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第一章:ゼス、ゲヘゲラーデンの論文を王宮に届けに行くのこと。

第七節:ゼス一行、命の危難を王宮の近衛隊長に救われるのこと。(前)

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「大したことない奴っスねー。それじゃ、予定通り死ぬっス!」
 ショケンネズミの槍がゼス達を貫こうとした瞬間、
「遺言はそれだけか、魔物」
「誰っス!」

一閃。

「ぐおおおお!!」
「次に生まれるときは、せめて役に立つ家畜にでもなるんだな。
 ……さて、立てるか?」
 謎の戦士がショケンネズミを切り殺したことにより、ゼス達は間一髪で命を長らえた。
「あ、はい、どうにか……」
「気をつけろよ。いくら一人歩きではないとはいえ最近の草原は子供がうろうろしてていい場所ではない」
「ありがとうございます!」
「そっちの嬢ちゃん二人は……、完全に気を失っているな。
 ……どこへ行くつもりだったんだ?」
「あっ、はい!先生の論文を届けに王宮に行く最中だったんですが……」
「先生?」
 妙な表情をする戦士。論文ならば書いた人間が届けるべきではないか、それをこんな子供に任せるとは、そう言いたげな目で、論文の記し主を訪ねる。
「はい、村に駐在している魔法使いの先生で、名前はゲヘゲラーデンって言います」
 途端、戦士の眼が豹変した。
「なッ……!?
 ということは……お前ら、ビダーヤ村から来たのか!?」
 ゲヘゲラーデン、今でこそビダーヤ村で縁側でくつろぎながら魔術的な相談に乗る一介の老駐在魔術師のフリをしていたが、かつては王宮の戦士たちの中では知らぬ者などおらず、敵国の中にはその名を聞いただけで泣いて命乞いをするほどの魔導士であった。
「知ってるんですか!?」
「当たり前だ、魔導士ゲヘゲラーデンと言えば存在自体が秘密のうちにことを運ぶべき極秘の魔法兵器だ……。お前、何故そのようなお方から書類を受け取った?」
「えっ、そ、それは……」
 その時、ゼスはようやく思い出した。ゲヘゲラーデン曰く、「私ほどの魔導士になると、場所を動くだけで他国に目を付けられる」そして「この村に私がいるということがバレなければ、もし何かあっても動きやすい」。
「まさかとは思うが……」
 そう呟きながら、何かを考え始める謎の剣士。
「?」
 一方で、頭にハテナマークを浮かべるゼス。

 ややあって。
「……まあ、いい。ところで……」
「あ、ゼスって言います」
「ゼス、お前それ絶対に言うなって言われなかったか?」
「あ」
「……俺相手だからいいようなものの……」
 ただでさえ険しい顔をさらに険しくする謎の剣士。無理もあるまい、彼の眼から見れば眼前の子供は不発弾でキャッチボールをして遊んでいるようなものであったからだ。
「絶対に、他人には言うなよ。最悪、スパイ容疑で殺されるぞ」
「は、はいっ!!」
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