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第一章:ゼス、ゲヘゲラーデンの論文を王宮に届けに行くのこと。
第十四節:ゼスとクヴィェチナ、牢の中で一夜を過ごすのこと。(前)
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ン・キリ取調事務所、第一控室でゼス達は絶望的な取り調べを受けていた。それは暴力こそ伴わないものの、無罪を証明するのは不可能に近い仕組みになっていた……。
「だから、僕達はゲヘゲラーデン様に頼まれて……!!」
そして、それを知らず抗弁するゼス。彼にしても、いきなり案内されたところが牢屋ということもあって大いに憤慨していた。
「嘘を吐くな、貴様のような輩にかの大魔導士ゲヘゲラーデン様が物を頼むわけがなかろうが!!」
一方で、頭から否定しにかかるンタン。彼が強引に取り調べをしているのには一応わけが存在したのだが、それにしたって強引に過ぎた。
「だから、僕達の村に「ゼスくん、それは言っちゃダメ!」あっ……」
「なんだ?何を言おうとした」
思わず、勇み足をしてしまいそうになるゼス、そしてそれを慌てて止めるクヴィェチナ。案の定勘ぐるンタン。悪循環であった。
「とにかく、ゲヘゲラーデン様にそれは正式な依頼として渡されたんです!」
「ほほーぅ、証拠はあるのか」
「うっ……」
「証拠がない限り、信じるわけにはいかんなあ」
「このっ……」
そして、不毛な取り調べは続き、ンタンが強引にゼスとクヴィェチナを牢屋に閉じ込めて、しばらくが過ぎた。
一方、隣の近衛兵詰所では。
「変な奴、変な奴、ね……」
ゲヘゲラーデンの論文が絡んでいることもあってか、歩きながら考えるという小器用なことをしつつ廊下を進むロベンテ。と、そこへ近衛兵が通りかかった。どうやらロベンテに用がある様だ。
「隊長、本日の懲罰房処刑案件ですが……」
「おう。……あれ、ンコ・ロはどうした」
いつもは常勤従卒であるンコ・ロを呼ぼうとしたロベンテ。とはいえ、彼は現在……。
「あいつは今日非番ですよ?」
「ああ、そうだったか」
そして、ロベンテは吟味を始めるべく書類をめくり始めた。と、その目にある興味深い文言が飛び込んできた。
……そして、とっぷりと日は暮れて。
「参ったなぁ……」
「まさか、牢の中で一夜を迎えるなんてね……、私たち何も悪いことしてないのに……」
ぼやくゼスとクヴィェチナ。無理もない、彼達は無実の罪と思わしき罪状で拘留されているのだから当然と言えた。
「クヴィちゃん、僕たちこれからどうなるのかなあ……」
「だから、クヴィちゃん言うな。……そうねえ……都合よくロベンテさんが通りかかってくるなんてことがあればいいんだけど、そんなことはなかったわよね……」
実は、ロベンテは取り調べ室の隣にある詰所で書類を作っていたのだが、分厚い壁に阻まれて聞こえていなかったようだ。
「クヴィェチナちゃん、例の”得意技”で何とかできないかな」
「いや無理でしょ、顔すら牢の外には出せそうにないって」
「無理かー……」
一方、ヤセガエル亭では。
「ゼスくんたち、遅いなあ……」
ゼスたちが囚われていることも知らず、近衛隊長の言伝もあって宿で寝続けるルーチェ。それは、子供にとってはいかにも退屈であったが、出歩ける体力もないのでルーチェはぼぅっとしていた。
「……隊長さん……」
近衛隊長であるロベンテ・トゥオーノの「昔話」を彼女は反芻していた。
「どうしよう、疼いてきちゃった……」
ルーチェは、魔力欠乏症による熱以外に違う熱を感じ取った。
「……いい、よね?
