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第一章:ゼス、ゲヘゲラーデンの論文を王宮に届けに行くのこと。
第十六節:ゼスとクヴィェチナ、牢の中で一夜を過ごすのこと。(後)
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そして、ロベンテがゼス達を牢から出している際に、ンタンが見回りに来た。
「おい、そこで何をしている!」
「何を言うかと思えば……」
温厚で知られるゼスも、さすがに腸に来ていた。無理もあるまい、事の次第が分かった以上、彼の立場に立ったら怒らぬ者などいただろうか?
「さっきはよくも閉じ込めてくれたわね!」
早くも、魔法の発動の用意を行うクヴィェチナ。一触即発とは、まさにこのことであった。
「お前が誤認逮捕したことは国王に報告した。重大な事件だから手続きは長引くだろうが、残り少ない職場の空気を味わっておけよ」
そして、そのゼスやクヴィェチナを庇うように前に立つロベンテ。ンタンはこの時点で、一介の兵士ではなく敵国のスパイ容疑に当てはめても問題はなかった。
「近衛隊長ともあろうお方が乱心召されたか!私はこのガキどもがゲヘゲラーデン様の論文を持っているところを見ているのですぞ!」
抗弁するンタン。無論、このままおめおめと放逐されたとあっては何のために潜入したのかわからないからだ。
「それが、正式な依頼だという証拠がないと決めつけたそうだな」
早速、ンタンに対して舌戦を行うロベンテ。彼は決して饒舌な方ではなかったが、ここまで有利な条件で負ける者は存在しないだろう。
「ええ、証明すべきは証拠があると唱える方というのは法の鉄則でございましょう」
一方で、法律を盾にする者特有の常套句を唱えるンタン。確かに、証拠があると唱える方に立証責任があるのは法律の基本的なものである。だが。
「じゃあ、これはなんだ?」
ロベンテが見せた書面は、驚くべきものであった。そこに書かれていたのは、私的文書の委任状とはいえ明らかにゲヘゲラーデンの筆跡であった。
「なっ、そ、それは!」
「確かに、正式な書面ではないが、確かにこれはゲヘゲラーデン閣下の筆跡だ。まだ疑うのか?」
「近衛隊長ともあろうお方が罪人に誑かされ申したか!」
しつこく抗弁するンタン。彼自身、そこまで書類に執着しているわけではなかったが、このまま王宮を追い出されては「仕事」を行えないのだから当然と言えた。
「そこだ。なぜおまえは執拗にこの子供を捕えようとする?」
「重大事件の犯人だからでございましょう、近衛隊長といえども、部署の横紙破りは以ての外でございますぞ!」
今度は縦割り官僚制度にしがみつくンタン。とはいえ、それは明文法ではなく慣習であり、そこまで拘束力のあるものではなかった。
「ここまで証拠がそろっている、不利なのはお前の方だ!」
そして当然のように、ロベンテは追い詰めていった。
「なんと仰せられる!」
そして着々と、ンタンの論拠はつぶれていった。
しばらく続く舌戦。その中で、ロベンテは確信した。眼前の兵士は間違いなく敵であると。だが……。
「お前、まさか……」
「ちぃぃっ、ここまでバレてしまってはどうもこうもないわ、ロベンテ・トゥオーノとか言ったな、儂が貴様ごと王宮を叩き潰してくれる!!」
悪魔「ンタン」が正体を現した!
「えっ……」
思わずたじろぐゼス。
「魔王陛下のためにこの王国の宝でも奪ってやろうと思い、ちょうどよい宝があると思うたのに、近衛隊長如きに後れを取るとはな……!!」
「ロベンテさん、あれって……」
クヴィェチナもうろたえ始めた。それは紛れもなく、悪魔であったのだから。
「ああ、まさか魔物の類が王国の兵士に化けていたとはな……」
「おい、そこで何をしている!」
「何を言うかと思えば……」
温厚で知られるゼスも、さすがに腸に来ていた。無理もあるまい、事の次第が分かった以上、彼の立場に立ったら怒らぬ者などいただろうか?
「さっきはよくも閉じ込めてくれたわね!」
早くも、魔法の発動の用意を行うクヴィェチナ。一触即発とは、まさにこのことであった。
「お前が誤認逮捕したことは国王に報告した。重大な事件だから手続きは長引くだろうが、残り少ない職場の空気を味わっておけよ」
そして、そのゼスやクヴィェチナを庇うように前に立つロベンテ。ンタンはこの時点で、一介の兵士ではなく敵国のスパイ容疑に当てはめても問題はなかった。
「近衛隊長ともあろうお方が乱心召されたか!私はこのガキどもがゲヘゲラーデン様の論文を持っているところを見ているのですぞ!」
抗弁するンタン。無論、このままおめおめと放逐されたとあっては何のために潜入したのかわからないからだ。
「それが、正式な依頼だという証拠がないと決めつけたそうだな」
早速、ンタンに対して舌戦を行うロベンテ。彼は決して饒舌な方ではなかったが、ここまで有利な条件で負ける者は存在しないだろう。
「ええ、証明すべきは証拠があると唱える方というのは法の鉄則でございましょう」
一方で、法律を盾にする者特有の常套句を唱えるンタン。確かに、証拠があると唱える方に立証責任があるのは法律の基本的なものである。だが。
「じゃあ、これはなんだ?」
ロベンテが見せた書面は、驚くべきものであった。そこに書かれていたのは、私的文書の委任状とはいえ明らかにゲヘゲラーデンの筆跡であった。
「なっ、そ、それは!」
「確かに、正式な書面ではないが、確かにこれはゲヘゲラーデン閣下の筆跡だ。まだ疑うのか?」
「近衛隊長ともあろうお方が罪人に誑かされ申したか!」
しつこく抗弁するンタン。彼自身、そこまで書類に執着しているわけではなかったが、このまま王宮を追い出されては「仕事」を行えないのだから当然と言えた。
「そこだ。なぜおまえは執拗にこの子供を捕えようとする?」
「重大事件の犯人だからでございましょう、近衛隊長といえども、部署の横紙破りは以ての外でございますぞ!」
今度は縦割り官僚制度にしがみつくンタン。とはいえ、それは明文法ではなく慣習であり、そこまで拘束力のあるものではなかった。
「ここまで証拠がそろっている、不利なのはお前の方だ!」
そして当然のように、ロベンテは追い詰めていった。
「なんと仰せられる!」
そして着々と、ンタンの論拠はつぶれていった。
しばらく続く舌戦。その中で、ロベンテは確信した。眼前の兵士は間違いなく敵であると。だが……。
「お前、まさか……」
「ちぃぃっ、ここまでバレてしまってはどうもこうもないわ、ロベンテ・トゥオーノとか言ったな、儂が貴様ごと王宮を叩き潰してくれる!!」
悪魔「ンタン」が正体を現した!
「えっ……」
思わずたじろぐゼス。
「魔王陛下のためにこの王国の宝でも奪ってやろうと思い、ちょうどよい宝があると思うたのに、近衛隊長如きに後れを取るとはな……!!」
「ロベンテさん、あれって……」
クヴィェチナもうろたえ始めた。それは紛れもなく、悪魔であったのだから。
「ああ、まさか魔物の類が王国の兵士に化けていたとはな……」
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