勇者失格

墨汁らぼ

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5… 継母と双子の兄

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中央から来た騎士団は、依頼したレオンの想像を超えてかなりの人数をそろえてきた。
200人以上の、鎧をまとった騎士たち。
先頭の50人は立派な馬に乗っており、食料や物資を積んだ2頭立ての馬車は10台もあった。

「中央は、今回この村の海で起きたことを重要視してくれたんだな・・・!」
レオンの父親である村長は騎士団を歓迎して迎えた。

村に入る橋を超えるところで、騎士団を迎える村長とレオン。

先頭の馬から男が降りてきて、村長の前に立った。
ひときわ立派な設えの青い服を着ている。

20代後半だろうか、薄い色の長い金髪に端正な顔立ち、しかし冷たそうな瞳。
太陽のようなレオンとは正反対だね、とアスカなら言うだろう。

「私は中央の騎士団隊長、ジェイドだ。依頼を受け、調査と救援にきた。」

「ご足労誠に感謝する。ご覧いただくと分かると思うが・・・今この人魚の村は大変な危機に直面している。どうか、ご助力願いたい。」

ジェイドはうなずくと、隊に合図をした。皆、歩みを進める。行進する騎士たちに素早く指示を出す。

「まずは食料と物資を、皆に配れ!第1隊はテントを設けてすべてを管理するように!
第2隊はけが人の調査と治療、薬の分配を!
第3隊は船の調査と修理、第4隊は・・・

海に出たという化け物の調査を。」

ジェイドは相当頭が切れる人物だな、とレオンは思った。

「ジェイド隊長、私から詳しくお話させていただきたい。どうか是非、我が家にお越しいください。」

「ぜひ」

村長とレオンは、騎士団の隊長ジェイドを屋敷に案内した。


そのころ、アスカの家には双子の兄ドゥーガとリューガが帰ってきていた。
2人とも疲れ切った顔をしている。村に残っていて無事だった若い漁師として、連日今回の事件の始末に奔走しているのだ。

アスカの継母は自分が産んだ息子たちにしきりに話しかけていた。

「やっぱり、もうこの村では漁師なんてできないんでしょう?でね、母さんは考えたのよ。まとまったお金を手にして、3人でもう少し都会に出たらどうかしらって。」

「まとまったお金なんてどこにあるんだよ」

そう言ったのは兄のドゥーガ。
母親に似ずこの双子は常識人で、黒い髪で爽やかな凛々しい顔立ちをしていた。
右頬に5センチほどの目立つ傷があるのが兄のドゥーガである。

自分たちの母親が、血の繋がらないアスカにつらく当たっていたことは薄々気づいていたが、兄弟の目の前であからさまにいじめることはなかったし、漁師として働いていて家にいなかったのでかばってやれなかった。
双子はそのことを少し後ろめたく感じていた。
ただ、男でも女でもない、血の繋がらない美しい兄弟をどうすればいいのかわからなかったという一面もある。

「アスカ・・・あの子を、今度の誕生日に性別を決めるでしょう?漁師にさせるために男にするつもりだったのだけど、この村がこんな状況じゃない?
それならいっそ女にさせて、中央の金持ちに高く買ってもらおうと思ってるのよ。
噂では、この人魚の村の娘はとんでもなく高値で売れるらしいの。若ければ若いほどね。つまり、アスカは最も高く売れるってわけ。」

継母は悪びれる様子もなく、アスカもいる部屋の中でそんなことを言う。

双子はさすがに激怒した。

「母さん!自分が何を言ってるか分かっているのか?アスカは義理とは言え俺たちの兄弟で、母さんの子供だぞ!」
「父さんが大怪我をして大変な時に、よくもそんなことを・・・!」

しかし継母は動じない。
「お父さんを医者に見せるにしてもお金がいるの。あなたたちも当分は漁師として働けないとなると、一体どうやって生きていくつもり?
この家にはお金に換えられるものは何一つないのよ!」

とても自分勝手な継母の言い分だったが、確かに”アスカを売る”ぐらいしか家族が生きていく方法がないように見えた。
それ以外の道があるとしても、父親を見殺しにするしかないだろう。

アスカは何も言えず継母と双子の兄たちのやり取りを聞いていた。

「お前はどうなんだ、アスカ!それでもいいのか?!女になって売られるということがどういうことか、わかっているのか!!」

「ボクは・・・ボクは・・・・。ごめんなさい、ごめんなさい・・・!」
アスカはたまらず家から飛び出した。


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