勇者失格

墨汁らぼ

文字の大きさ
6 / 26

6… 青のジェイド

しおりを挟む
アスカは家を飛び出した後、行く当てもなく村の中を歩いていた。

小さい村に死人を多く出したせいで、全体的に雰囲気がどんよりとしている。
雨が降りだしそうな空も、そんな風景を演出していた。

湿り気のある空気が、優しく体を包む。

(本当の母さんが生きていてくれたら・・・)
3歳の時に死に別れてから、なるべく考えないようにしてきたことだったが、こんな日はつい考えてしまう。

アスカによく似た美しい女性だったが、性格は破天荒だったよ、と、いつだったか酒に酔った父が言った。

彼女の周りはいつも笑いが絶えなかったんだ、とも。

大人しいアスカの性格は誰に似たのか分からなかったが、優しい心は両親から譲られたものだろう。


足は自然と親友レオンの家の近くに向かっていた。

村長の家が見えた時、「いけない・・・!レオンは今、中央の騎士団を迎え入れるのに忙しいんだ!ボクが邪魔しちゃダメだ。」と思い、方向を変えようとした。

すると背後からいきなり腕を掴まれる。

「あっ・・・」

振り向くと、青い騎士の服を着ている男が怖い顔をして立っていた。

「あの、何か御用ですか・・・?腕をはなしてください!」

「お前は誰だ・・・!」

アスカは男の睨みつけるような、憎しみのこもる瞳に震えあがる。

「あ・・・アスカと申します・・・」

アスカは、この男は中央から来た騎士団だと確信していたのでなるべく怒らせないように返事をした。

「アスカ・・・!」

男は、腕を掴んだまま顔をグッと近づける。

「お前は、男か女か?!」

「ま・・・まだどちらでもありません・・・!!」

男は余った片手でアスカの下腹部を触った。
「!!や、やめてください!!」
アスカは体をねじって逃げようとするが、掴まれた腕がビクともしない。

男はアスカのズボンに手を入れ、どちらでもない性器を直接確かめ始めた。

「いやだ!やめて!」

「ジェイドさん!!」

レオンの声。

「レオン!」

レオンはアスカをジェイドからに引きはがして、かばうように間に入った。

「この者は、私の友人です。なにか、失礼なことをしてしまったのでしょうか?!」
つとめて冷静を装っているが、レオンの瞳には怒りが籠っている。

「いや・・・べつに。」
ジェイドはアスカに見せつけるように、ぺろりと指を舐めた。

アスカの身体がその指の感触を思い出してビクッと震える。
「では、この者は放免ください。ジェイド様、父が待っております。屋敷にお入りください・・・。」

ジェイドは村長の屋敷に行く途中だった。部下に伝言があると、少し横道にそれた帰りだったのである。

「おまえ・・・アスカか。いつ性別を決めるんだ?」

「あと・・・、10日で13歳になります。ボクは男になるつもりです・・・」

「ジェイド様、どうしてそんなことをお聞きになるのですか?!」

レオンは珍しく、ひどく怒っているように見えた。
アスカは、中央の騎士団の人間に失礼があっては、村を助けてくれなくなるのではないかと思って心配になる。

「ジェイド様、大変失礼いたしました。ボクは家に帰ります・・・。レオン、じゃあまた・・・。」

急ぎ足でその場を離れるアスカ。
ジェイドは冷たい瞳でその後ろ姿を眺めている。

レオンは嫌な予感がして、急いでジェイドを屋敷に連れて行った。


アスカは家にも帰れず、その後も村の周辺をさまよっていた。

すっかり暗くなると同時に生ぬるい風が吹き、小雨が降り始める。

急いで前方にあった大きな木の下で雨宿りをする。

「あ・・・」

その木が、”人魚の木”であることに気付いたのは雨が激しくなってからだった。





しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

まなの秘密日記

到冠
大衆娯楽
胸の大きな〇学生の一日を描いた物語です。

入れ替わり夫婦

廣瀬純七
ファンタジー
モニターで送られてきた性別交換クリームで入れ替わった新婚夫婦の話

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

赤ずきんちゃんと狼獣人の甘々な初夜

真木
ファンタジー
純真な赤ずきんちゃんが狼獣人にみつかって、ぱくっと食べられちゃう、そんな甘々な初夜の物語。

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

なほ
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模るな子。新入社員として入った会社でるなを待ち受ける運命とは....。

一夏の性体験

風のように
恋愛
性に興味を持ち始めた頃に訪れた憧れの年上の女性との一夜の経験

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

処理中です...