せに倒れていた。

一人の兵士を抱え上げたところ名前は忘れたが、この世界へ一緒に迷い込んだ同級生だった。

「おい。」

俺が体を揺すぶったが反応は無い。
脈を取ってみたが無駄だった。
すでに事切れている。

ガラクに周囲を警戒してもらいながら、もう一人の兵士を起こした。
兵士の体は血にまみれている。
俺は兵士を抱き起こして心臓が止まりそうになった。

「レン・・・・」



「オイ!レン!!レン!!!!」

俺はあわててレンの腕を取る。
かすかだが脈がある。

慌てる気持ちを一所懸命落ち着かせ、精神を集中する。
いつもより早く俺の体が光り始める。

いつもより強い光が俺の体をまとう。
俺はできあがった光をレンの体に注ぎ込んだ。

この間5秒。
しかしこの5秒が5年ほどにも感じられた。

俺がレンの体に光りを注ぎ込むとレンの蒼白だった顔色が、徐々に血の気を帯びてきた。
レンの目がうっすら開いた。

「あ・・あ・・だ・れ・?・ソウ・・?」

俺の鼻の奥がツンとした。
目頭が熱くなる。

「おい。寝るな。授業中だぞ。」

「ぉぉ・・死ななかったのか・・・」

「レン。ヒナは?イツキは?」

レンの意識がはっきりしてきた。

「わからん、みんな奴隷にされた。あのクソ女、俺にイツキを殺させようとした。だから自分で自分を刺した。」

レンは自分の胸をなでて傷を確認した。
レンの右手にはドレイモンの証、二重線が入っていた。
それを見たガラクが身構えた。
俺はガラクを手で制した。

「レン、今から奴隷を解除するから、自由になりたいと強く思え、いいな。」

レンは頷いた。

俺は魔力をレンの心の奥まで伸ばしドレイモンを解除した。
レンの腕から二重線が消える。
ガラクも構えを解いた。

レンは周囲を見渡した。
倒れている兵士を見て

「同級生のナガノだ。ヤマダも殺された。」

とつぶやいた。

「誰に?」

「ヘレナ達。ヒナはたぶん生きている。ヒナの『蘇生』とかいう加護が発生するのを待っていたようだ。それにイツキも生きていると思う。ここにイツキの死体がないからな。オイ」

蘇生ということは死人を生き返らせるスキルだろうか?

ともかくここを離脱しなければならない。
ここはゲラン軍のまっただ中だ。

「ガラク、このレンを連れて一度キューブへ戻ってくれないか?」

「いいが、お前は?」

「俺はもう少し様子を探る。」

俺はその場にゲートを開いた。

「レン、この怖いおっさんに付いて行け。俺の仲間だ。」

「わかった。」

「『怖い』は余計だ。」

レンはガラクに支えられながらゲートをくぐった。
俺はレン達がゲートをくぐりきったのを確認してゲートを閉じた。
そして足下の救命ボールを拾い上げた。
ボール上部は赤く光っている。
救難信号が出されている印だ。

(レンの意識は無かった。誰がこのボールを・・)

俺は元来た道をたどってウルフへ戻った。

「ドルムさん、一端待避だ。キューブへ戻って。」

その場にゲートを展開しドルムさんとエリカを帰宅させた。
ドルムさん達を帰宅させた後、ウルフを収納し再度ソラに乗船した。
もう一度上空からヒナ達を探そうと思う。

日の出から日の入りまでゲラン軍とジュベル軍は戦闘を続けた。
双方共に相当数の死傷者が出ているはずだ。

戦闘の最中、時々不思議な光景を目にした。
激しい集団戦闘があった後、必ずと言って良いほど、その戦場から青い光が立ち上り、どこかへ消えていく。
その光景は以前にも見たような気がするが思い出すことが出来ない。

日が暮れて戦闘は中断した。
一日中ヒナ達を探して戦場上空を飛び回ったがヒナ達を見つけることはできなかった。
俺は一度キューブへ戻ることにした。

「ガラク、戦況は?」

「ライジン将軍が追いついた。今のところジュベルが優勢だ。城壁も無事だ。」

ライジン将軍はライベル守備のために首都オラベルから駆けつけている。
ライジン将軍そのものの戦闘力もさることながら、なんと言っても訓練されたジュベル正規軍だ。
ゲラン軍にも負ける要素は無い。

