勇者失格

墨汁らぼ

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14… 煉獄の剣

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「世界を救う・・・?」
レオンは村長である父親が、その責任の重さから気が触れてしまったのではないかと思った。

「父上、そんな・・・私ごときがそんな事、出来るわけありません・・・!」

村長は未だ燃えさかる”人魚の木”を指差して言った。

「お前は私の子ではないのだ。14年前、その人魚の木の下で、ある賢者から手渡されたのだ。

”この木が紅く周りを照らす時、紅い悪魔がこの世に這いあがる。
しかしこの赤子が炎より紅き剣を手にして 世界を救う”

と。

レオン、お前は世界を救うのだ!さあ、あの炎から紅き剣を抜き出だせ!」

ゴオオオ

人魚の木は炎の渦と黒い塵を巻きあけながら唸り声を上げている。

近づくべき者以外を全力で拒絶しているかのように。

レオンは、今さっき父親に聞いたことをまだ信じることは出来なかったが、もし可能性が少しでもあるというのならやってみるしかないと思った。

一歩、進み出る。

海から上がって来た化け物が、村の家々をなぎ倒し、踏みつぶす音が聞こえてくる。

熱風がレオンを包み、皮膚を焦がすような熱さだったが、それでも進んだ。

(死んでもいい、木の中心まで、いく!)
レオンの気持ちは不思議なほど確かなものだった。

急に周りが静かになり、紅、だけが視界の全てになった。

その

中心に

小さな黒い影のようなヒトが立っている。


黒い影は聞こえない声で歌うように話した後、ニッコリ笑って、

光り輝く剣に姿を変えた。

レオンは引き込まれるように剣に手をかける。


ジリジリっ!

レオンの手が焦げた

しかし次の瞬間


パンッ



激しく燃えさかっていた炎が、一瞬にして白い灰と化して辺りに降り注ぐ。




キラキラキラキラ光りながら


レオンを取り囲むように。


レオンは少し小高い、人魚の木があった場所で、炎の中から生まれた剣を持って立っている。


「この剣は・・・?!」

村人から一斉に歓声が上がった。

「レオンは勇者だったんだ!あの化け物を倒す、勇者レオン!!」



*****

「あれが煉獄の剣か・・・」

ジェイドは村が見下ろせる山の上からその様子を見ていた。

「やはり、この村にあったのか。まさか人魚の木に隠されているとはな・・・。
手ごろな化け物でお手並み拝見としよう。」




その手に神が造りし剣を持ったものの、レオンはどうしていいのかわからなかった。

ビンビンと力が漲ってくるのは全身で感じている。しかし、さっきまでは普通の少年だったのだ。

勇者と言われても、化け物を倒せと言われても困る。

(こんな時、アスカがいてくれたら・・・!)
思い出したのはアスカの事だった。

(アスカ・・・そうだ、ボクはアスカを助けなければいけないんだ・・・!世界のためでも、この村のためでもなく、アスカのためなら・・・!)

なぜか、やれる気がした。



化け物を倒して、騎士団を追いかけ、アスカを取り戻す。


「うおおおおお!」
レオンは腹の底から声を出して、こちらに向かってきている化け物の方へ走り出す。

彼が通り過ぎるとビリビリと空気が振動するのを、村長も村人も感じていた。


側で見れば見るほど、あまりにも巨大な化け物。

何本もある触手を目にもとまらぬ速さで振り回すと、丈夫なレンガや硬い石も一撃で粉々になる。

人がそれに触れると手も足ももぎ取られてしまう。

また、ぬめりがあるので普通の剣では滑ってしまうのだった。


しかしレオンの剣は、一太刀で爆発を起こして化け物の足を吹っ飛ばした。

その刃先は化け物の肉に突き刺さり、沈み込み、切り裂く。


そしてレオンは化け物の巨大な頭上に剣を突き立て、一気に真っ二つに引き裂いて倒した。


化け物から黒い霧のようなものが出てきて、剣に吸い込まれる。

化け物は塵と化したのだ・・・。

「レオン!レオン!まさしく勇者だ!」
湧き上がる歓声は、ジェイドが見ていた山まで響き渡って来た。

「勇者か・・・それとも・・・」
ジェイドはニヤリと笑った。その手に、氷の剣を持ちながら。
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