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第三章:ン・キリ王国、モンスターの大攻勢を受けるのこと。

第十五節:ン・キリ王国、モンスターの大攻勢を受けるのこと。(3)

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「伝令!シャッタ兄弟をはじめとしたビダーヤ村自警団の部分動員が完了しました!」
 まず、真っ先に王国の呼びかけに応じたのはビダーヤ村の自警団であった。彼らは一部の者をよこしただけであったものの、数が少ないことを生かして素早い行動を行い、他の自警団よりも2,3日早く到着した。この、一人でも兵隊を揃えなければならない時期に至っては、それだけで貴重であった。
「でかした!しかし、なぜ部分動員か?」
 当然のように、部分動員の理由を尋ねる廷臣。それに対して伝令兵は、悪夢のような事態を報告した。
「ビダーヤ村でゲヘゲラーデン卿の魔力紋を観測、どうやらビダーヤ村で起こった悪魔騒動の際にゲヘゲラーデン卿自らが対処したものと思われます!」
 それは、恐るべき事態であった。ビダーヤ村を救うためとはいえ、この血みどろの騒動の状態に本来ならばビダーヤ村に在住していたはずのゲヘゲラーデンが不在。そう、だからこそビダーヤ村の自警団は部分動員という手を取らざるを得なかったのだ。いかに王宮の危難とはいえ、村の自警団を総動員した場合、ビダーヤ村はほぼ無防備になる。
 そして、ゲヘゲラーデン不在という状況はン・キリ王国にとっても窮地と言ってもまず差支えない程の事態であったが、彼らにはまだ希望が存在した。それは……。
「むむむ、さすれば、卿は……」
「おそらく、現場にはいらっしゃらなかったのでいずこかへ旅立ったものかと!」
「くっ、この一大事に……」
 呻く廷臣たち。しかし。
「やめい!……ひとまずは、シャッタ兄弟の援兵が来ただけでもありがたい。それでは諸君、巻き返すぞ!」
 一喝する国王。彼は、どうやら腹をくくったようだ。
『ははっ!!』
 ……シャッタ兄弟。ゲヘゲラーデンが使えない時にとビダーヤ村に埋伏として配備していた、ン・キリ王国秘蔵ともいえる百人力の猛者であった。



 一方、ゼス達は。
「……ここ、本当に首都ですか?」
 ゼスは、前回訪れた首都、レチトツの現在を見て愕然としていた。それも無理からぬことだ、眼前の首都の現状は、もはや都市のていをなしていなかった。
「とはいえ、俺達が逃げていい、というわけではないからな。他の村の自警団は来ているか!?」
「いえ、我々が一番乗りみたいです!」
「そいつぁいい!お前ら、俺たちはおそらく歴史に残るぞ!」
 そして、ビダーヤ村自警団部隊は王宮目指して駆け出した。

「ゼスさん!」
 戦場に場違いなか細い、しかしきれいな声がゼスの耳に届いた。
「その声は……ルーチェちゃん!?」
 数か月ぶりに会った彼女は、如何にも美少女然としていた。
「なんだ、知り合いか」
 ゼスに問うダオラ。その彼にしたって、突然飛び込んできた神官服の美少女に多少、面食らっていた。
「はい、アイバキップが襲ってきたときに一緒だったんです!」
「初めまして、ルーチェと申します……」
 おずおずと、丁寧な挨拶をするルーチェ。さすがにそれは戦場には不釣り合いであり、案の定、
「挨拶はあとだ、今近衛兵の皆様方はどうなっている!」
と、その挨拶を中断させるダオラ。彼が近衛兵の様相を尋ねたのは言うまでもない、戦況を聞くためである。とはいえ、
「ああ、それなら……」
「近衛隊長のロベンテ・トゥオーノだ、そちらは?」
近衛隊長はすぐそばにいた。ルーチェと同じく丁寧に相手の名を問うトゥオーノ。それに対して、
「ビダーヤ村自警団団長、シャッタ・ダオラ!」
あまり余裕のなさそうな声で答えるダオラ。無論、彼は近衛兵が魔物の侵入孔を塞いでいることを知らなかったからこそ、余裕がなかったのだろうが。
「おう、シャッタ兄弟の弟の方か。そいつはありがたい!……迎撃戦をしているんだが、付き合えるか」
「ははっ!!」
 かくて、ン・キリ王国史上でも類を見ない激戦が始まった……。
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