「ガラクは行きたいんじゃ無いか?」

ガラクは元はと言えばオラベルの守備隊長だ。

「戦場にか?」

「ああ。」

「俺は守備隊長をクビになった身だ。そりゃぁ元部下のことは気になるが、ライジンやセトが居る。心配いらんさ。それに女子供はお前が保護してくれているからな。」

俺は今回の戦争が始まる前に、ネリア村やオラベルの子供や老人を避難させている。
避難させている場所はアウラ様のお膝元、今や「オオカミシティ」と呼ばれている俺が開発した街だ。

キューブの一階、食堂にはレンが居た。
夕食を取っている。

「おう。ソウ。うめぇな。この料理。肉なんて久しぶりだぜ。」

レンはニク串をほおばっている。

「ソウ様。お友達はかなり回復されたようです。」

エリカがレンに提供した料理の後片付けをしている。
テーブルには大量の皿がある。

「ずいぶん食べたな。あはは。」

「ああ、食った食った。久しぶりだ。こんな美味いの。イツキにもくわせてぇ。・・いなかったか?」

「ああ、探したけどヒナもイツキも見つからなかった。明日も探すつもりだ。」

「そうかぁ。でもヒナもイツキも生きている。ウン。」

俺はレンから今回の出来事の一部始終を聞いた。

「やはり諸悪の根源はヘレナ、ヒュドラ教だな。」

「ああ、それとアキト。あいつだけは絶対に許さねぇ。同級生を裏切りやがった。」

「ん?裏切ったのはリュウヤじゃないのか?」

「違うと思う。リュウヤは自分だと言ったが、そうじゃないと思う。俺は見たんだ。リュウヤが俺の落とした救命ボールを拾うとこ。しまったと思ったが、結局救命ボールは作動して俺は助かった。作動させたのはリュウヤだろうと思うぞ。オイ」

救命ボールは誰かが意図してボタンを押さなければ作動しない。
意識の無かったレンが作動させることはできない。
となるとリュウヤが作動させたことになる。

「ま、リュウヤのことは一端置いといて。先にヒナとイツキ、ついでにツネオ。それからできるだけ早めに・・その・・あれだ・・」

「ウタか?」

「・・ああ・・・ウタ達はゲラニの修道院に居る。ヘレナの正体がわかった以上、ぐずぐずしていたくない。早めに助けよう。」

「ああ、いいぜ、付いて来たい者は連れていく。でも俺は殺人狂のソウのままじゃない?信用するかな?」

俺はブテラから逃走する時、ヘレナの陰謀でダニクを殺した殺人犯人として指名手配されている。

担任教師のキヨちゃんをはじめ、同級生のほとんどがヘレナの話を信じておれのことを殺人犯人と思い込んでいるはずだ。

「そうだよなぁ。それなんだよなぁ。俺もヘレナに殺されかけるまではヘレナのこと信じている部分もあったからな。女子生徒はヘレナのこと疑わないかもな。特にキヨちゃんはヘレナのこと心酔しているとこあるからな。」

キヨちゃんはともかくとしてウタだけは何とかしなければならない。
レンやヒナの為でもある。

「わかった。ヒナ達を探しながらウタの救出も考えよう。」

レンがうなずく。

「それは、そうと紹介しておこう。」

俺はその場にいるガラク、エリカ、ドルムさんをレンに紹介した。

「ここに居る人以外にもテルマさん、ブルナ、弟分のピンター、ドランゴさん、それと龍神のアウラ様、イリヤ様、ツインズ。みんな俺の街『大神村』にいる。」

「大神村?」

ドルムさんが口を挟んだ。

「ああ、後から連れて行くが、ソウが造った理想郷だよ。獣人も人族もない。奴隷も貴族も無い、皆が助け合って生きていける場所だ。今は子供と老人しかいないがいずれ大きな国になるよ。」

俺は理想郷を意図したことは無い。
ただ困った人、助けを求める人を連れて行っただけだ。
それでもドルムさんが言うような弱い者が苦労をすることのない集落を造りたいとは思っている。

この世界へ来てから、奴隷になったり死にかけたり、幼いピンターと俺は、この世界の怖さや苦労を散々味わってきた。
その思いを他の子供達にさせたくないだけだ。

レンが俺を見上げる。

「俺もそこに住んでいいのか?」

「当たり前の事聞くな。ばか。」

俺はレンの肩を軽く殴った。

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