みんな、いないし……」
なにやらもぞもぞとしだすルーチェ。と、その時である。
「入りますよ」
「あっ、は、はい!」
ヤセガエル亭の主の声が聞こえた。どうやら、夕食を持ってきたようである。
「まだ、熱は出ていますか」
「はい……」
「何、近衛隊長の知り合いです、代金ももらっていますし無碍には致しませんよ。
そんなことより……」
「そんなことより?」
「何か、王宮で騒ぎがあったらしいんですよ。なんでも、かの大魔導士、ゲヘゲラーデン様を騙って妙なことをしようとした変な奴がいた、とか」
「えっ……」
胸騒ぎのするルーチェ。彼女としても、それは他人事ではなかった。
「だから、僕達はゲヘゲラーデン様に頼まれて……!!」
そして、それを知らず抗弁するゼス。彼にしても、いきなり案内されたところが牢屋ということもあって大いに憤慨していた。
「嘘を吐くな、貴様のような輩にかの大魔導士ゲヘゲラーデン様が物を頼むわけがなかろうが!!」
一方で、頭から否定しにかかるンタン。彼が強引に取り調べをしているのには一応わけが存在したのだが、それにしたって強引に過ぎた。
「だから、僕達の村に「ゼスくん、それは言っちゃダメ!」あっ……」
「なんだ?何を言おうとした」
思わず、勇み足をしてしまいそうになるゼス、そしてそれを慌てて止めるクヴィェチナ。案の定勘ぐるンタン。悪循環であった。
「とにかく、ゲヘゲラーデン様にそれは正式な依頼として渡されたんです!」
「ほほーぅ、証拠はあるのか」
「うっ……」
「証拠がない限り、信じるわけにはいかんなあ」
「このっ……」
そして、不毛な取り調べは続き、ンタンが強引にゼスとクヴィェチナを牢屋に閉じ込めて、しばらくが過ぎた。
一方、隣の近衛兵詰所では。
「変な奴、変な奴、ね……」
ゲヘゲラーデンの論文が絡んでいることもあってか、歩きながら考えるという小器用なことをしつつ廊下を進むロベンテ。と、そこへ近衛兵が通りかかった。どうやらロベンテに用がある様だ。
「隊長、本日の懲罰房処刑案件ですが……」
「おう。……あれ、ンコ・ロはどうした」
いつもは常勤従卒であるンコ・ロを呼ぼうとしたロベンテ。とはいえ、彼は現在……。
「あいつは今日非番ですよ?」
「ああ、そうだったか」
そして、ロベンテは吟味を始めるべく書類をめくり始めた。と、その目にある興味深い文言が飛び込んできた。
……そして、とっぷりと日は暮れて。
「参ったなぁ……」
「まさか、牢の中で一夜を迎えるなんてね……、私たち何も悪いことしてないのに……」
ぼやくゼスとクヴィェチナ。無理もない、彼達は無実の罪と思わしき罪状で拘留されているのだから当然と言えた。
「クヴィちゃん、僕たちこれからどうなるのかなあ……」
「だから、クヴィちゃん言うな。……そうねえ……都合よくロベンテさんが通りかかってくるなんてことがあればいいんだけど、そんなことはなかったわよね……」
実は、ロベンテは取り調べ室の隣にある詰所で書類を作っていたのだが、分厚い壁に阻まれて聞こえていなかったようだ。
「クヴィェチナちゃん、例の”得意技”で何とかできないかな」
「いや無理でしょ、顔すら牢の外には出せそうにないって」
「無理かー……」
一方、ヤセガエル亭では。
「ゼスくんたち、遅いなあ……」
ゼスたちが囚われていることも知らず、近衛隊長の言伝もあって宿で寝続けるルーチェ。それは、子供にとってはいかにも退屈であったが、出歩ける体力もないのでルーチェはぼぅっとしていた。
「……隊長さん……」
近衛隊長であるロベンテ・トゥオーノの「昔話」を彼女は反芻していた。
「どうしよう、疼いてきちゃった……」
ルーチェは、魔力欠乏症による熱以外に違う熱を感じ取った。
「……いい、よね?
みんな、いないし……」
なにやらもぞもぞとしだすルーチェ。と、その時である。
「入りますよ」
「あっ、は、はい!」
ヤセガエル亭の主の声が聞こえた。どうやら、夕食を持ってきたようである。
「まだ、熱は出ていますか」
「はい……」
「何、近衛隊長の知り合いです、代金ももらっていますし無碍には致しませんよ。
そんなことより……」
「そんなことより?」
「何か、王宮で騒ぎがあったらしいんですよ。なんでも、かの大魔導士、ゲヘゲラーデン様を騙って妙なことをしようとした変な奴がいた、とか」
「えっ……」
胸騒ぎのするルーチェ。彼女としても、それは他人事ではなかった。
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